襟すぐりの恋
レン
出会い
高校2年生の秋、
なんせ、その首元のあざはただのあざではないかった。
自分の本当に愛する人に選りすぐられてつけられたキスマークだったのだ。
しかし、愛する人は言う。
「私は君のことを遊んでる。私はクズだから私から離れた方がいいよ。」と。
私は心で繋がることを求めていたが、彼女は私には体で繋がることしか求めていないらしい。
どうしてこうなってしまったのだろうか。
どこかで間違えたのだろうか。
今思い返せば最初からそういう関係にしかならないような出会い方をしてしまったかのようにさえ感じてしまう。
私は何を間違ったのか、もう心で繋がるのは無理なのか、首元に手を当てながら一人、物思いに耽る_______。
高校2年生の春、辺り一面が草花で生い茂るなか学校へと向かう。
道中のコンビニには春スイーツが並び、
花屋からは真っ赤なポピーや桜色のチューリップから春の香りが漂う。
そんな麗らかな春に私の恋は芽生えた。
春、つまり新年度はもちろんクラスが入れ替わる。それだけでなく、僕は今年から学習コースも変わることになっていた。そのせいで新しいクラスに知った顔がいないのは分かっていた。そんな新クラスに期待などできるだろうか。
僕は大きな不安を抱えながら地下鉄に乗った。窓には逆さまになった不安げな自分の姿が揺らいでいた。
そうして学校の最寄駅に着いた。
僕はいつも学校には人一倍早く行くことにしていた。
人混みが苦手だからだ。
おかげさまで学校への道のりは車の音しか聞こえない。
1年間、毎日聞いた音。
1年間、毎日歩いた道。
1年間、毎日通った学び舎。
いつもと何も変わらない日常。
日常は僕の不安をかき消してくれた。
気づけば学校に着き新しい教室の前に立っていた。教室の扉がやけに大きく感じる。
この扉の先は非日常だ。
非日常に足を踏み入れると、中は静まり返っていた。
僕は自分の席につき、一欠片のブラックチョコレートを食べる。
中学校から続けているモーニングルーティンで非日常を日常に変えようと試みたのだ。
そうしていると、二人の女子が私の座席を取り囲むかのように座った。長身で活発な子と一見お淑やかで艶やかな長髪の子だった。
どうやらその二人はかなり仲が深いと見える。
予想は的中し、僕の席の近くで楽しそうにおしゃべりを初めた。
もちろん友達がいなかった僕は孤独を隠すようにスマホで友人のSNSを漁る。そんな行為も長くは続かず結局は電源を落とす。
画面には孤独な自分の姿が反射していた。
恥ずかしがり屋だった僕は自分が独りである事実に耳を赤くする。
早く終われ。何度もそう唱えたが、唱えれば唱えるほどに1秒が長くなっているような気がした。
そうしているうちに、気づけば授業
うちは進学校だから初日からいきなり授業だったのだ。周りは嫌がっていたけれど、僕にとっては授業は私を孤独の沼から
記念すべき初授業は世界史だった。
授業の用意を整え、耳を傾けると、世界史の教師はこう言う。
「席をくっつけてください」
助かった。
その教師は隣の子と仲良くなる機会を恵んでくださったのだ。ありがたや、ありがたや。
頭の中で感謝しながら授業中でなくても独りから解放されるかもしれないと考えながらセカセカと机をくっつける。
そうして初めてはっきりと隣の子の姿を見た。
さっきの二人の女子のお淑やかな方だろうか。
艶やかな髪、綺麗な二重瞼にハリのある肌、
それにどこか凛々しい雰囲気を持っていた。
小難しく書いたが、男子高校生の思考回路は単純だ。要は可愛いと思ったのだ。
僕は心臓の鼓動を感じながらその子の隣に座り、教師に言われるがままに自己紹介をした。今度は二人ともお互いのほうを向く。
ここでも恥ずかしがり屋が発動してしまい心臓をさらに激しくさせる。
僕は平然を装いながら目を見て話した。
驚くほど綺麗な目に思わず見惚れてしまう。ましてやついさっきまで独りだったのだ。今現時点でもこの子に依存してしまいそうになる。しかし、あくまで授業中であったため幸せな時間は教師の声掛けによってあっさりと終わってしまった。
話し終わった後もしばらくその子のことを考えては、横目でその姿を見る。指が細く、腕も綺麗で華奢。なんて可愛いんだろう。そんなふうに見惚れているとふと目が合い、咄嗟に目を逸らしてしまった。この時に見られた真っ赤な耳は今でも時々いじられる。
隣の子があんなにも可愛いと知ってからは新しいクラスにそこまで不安を抱かなくなった。むしろ期待さえしてしまう。
もちろん、友達ができた影響もあるだろう。
けれど、彼女の存在は新しいクラスへの期待を大きく膨らませてくれた______。
襟すぐりの恋 レン @shu__kifuyu
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