選ばれなかった僕たちは
柿月籠野(カキヅキコモノ)
美崎家の七人兄弟
優しいお向かいさん
第1話 愛しい兄弟たち
戻りますか?
はい →いいえ
* * * * * * *
春。
この家に暮らす七人兄弟の
「ただいま」
最初に帰ってきたのは、一番下の弟、
「おかえり」
二都は、保育園の先生を思わせる笑顔と、包容力のある体に
「お弁当箱、出しといてね」
「ん」
七那は口を閉じたまま返事をして、シンクに
部屋では、ゲームをするのか、音楽を聴くのか、インコのぽにちゃんと遊ぶのか。二都には分からないが、いずれにせよ、七那の大切な時間である。
「ありがとね、ナナ」
二都はキッチンへ入ると、
七那の弁当箱はいつも空だが、どうしても食べられずに残した野菜を、兄を傷付けぬよう、学校のゴミ箱にこっそり捨ててきていることを二都は知っている。七那は、高校に入ったばかりとは言え、部活も委員会もアルバイトもやらず、友達もいないようだ。しかし、七那が誰にも負けない優しい心の持ち主であることは、兄たち
「ただいまぁ」
次に帰ってきたのは、
「おかえりぃ」
弥六ののんびりとした口調につられ、夕食作りに取り掛かっている二都も、のんびり喋りになってしまう。
「ミロク、お弁当箱出しといてね」
「はぁい」
弥六は返事をすると、スクールバッグに手を突っ込み、
「ニト
弥六が取り出したのは、弁当箱ではなく、お座りをした
両手に収まるほどの大きさのそれは、ふんわりとしたボア
「わあ、上手。かわいいね」
「ありがとぉー」
弥六の手に
「ニト兄ちゃんにあげるー」
弥六は埃を生み出すのをやめ、仔犬のぬいぐるみを二都に差し出すが、二都の両手は野菜を切っているために塞がっていることに気が付いたので、二都の背後に回ってズボンのウエストを引っ張り、背中とズボンの間にできた隙間にぬいぐるみを押し込む。
「ありがとう。嬉しいな」
弥六のお陰で、七人兄弟の部屋は全て、
「んふふー」
弥六は、
ズボンの後ろで、仔犬が、きゅ、と鳴いたような気がして、二都は弥六が弁当箱を出していないことを思い出す。
「ただいまーっ!」
次に帰ってきたのは、弥六と双子の
健五は、弥六と見た目はよく似ているはずなのだが、眼鏡が無いせいか、あまりにも雰囲気が違うせいか、言われなければ双子とは分からない。
「おかえり。ケンゴ、お弁当箱ね」
「うん! あのねニト兄ちゃん! テニス部の一年生がね! みんなすごくてね!」
二都は、元気よく
「あとね! 保健委員の集まりでね!
やっぱり。
健五が漫画よりも美しく転倒し、弥六と
「ケンゴ! ちょっと、大丈夫!?」
健五のおっちょこちょいは毎日――いや毎時間――いや毎分、毎秒のことであるが、二都はいつも、心配なのだ。
「だいじょぶ。えへへー」
二都に助け起こされた健五は、どうやら怪我は無いようで、幼さの残る顔で照れ笑いをして、頭を
「あ、そうだ、ニト兄ちゃん」
健五は、二都に
「今日のお弁当、上の段も下の段も、どっちもおかずだったよ」
「え! ごめんね!」
バタバタしていて間違えたのだろうかと、二都は慌てて朝の様子を思い返す。
健五と弥六の弁当箱は、二人の希望でお
「でさ、ミロクがご飯だけになってるでしょ。それで、おかず
健五(と二都)のおっちょこちょいもそうだが、弥六の天然――と言うべきかは分からない何かも、相当なものである。
「んじゃ、シャワー浴びてくる!」
二都が言葉も出ないでいると、弁当箱と箸を置いた健五は手を振って、風呂場へと走っていった。
「ただいま!」
次に帰って来たのは、
「おかえり」
「ニト兄ちゃん、今日も一日ありがと!」
四磨は、全人類の悩みを吹き飛ばす笑顔で言うと、
「あれ、いいのに。学校の課題とか、あるでしょ」
「今日も楽しかったなー!」
四磨は二都の言葉を無視して、今日あったことを楽しげに喋り始める。
「教授が授業
四磨は、あははは! と大声を上げて笑う。
彼の将来の夢は、幼稚園の体育の先生。その夢のために、昨年度から体育大学に通い、体育教育学部で保育士資格の取得を目指しながら、体操部で活動し、
「あとさ、学童保育の三年生の女の子がさ、おやつ配るの、手伝ってくれたんだ! お姉さんになったなー!」
二都は、そんな四磨の話を聞くのが、とても好きだった。
「ただいまー」
次に帰ってきたのは、
「おかえり」
「ケーイチ兄ちゃんおかえり! 弁当箱ちょうだい! ついで!」
四磨は泡だらけの手を伸ばして、蛍一から弁当箱を受け取る。
「ありがとう、シマ。――ねえ、ニト」
蛍一は、スーツのジャケットを着た上半身でキッチンのカウンターに寄り掛かり、全人類の怪我と病気を
「今日のりんご、うさぎさん」
蛍一は笑ったまま首を
「そう。うさぎさんにしたよ」
二都は
「ありがと、ニト」
蛍一はどうしてか、弁当のりんごがうさぎさんになっていると、嬉しいのであった。
「どういたしまして」
――しかし、そろそろ蛍一の髪は
「お風呂
風呂場から走り出てきた健五は、一人で嵐の
「ニト兄ちゃん、お手伝いする!」
健五の、仔犬のように
しかし、二都の脳内にはもちろん、さっきの美しい
「お手伝い!」
健五の、仔犬のように潤んだ瞳が、二都を見上げている。
「あ、いや、その……」
「だめ……?」
健五の、仔犬のように潤んだ瞳が、二都を見上げている。
「ええと……」
「おてつだい……」
健五の、仔犬のように潤んだ瞳が、二都を見上げている。
「お、お願いします……」
「任せあー!」
食器棚に向かって大転倒しそうになった健五を、四磨が、体操部で鍛えた体幹を
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