第12話 制空の奇襲
ウォームレット砦へ向かう道中にて――
王様の命のもと、貴族や騎士たちは走り回り生き残った民たちに声をかける。
全員が持てるだけの荷物を背負い、列を作る。
病人や怪我人、老人などの動けない人たちは数少ない馬車や荷車に乗せて移動だ。
移動できないほどの重傷者や老人は、尊厳死を選んだ。
騎士により安息を与えられた彼らは、今は永遠の眠りにつき、火に焼かれ弔われている。
……ああ地獄だ。
なるほど、これが地獄なんだ。
俺の握りしめた手に、血が滲んでいた。
皆命が掛かっているからだろうか。
混乱が起きることもなく、半刻もしないうちに支度が完了した。
国民全員が、騎士が、貴族が、王でさえも、長年住んで愛してきた王都を捨てて砦へと向かう。
自身の馬を病人の運搬に貸し出しているため、王様ですら徒歩で移動するというあまりに惨めな光景。
王様はなんども王城を振り返っていたが、しかし決して足を止めない。
だが決して別れは言わない、また戻ってくるのだと、心に決めているんだろうな。
砦までは、この調子だと数日もあればつくらしい。
その間に奇襲がないことを祈っていたが……。
「むっ!」
俺の【
最大までスキルレベルを上げているので、現在は半径114514m内まで認知可能だ。
近づくほどに対象の詳細が判明する。
身長、体重、性別、便の硬さ、何を食べたのか、便量、内臓の形状……
「サーモ伯爵!敵が近づいています!
あちらの方向――相手は空を飛んでいます!」
「わかった! 魔王軍精鋭の
サーモ伯爵が背負っていた巨大な弓を取り出す。
斧がもっとも得意な得物だが、こういった武器も一通り使えるとは本人の弁だ。
なお、サーモ伯爵は最初に見た貴族っぽい恰好……なんか首元に|ナプキンみたいなタイジャボがついた青いタキシードに膨らんだ帽子、という姿ではない。
上半身裸で、
肩の部分に魔犬の頭がそれぞれ乗って、頭にも魔犬の上顎が乗っかっている。
太っちょだと思っていた腹は、確かに膨らんでいるけど筋肉でバッキバキだった。相撲取りみたいな。
どう見ても山賊です本当にありがとうございました。
「敵襲! 鳥魔人だ!」
「銃士!弓士!構え!」
俺が示した方向の空に、何か動くものの姿が見える。
それはすさまじい勢いで近づいてきていて……瞬く間に、それが羽の生えた人型の魔物であると分かる。
一見して天使のようにも思えたけど、顔つきが鋭かったり足が鳥のそれになっていたりと、猛禽類を思わせる姿だ。
鳥魔人たちは高度を維持しながらこちらの上空を飛び、上から石を投げ落としてくる。
重力加速度に従うそれが兵士の一人に激突し、頭蓋骨を砕いて脳をぶちまけ、頭だけザクロのように開いてしまった。
負けじと、サーモ伯爵がすさまじい力で大きな弓を弾き絞り、放つ。
それに一歩遅れ、銃や弓を持った兵士が一斉射撃を行った。
ズドドドドンッ
腹に響くような銃声が木霊する。
瞬間、サーモ伯爵の放った矢や、銃弾に貫かれたらしい何体かの魔物が落下していく。
羽をやられた鳥魔人は必死に羽ばたこうとするが、そのまま地面に激突して手足が曲がらない方向に曲がった。
しかし、射落とせたのは数体、まだまだ、空にはすさまじい数がいる。
そいつらは槍を手に取り、一気に散開し始めた。
おいおい、まさか。
「敵の狙いは民間人だ!」
「動けないやつを守れ!剣をとれ!石でもいいから投げろ!」
くそっ!やっぱりか!
動けないところから的確に刈り取っていくつもりか!
幸い、相手も飛び道具はこれ以上もっていないようだが!
っていうか民間人攻撃するなよ!
勧告したけど逃げなかったやつは民間人じゃない理論やめろ!
移動手段がないのに逃げられるわけねえだろ!!
「僕に任せてください!」
「勇者殿!」
二射目を放つサーモ伯爵をしり目に、俺は尻を上にあげ空に向ける。
俺の来ている服も、この戦いのために用意してもらった特別仕様だ。
胸や腹などの急所には希少金属だという
何と言っても特徴的なのは尻部分で、なんとここには大きな穴が開いていて、その上に布をマントのようにかぶせているだけなのだ。
そのため、一々脱いだりしなくても俺は即座に
あたまおかしいのかこの鎧作ったやつは????
倫理観とかをお母さんのおなかの中において来ちゃったのかな????
合理性を求めるあまりに常識とか大事なものを捨てるのやめてもらっていいですか。
あーもう、いいもんね!
これで人間たちを勝利に導いて、未来永劫これが勇者の鎧だって言って博物館に説明付きで飾られればいいんだ!
そうしてやる!勝たせてやるよ畜生!!
「新スキル! 【
ブボォッ!!!!!
【うんこマン】の攻撃スキルの中でも特効が付いた
俺の尻から放たれる糞便が、直後に細かく砕けて散弾になった。
それは散開しようとしていた鳥魔人たちに殺到し、その身体や羽を穴だらけにしていく。
あわてて逃げようとする鳥魔人たちだが、散弾はかなりの広範囲を攻撃できるので、だいたいの狙いで数体以上を一気に殲滅できる。
鴨うちとは、まさにこのことだ。
数回撃ってやると、かなりの大部隊だったはずの相手は殆ど残っておらず、生き残りもサーモ伯爵をはじめとした兵士たちが射落としていった。
「……お見事ですな、勇者殿。
勇者殿がいなければ、今頃我々は大きな被害を受けていたことでしょう」
サーモ伯爵が微妙な顔をして、でもほめてくれる。
気持ちは分かるけど許してくれ。
それに、俺の力を借りると決めたのはそっちだろう?
俺だって尊厳切り売りしてるんだからさ。
地面に落ちて、必死にもがき、這って逃げようとする鳥魔人たちの首を蹴り砕いていく兵士たちの姿を見ながら、俺は黄昏ていた。
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【
空中に向け糞便の散弾を放つ対空攻撃スキル。
飛行状態の相手を攻撃する際、追加ダメージが発生する。
スキルレベルを上げることで加害範囲、射程距離、追加ダメージ量、消費糞便量が増加する。
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