第13話 攻撃の防御
ウォームレット砦――
ベンピン山脈の麓にある目的の砦へ、俺たちは到着することに成功した。
極少数の砦に残っていた兵士らが総出で出迎え、民間人たちを収容していく。
しかし敵の奇襲だったり、怪我や病気が悪化してしまい道中で何人も命を落としてしまった。
サーモ伯爵は「それでも想定よりはずっと多い人数が到着できたよ」と俺の奮闘を褒めてはくれる。
でも、その手は震えていた。
俺に怒っているわけじゃあない、それは間違いないんだけれど。
それでもなんだか居心地は悪いな。
兵士たちが戦の準備を始め、防衛設備が問題なく稼働することを確認していた。
俺もそちらに混ざり、兵器の使い方とかも聞いておく。
俺はスキルの攻撃力は抜きんでているけど、それ以外はガチでクソザコだからな。
筋力とか、村娘と腕相撲したら負ける自信があるレベルだ。
何かあったときには、こういう兵器に頼らざるを得ないからな。
「魔王軍です!」
そうしている間に、敵はやってきた。
魔王軍。
なるほど、あれが本部隊か。
多くね?
俺は城壁の上から、砦の前にずらりと並ぶ敵兵の戦列を見てポカンと口を開ける。
いや尋常ならざる数の魔物がいる。
地平線から地平線までとは言わないが、これ100や200じゃないだろ、1000単位だろ。
しかも、この魔物は有象無象で勝手気ままに突っ込むような連中じゃあない。
そんなガチガチの軍人が1000以上だ。
ここまでくると笑えるな、そりゃ最強の軍事国家だろうと負けるわ。
なお、こっちは民間人込みで400人いくかどうかだが、戦える人間に限ればもっと少ない。
農民の青年どころか、まだ10歳にも満たないが石を投げる程度ならできる男の子とか含めても100人に満たないだろう。
ヘルム峡谷でももうちょっと手心があったぞ!
「来たぞ!」
「攻めてきた!」
「矢を番えろ!まだ撃つ……いや撃て!撃て!この数だ、撃てば当たる!」
しかも合図とか、何かお互いの主義主張の言い合いとか罵り合いとかなしに、いきなり開戦かよ!
本当に国際条約はおろか、戦争のルールとかすらないんだな!
「【
ズドドドドドドドッ
俺も出し惜しみしていられない、【糞射出】の先制攻撃だべ!
俺の尻から放たれた糞便の銃弾が殺意の唸りを上げて魔物たちに殺到する。
それらは魔物の肉体をやすやすと貫き……いや?!
貫通していない!盾やら鎧やらを破壊はしたが、怪我しているだけで倒し切れていない!
負傷した魔物たちは、近くに居た魔物がすぐに抱えて後方に下がっていく。
その魔物が抜けた戦列の穴を、後ろに居る魔物が埋めて前進を継続……
スパルタかよ!
「硬い! 弓が通じない!」
「構いやしない!撃て撃て!」
「防御魔術を使っているのか!」
兵士たちが放った矢や銃も、あまり成果が上がっていない。
勿論まったく効果がないわけじゃあないんだが、負傷した魔物はすぐに下がり別の魔物が前に出るのだ。
魔物らは大きな盾を構え、一歩一歩こちらの砦に接近してくる。
「この!【
ブボォォォォォォォンッ!!
尻から放たれた糞便が魔物たちのいる場所で爆発!
着弾地点から発生する、周囲を破壊し引き裂く爆風が魔物たちに襲い掛かる。
【糞射出】は凌がれたが、さすがに【糞爆弾】ならば受けきれないようで、いっきに数十人を吹き飛ばすことに成功する。
おおおお!と味方から歓声があがるが……
「……やっぱり硬いな……!」
俺は冷や汗をかいた。
リクシール王女の軍勢の時は、【糞爆弾】でもっと多くの魔物を一度に吹き飛ばすことができたのだ。
それこそ、戦局をひっくり返すことができたくらいには。
しかし今回は数十人程度……相手は相当に防御を固めている。
こんだけ硬いと、単に鎧とかだけじゃあないな。
さっきも言われたが防御系の魔術をかけてあるんだろう。
だが、逆に言えば数十人を吹き飛ばせるのだ、何度でも繰り返してやれば……!
「あれが、人間の切り札か」
「そのようですな。逃げ帰ってきた高官らの話どおりです」
魔王ジャーニスは本陣指令室にて、
机に置かれている地図、人間側の方に一際大きな駒を置く。
状況は随時報告されており、魔王自身も時折、双眼鏡などをつかって状況を観察していた。
「なるほど、確かに火力が抜きんでている。
防御魔術とアダマンタイトの鎧を着た歩兵らを、こうも吹き飛ばすとは。
あれを食らえば私とて無事では済まんな。
負傷兵はすぐに下げよ、士気に影響する」
「はっ」
「確かに厄介で強力な相手だが……。
さて、しかしそれが、いつまで続くかな?」
魔王ジャーニスは、爆発音の響く戦場の方向を見ながらにやりと笑った。
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【ウォームレット砦】
ベンピン山脈ふもとにあるフンボルト王国の砦。
元は隣国であるオマール共和国からの侵攻を防ぐためのものだった。
魔王軍はこの砦のある方とは別のルートから進軍してきた。
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