第2話 二都の考え
今晩の
四磨と健五は今日のできごとを喋り、蛍一は星形の人参を嬉しそうに眺め、七那はそれを目を閉じて飲み込み、弥六はカレーライスのライスをもやしのサラダにかけて食べている。
二都はそんな兄弟たちを、幸せな気持ちで見守る。
二都は高校を卒業すると、国立の四年制大学も
その理由は、世間的に立派な職業や学問は、二都には向いていないと思ったし、あまり興味も無かったから。
「あ、そうだ、ニト兄ちゃん」
二回目のおかわりを持ってきた四磨が、カレーとライスの境界の部分を、自家製の
「お
「お向かいさん?」
向かいの家は、長年
「そそ。帰ってきたらさ、ハウスクリーニング? みたいな会社の車が出てくるところだった」
言いつつ四磨は、二回目のおかわりのカレーライスを
「ああ、そうなんだ。それは楽しみだね」
以前住んでいた老夫婦はガーデニングが好きで、花の自慢話を聞いたり、互いの家庭菜園でとれた野菜をお
「良かったね、ニト」
蛍一が、もやしのサラダをもぐもぐしながら、全世界に平和をもたらす笑顔を二都に贈る。
その時、いくつかの携帯電話が同時に、それぞれの着信音を鳴らす。
ぴろりん。
ころりろりん。
ぴよん。
じゃんじゃかじゃかじゃんどっしゃんしゃん!
ヴーッ、ヴーッ。
「サヤ
いち早く兄弟のグループチャットに届いたメッセージを確認したのは、ポケットにスマートフォンを入れていた七那である。
「俺が行く!」
四磨は残りのカレーライスを掻き込み、立ち上がる。
「ううん、僕が」
蛍一も、
「二人とも、いいって。ゆっくりしてて」
二都は、二人の肩を全力で押し込んで座らせる。
「シマはまだ、大きい車を一人で運転させるの怖いし、ケーイチ兄ちゃんだって疲れてるんだから、運転なんか危ないよ」
それに、三夜の話も聞きたいし――。
「はいじゃあごゆっくり。いってきます」
二都は二人に言い返す隙を与えず、車の鍵を持って、家を出る。
いつもの夜道を走って、見慣れた小さな駅のロータリーに車を
「お疲れ様」
後部座席に乗り込んだ三夜に声を掛けると、三夜は「うん」とだけ言って、布のケースに入れたギターを
「
信号で止まった所で、ルームミラー
「また今度にする。あんまりいい所無かったし、ナナがいるし」
三夜はスマートフォンから顔も上げずに答える。ブルーライトに照らされた
――やっぱり、練習の後は疲れているかな。
「そっか」
高校卒業後、音楽の道に進んだ三夜は、バンドの練習場所やライブハウスに近い所に
その理由の大部分は、
小さい頃から
七那はもう高校生だから大丈夫――とは言えないし、三夜は、
「明日の練習は」
「十時から」
「じゃあ、いつも通り、七時半の電車ね」
「うん」
――三夜の話を聞きたかったのに、そんな、いつも通りの会話しかできなかった。
「腰、どう」
二都は家事や畑仕事をやりすぎるあまり、しょっちゅう腰を痛めるのであった。
「大丈夫。最近、調子いいんだよ」
「そりゃ良かった」
三夜の話を聞きたかったのに、こちらの心配だけさせてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます