第11話 シスコン姉妹は羨ましがる

「真恋、準備できた?」


「もうちょっと待って!」


 時刻は十時過ぎ、朝食を食べ終えた私たちはショッピングへ行くために身支度をしていた。私はどうせ服を買うのだからいいかと思い適当なパーカーとスジーンズにダウンを身につけ、適当なカバンを背負っていた。真恋は持参していた私服に着替えるとのことで、私の寝室で着替えている。

 私が寝室へ向かって声をかけると真恋の声が聞こえ、その数十秒後に扉が開いた。

 真恋は、藍色のニットに黒いデニムを身につけ、上から黒いレザーのライダースジャケットを羽織り、頭に黒いニット帽をかぶっていた。ストリート系ファッションというやつだろうか?


「早く行こう!」


「急がなくても十分時間はあるよ」


「でも電車逃しちゃったら数十分は待たなきゃでしょ?」


 早く行こうとせかす真恋を私は嗜める。どうやら真恋はまだ実家での感覚が抜けていないようだった。

 モールまでは電車で数駅ほどの距離にある。実家に住んでいたときは、確かに一度電車を逃したらその後数時間とは言わないが、数十分程度は次の電車が来なかった。だが今いるのは東京だ。


「地元じゃないんだから、次の電車なんてすぐだよ」


「あ、そっか!」


 私の言葉に納得した真恋は、それでもはやる気持ちが抑えられないらしく、私の手を引いて早く家を出ようとせかす。私は、そんな真恋に連れられるように家を出た。


 ♡ ♡ ♡


「やっぱり都会の駅は大きいんだねぇ」


 家を出て歩くこと数分、私達は最寄り駅に辿り着いた。


「こんなのまだまだ小さい方だよ、東京駅なんか小学校が何個も入るくらいには大きいよ」


「本当!?うちの最寄り駅なんてせいぜい体育館なのに」


「駅舎があるだけマシじゃないかな?本当に地方の方だとコンクリの土台の上にちょっとした屋根があるだけで、電車も1時間に一本くらいだし」


 そんなことを話しながら私たちは改札を通りホームで電車が来るのを待つ。その間特にすることもなく、私はなんとなく真恋の姿を見る。改めて私のズボラな格好と見比べてみると、彼女の服はどう考えても釣り合っていない。せめてもう少しまともな服を着てくればよかったなとも思ったが、今更後悔してももう遅い。


「お姉ちゃん、どうかしたの?」


 そんなことを考えながら真恋を眺めていると、その視線に気づいた真恋がどうしたのかと聞いてきた。


「ううん。真恋の服、かっこいいなって思っただけ」


「ほ、本当?ふふっ、嬉しいな」


 私がそう言って褒めると、真恋は恥ずかしそうにニット帽を被り直していた。その様子を微笑ましく思いながら見ていると、真恋は私の方をじっと見る。


「どうしたの、真恋?」


「いや、お姉ちゃんは普段からもっと可愛い服を着ればいいのにって思って」


 ついさっき、自分で考えたことに似たことを言われ、やっぱりかと思う。


「やっぱこの服じゃ真恋と釣り合いが取れてなかったよね。ごめん」


「あっ、いや、お姉ちゃんが悪いって言いたいんじゃなくてね」


 私が謝罪を口にすると、真恋は慌ててフォローしてくれる。


「お姉ちゃん、素材はいいんだからもっとおしゃれしたらいいのになぁって思って」


「私なんて全然だよ。真恋と違って太ってて体重も重いし美人でもないし」


「お姉ちゃんは太ってるんじゃなくてふくよかなの。胸も豊胸だし」


「そうかなぁ?」


 確かに私の胸はそこそこ大きいかもしれないが、肩は凝るし昔の服は着られなくなったし誰に見せるわけでもない、正直あっても邪魔なだけだ。


「別に、胸なんてないほうが楽でいいかな」


「お姉ちゃん、そういう軽率な発言は持たざる者を傷つけるんだよ」


 私がつぶやくように口にすると、真恋は少し呆れながらそう言う。


「私は真恋の方が羨ましいな。スリムで美人でちっちゃくて、黒髪も綺麗だし」


「お、お姉ちゃん!急にそんなに褒めないでよ!」


 私が真恋の見た目についていいところを挙げていくと、真恋は真っ赤になった顔を私から背けた。


「というか、ちっちゃいって褒め言葉?私少し気にしてたんだけど」


 真恋の身長は150センチほどだ。平均からしたら少し小さいくらいだろう。

 

「いいじゃんちっちゃくても、私は可愛くて好きだよ。それに頭撫でるのにぴったりな身長だし」


「もう、お姉ちゃんは天然タラシなんだから」


 私が改めて真恋の身長について褒めながら頭をな撫でる。真恋はさらに顔を赤く染めながらも、私の掌から逃れることはなかった。


「私はお姉ちゃんが羨ましいな。美人だし可愛いしかっこいいし、それに……胸だっておっきいし」


「私?私はそんなだよ。美人でもなんでもない、胸も邪魔なだけだってば」


「私にその胸があったら色仕掛けしてたのに!」


「なっ!ま、真恋、誰に色仕掛けするの!?」


「そ、それは秘密!」


 やはり真恋も年頃女の子なのだ、好きな子くらいいてもおかしくない。まあふざけた野郎ならぶん殴ってやるが。真恋が秘密というなら紹介してくれるまでは我慢しよう。私は多少モヤモヤしながらもその問題を棚上げする。

 

「それに、私たち姉妹で顔の作りは似てるじゃん。私が美人だっていうならお姉ちゃんも美人だよ」


「そうかな?真恋は優しいね」


 私は必死にお世辞を言ってくれる真恋にお礼を言った。真恋が褒めてくれるなら少しは自信を持てるかもしれない。


「もう、本心なのに。お姉ちゃんはもっと自分の魅力を自覚してよ」


「ふふっ、ごめんってば」


「……ボソッ(まあ自覚してないからこそオシャレに興味ないのかな?それなら変な虫が寄ってこなくて私としては好都合かも)」


「真恋、何か言った?」


「ううん、なんでもないよ」


 そんな会話をしていると、ホームへ電車が入ってくる。


「おーほんとに数分で来るんだ」


「私も上京したての頃は思ったなぁ」


 私たちは電車へ乗り込む。目的の駅はここから数駅だ。

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