第3話 自堕落姉はほんわか母に助けられる

 リビングへ入ると、真恋が私の方へ駆け寄ってきた。


「姉さん、電話終わった?」


「うん、終わったよ。真恋、お母さんにウチついたって連絡してなかったでしょ?」


「あっ……怒ってた?」


「怒ってるとこ想像できる?」


「あははっ、それは確かにできないや」


 少なくとも私は今まで生きてきて母が怒ったところを一度も見たことがない。それに、あのほんわかした母のことだ。怒ったとしても自分でプンプンとか言いながら起こるのではないだろうか?


「それはそうと、真恋はなんでうちに来たの?お母さんに聞いたら真恋が教えてくれるって言ってたんだけど」


「あーまだ言ってなかったね。それはねぇ――」


 その時、ぎゅるるるるる、という音がリビングに鳴り響いた。


「……あ、あはははは、私お腹すいちゃった」


 恥ずかしそうにしながら真恋がそう言う。時計を見るとすでに18時を回っていた。夕食にはちょうどいいだろう。

 

「それなら、夕食を食べながら話をしようか」


「うん!姉さんのご飯楽しみだなぁ」


「うん、任せ――あんまり期待しないでね」


 私はつい昔のノリで答えようとして、真恋がくる前に準備していたものを思い出した。ハムエッグとサラダが一人前に少し足らないくらい。このままでは量はもちろん、クオリティもお粗末すぎる。


「今から買い出しに行くのもなぁ」


 とはいえこれを二人で分け合うのも侘しすぎる。


「あ、そうだ姉さん」


 そんな私の元へ真恋が尋ねてくる。


「これ、母さんが持って行きなさいって、野菜とか色々。よかったら料理に使って」


「!あ、ありがとう」


「料理楽しみにしてるね」


 そう言って真恋は台所から去っていった。真恋が持ってきたエコバッグの中を覗くと、いくつかの野菜やレトルト、インスタント、缶詰などと一緒にメモが入っていた。


『これで美味しいもの作ってあげてね♡ byママ

 p.s. たまには顔見せてね』


「ありがとうお母さん。顔を見せるのはもう少し時間はかかるかもだけど、きっと見せに行くよ」


 そのためにも真恋と再び元の姉妹に戻らないといけない


 私はエコバックから追加のサラダと料理用の野菜を取り出し切る。切った野菜の内にんじん、玉ねぎ、じゃがいもを鍋で炒め、そこに水を加え灰汁を取り除いていく。

 その間に残りの野菜を皿へ盛り付け二人分のサラダを準備し、できたサラダに一度ラップを掛け冷蔵庫にしまう。

 野菜が十分煮込めたらカレールーを入れる。お肉はなかったので代わりに焼き鳥缶の焼き鳥を入れ、カレーにとろみがつくまで再び煮込む。

 それを待っている間に電気ケトルで湯を沸かし、インスタントの味噌汁を作る。


 出来上がったものを自分用と、来客用のお皿に盛り付けていく。全ての盛り付けが終わったらリビングのテーブルへと運ぶ。例の如くテーブルはとっ散らかっているが、二人で食事をする程度のスペースはあるため今はとりあえずよしとする。


「真恋、できたよ」


「はーい」


 私が真恋を呼ぶと、真恋はすぐにテーブルへ駆けつけてきた。


「姉さんのカレーだ!懐かしー!」


「ありもので作っただけだから味はちょっと違うけどね」


 そういえば、上京する前、私と真恋の二人でお留守番するときもよくカレーを作っていた。なぜか真恋が私のカレーをひどく気に入ってよくねだられてたのだ。どうせだったらもっとちゃんと作りたかったな。まあ私が買い出ししてなかったのが悪いんだけど。


「それじゃあ食べようか」


「うん!いただきまーす!」


「いただきます」


 私は料理に手をつけず、真恋の反応を伺う。真恋はカレーを口へと運んでいく。


「あむ……ん!」


「な、何!?何かおかしかった!?」


「美味しい!姉さんの味だ!」


 真恋の声にどこかおかしかったかと不安になったが、どうやら失敗わけではなかったようだ。


「私の味って、今日は手抜きしててとてもあの時の味じゃ」


「それは関係ないよ、姉さんの味っていうのは素材の味じゃないから」


「そ、そう?それならいいけど……」


 あまり真恋の言っていることは理解できなかったが、それなりに好評なようだったのでよかった。


「……ボソッ(うん、やっぱり)――」


「ん?なんか言った?」


 真恋の言葉が聞き取れなくて聞き返す。


「ううん、姉さんは変わってないなって」


「そ、そうかな?私としてはかなり変わったかなぁって思ってるんだけど……」


 一人暮らしを始めてから、かなり生活が荒れてしまった。それでも変わっていないというのは昔から取り繕っていたのがバレていたのだろうか?


「私は真恋の方が変わったと思うな」


「あー、そうかもね……私も色々あったから」


「色々……」


 その色々とは私が家を出た後の話だろうか、それともやはりキスの――


「……ねえ真恋、ちょっと聴きたいことが――」


 私が決心し真恋に当時のことを聞こうとした時――


 ピーンポーン、と本日二度目のチャイムがなる。


「……私、出てくるね」

 

「うん、いってらっしゃい」


 瀬角の決心が鈍ってしまったと来客に不満を募らせながらも玄関へと向かう。苛立ちをぶつけるように気持ち強く扉を開く。


「はーい、どちら様ですか?」


 そんな私の目に飛び込んできたのは


「こんにちは〜、クロコ引越しセンターで〜す」


 少し間の向けた返事をする青年と――


「――は?」


 大量の段ボールの山だった。

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