第6話 藤咲愛純はケーキ屋を尋ねる

 今まで愛純が上京してから四年と書いてましたが、三年でした。

 修正してお詫びいたします🙇‍♂️

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「よーし、それじゃあ真恋、仲直りのお祝いをしよう!」


 ひとしきり明日の予定について話し合った後、私は真恋にそう提案した。


「お祝いって、もう夕食食べちゃったけど」


「駅の近くにケーキ屋さんがあるんだ!今から行って買ってくるよ!」


「悪いよそんな、もう七時過ぎだし」


「大丈夫、本当にすぐそこだから!それに私、ここ三年間の真恋の話も聞きたいな」


「……それじゃあお願いしようかな」


「うん!行ってくる!」


 真恋の返事を聞き、すぐに財布を持って家を飛び出す。ケーキ屋の営業時間は確か二十時まで、今から行けば十分間に合う。


「待ってて真恋!すぐに買って来るから!」


 私はマンションの外に出ると、ケーキ屋絵を目指して駅方向へ向かって歩き始める。

 私の住むマンションは閑静な住宅街の一角にある。マンションや、一軒家から溢れる灯りと街灯が照らす歩き慣れた道は、なぜかいつもとは違う気がする。

 

「あ、ここお店あったんだ」


 ケーキ屋への道を歩いていると、今まで気づかなかったお店を見つけた。よくよく見れば、他にも今まで気づかなかった公園やバス停などがある。

 

「今まで、こんなに周りが見えてなかったんだ」


 やはり真恋と仲直りできたお陰だろうか?償うためでなく、楽しむために生きていいのだと、そう思えているような気がする。


「あ、急がないとケーキ無くなっちゃうかも」


 今まで気づかなかった街の景色に見惚れて気付かないうちに足が止まっていた。時間には間に合うとはいえ閉店間際、あんまり遅くなってしまうとケーキがなくなってしまうかもしれない。


 道なりに進んでいくと地元の木造のものとは天地の差がある駅舎が見えてくる。これでも東京ではまだまだ小さい方だというのだからやはり東京は異次元だ。

 今日は駅に用はないので、駅前のロータリーの右手にある商店街へと入っていく。すでに夜と言っていい時間の商店街はほとんど人はいなく、居酒屋などの灯りがまばらについているのみだ。そういえば物置に引っ越し祝いでもらった秘蔵のワインがあったなと思いながら商店街を抜けると、少し広めの公道の向こう側に『Lily garden』という看板の照らされたケーキ屋が見えてきた。

 

 車が来ていないか確認した後小走りで道路を渡る。冷えた空気が私の肌をうち、上着ぐらい羽織ってくればよかったと思いながらもケーキ屋へ辿り着くと扉を開け店内に入る。

 店内はショーケースのある店舗スペースと、机の並んだイートインスペースに分かれている。この時間帯にしては珍しく一組の親子連れがイートインスペースにいた。どうやら小学生くらいのツインテールのかわいらしい女の子が母親にケーキをねだっているらしい。昔、母にケーキをねだる真恋の味方をしたな、と懐かしい気持ちになった。


「いらっしゃいませ、って愛純さん、珍しいですね」


 私の来店に、店番のギャルが話しかけてくる。


「うん、ちょっとケーキが欲しくて」


「あれ?なんか雰囲気変わりましたか?なんだか明るくなったような気がします」


「そんなことないよ」


「それに背も伸びましたねぇ」


「まだ春休み始まって数日でしょ?久しぶりに帰省した時のおばあちゃんじゃないんだから」


「ほら、前ならこんなボケ『そんなわけないでしょ』って言って流してましたよ?やっぱり変わりましたって」


「そう?うん、やっぱそうかもしれない」


 家の周りのことすら詳しく知らない私がケーキ屋のことを知っていた理由。それはこの店が私の唯一の大学の友人、百合園牡丹ゆりぞのぼたんの実家だからである。


 私が大学に入ったばかり頃、その頃私は真恋と仲違いしたばかりであり非常に荒れていた。そんな私の周りからは人がいなくなっていったし、私自身とても馴れ合いをする気にもなれなかった。その中で、結局私が諦めるまで付き纏っていたのが牡丹だったのだ。


「何かいいことでもありました?」


「それがね、今日家に妹が来てて」


「え!?それって喧嘩してた妹ちゃんのこと?大丈夫?ちゃんと話せた?」


 真恋が家に来ていることを話すと、牡丹は心配そうに聞いてきた。


「牡丹って、見た目はギャルだけど全然ギャルじゃないよね。なんというか、お淑やか?」


「まあこれ地毛ですしね。私もギャル?風の話し方ができるように誠心誠意努力しています!」


「別にそこは努力しなくてもいいと思うけど。確かハーフなんだっけ?」


「正確にはクォーターです、祖母がノルウェー出身で、その遺伝なんです。顔なんかは日本人寄りなので髪色だけですね」


 牡丹は見た目こそギャルだが、その実中身はおっとりとした性格だ。そのため勘違いせれ、毎年新入生のギャルたちに囲まれてしまいおろおろするのが恒例の行事となっている。


「って、私の話はいいんですよ。今は愛純さんの話です」


「あー、なんというか。私の早とちりというかなんというか。とにかく仲直りできました」


「本当ですか!それはよかったです!」


「それで、今日はそれと真恋の高校合格のお祝いを兼ねてプチパーティーをするんだ」


「なるほど、それでケーキを買いに来たんですね。それじゃあどれにします?もうあまり残っていませんけど」


 ショーケースの中は、何種類かのケーキが1つずつ残っている状況だ。この時間帯まで残っているのだから珍しい方だろう。


「真恋は確かモンブランが好きだったな」


 ショーケースからモンブランを探すと、運よく残っていた。


「それじゃああとは……」


 そう言って私はショーケースの中を眺め、1つのケーキに目が留まる。


「それじゃあこの期間限定のいちごたっぷりのショートケーキを1つ」

「いちごたっぷりのショートケーキください!」

「「へ?」」


 私の声に続いて、店内にもう1つ声が飛ぶ。声の方向を見ると、先ほど母親にケーキをねだっていた女の子が私と同じケーキを注文していた。

 

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