第6話 健五の趣味

 ころりろりん。

 就寝前、着信音がして四磨が携帯電話を見ると、健五から個人的にメッセージが届いていた。

 通知の文言は、『kengo♪が写真を送信しました。ほか五件』である。

 何だこんな時間に、とは思いつつも、可愛い弟からのメッセージなので、四磨はベッドの中ですぐにそれを開く。

 メッセージの一番上は――。

『ニトにーちゃんの日記だよ☆』

 他人の日記を勝手に見ておいて、それを兄弟とはいえ他人に拡散するなど、最低レベルに趣味の悪い奴だ――そんなことを考えながらも、四磨はつい、その下に送られてきていた写真を見てしまう。

 一枚目の写真は、A6サイズのノートの一ページをうつしたものであり、そこには、大きな、大人っぽくも丸っこい字で――。

『二〇六一年、四月二十五日。今日、お向かいのおうちに女性が引っ越してきた。榎本さんという方だ。若いのに、何だか疲れた顔で、独り身だという。少し心配だ――』

 四磨は恥ずかしくなって最後まで読めずに、二枚目の写真を見る。

『二〇六一年、七月三日。榎本さんにお野菜を持っていくと、とても喜んでくれる。無理して笑っていないか心配だが、今日もまた、トマトを持っていってしまった――』

 三枚目の写真には、

『二〇六一年、九月十日。榎本さんの下の名前は、平仮名で、ふたばさんというそうだ。とてもよく似合っていると思う――』

 四枚目の写真には、

『二〇六一年、十一月十七日。自分は本当に、ふたばさんのことが好きになってしまったようだ。今日、お芋を持っていった時に、勢いでデートに誘ってしまった――』

 五枚目は、

『ニト♡フタバ 祝♡初デート大成功♡♡♡』

 と書かれた、健五の変顔写真。

『ニト兄ちゃんに謝っとけよ』とだけ返信して、部活と自主トレーニングで疲れていた四磨は、眠りに落ちた。

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