第11話 抗戦の撤退
フンボルト王国 首都ウォシュレット――
姫魔将リクシール王女の公開処刑を機に、人々たちの希望という小さな灯火は大火となっていた。
それを野蛮だと嗤うことは誰にもできないだろう。
今まで手も足も出せず、ただ死を受け入れるほかなかった相手に一矢報いるどころか、首級を討ったのだ。
絶対に魔物たちには負けない、魔王を打倒し魔物たちから土地を奪還するのだと人々は意気込んだ。
つい数日も前には、魔物たちの包囲の前にもはや死ぬしかないと絶望の淵に居たことを考えれば、劇的な変化だと言えた。
市民も兵士も、怪我がまだ癒えていないが目は輝いている。
食糧も武器も不足しているが、しかし士気は否応なしに高まっていた。
だが、それはゲリデルン帝国の滅亡の報を知るまでの間であった。
帝国から逃げ延びてきた兵士や市民たちの姿は、再び人々を絶望させるには充分であった。
王城にて――
城内がいつにも増して慌ただしい。
もちろん昨日までは暇だったとかそんなことは決してないんだ。
復興だ、武器の修理だ、食糧の確保だ分配だ、と仕事なんてなくなりやしない。
俺も流石に見て見ぬふりはできずに、できる限りのことは手伝っていた。
戦闘能力はふざけているほどに高いのに、そういうことには全く役に立たないスキルばかりで辟易したけれど。
まあ、とにかくそういうわけで、俺も色々と城内のあちこちに顔を出していた。
だから分かるわけだ、思いっきり荒れているのが。
「まさか!帝国が落ちるなど……!」
「あの無敵の騎士団でも太刀打ちできなかったということか……」
緊急の会議が開催され、戦勝会の時のように貴族が一堂に集まり、王の御前で順繰りに座っている。
話に上がっているのは、ゲリデルン帝国から逃げ延びてきた兵士や市民らのことだ。
王前だろうと、集まった貴族らのざわめきが収まる気配はない。
不敬だろうとは思うけど、だがそれも仕方がないんだろうな。
話に聞く限り最強の軍事国家だったらしいし。
地球でいうところの
そりゃあ狼狽えるわ。
肝心の王様もかなり参っているように見えるし。
「静粛に!王の御前だぞ!」
オーキツネン侯爵が声を上げ、なんとか場に静けさが戻ってくる。
しかし、今度は耳が痛いほどの沈黙が場を支配した。
何も言わないのではなく、言えないんだ。
みんな一様に、不安な顔を浮かべ、頭を抱えたり目を抑えていたりする。
「……皆も知っての通り、ゲリデルン帝国から亡命者がやってきた。
彼らの話によれば、帝国は魔王軍に敗れ、ノーロ皇帝も処刑されたらしい」
王の言葉に貴族たちがざわつくが、侯爵が再度声を上げると静かになる。
「残す人間の国家は、このフンボルト王国のみとなった……。
魔王軍が人間の根絶を掲げている以上、間違いなく我らの国に攻めてくるだろう。
前とは違う、魔王軍の本軍がだ」
今度はざわめきすら起きず、みな一様に王の言葉に耳を傾けている。
誰かがごくり、と喉を鳴らした。
「幸いにも、わが国は勇者殿を召喚することができた。
しかし、魔王軍が強大であることは事実であり、万全を期して戦う必要がある。
……諸君らの意見を聞きたい」
王の言葉に、声を上げるのはサーモ伯爵だった。
「王都を離れ、ベンピン山脈にあるウォームレット砦に向かいましょう。
そこで迎え撃つしかありません。
ウォームレット砦には魔王軍の残存部隊がいないことは、調査済です」
サーモ伯爵の言葉に、後ろに立つカランさんが一礼する。
伯爵の家令らしいけど、実は凄腕の
そういった任務はお手の物だとか。
すげーかっこいい。うんこマンの114514倍はかっこいい。
「王都は先の戦いで城壁も一部壊され、兵器も破壊されています。
ウォームレット砦は王都に向かう線上にない場所でしたので、先の戦いでは放置されておりました。
魔物らも略奪するほどの時間はなかった様子で、設備は残っております。
それらの兵器と勇者殿のお力があれば、魔王軍とも戦えるでしょう」
サーモ伯爵の言葉に、オーキツネン侯爵や、宮廷魔導士であるベンジャミン公爵も頷く。
だが、と貴族の一人が口を開く。
「サーモ伯爵殿、民はどうする」
「むろん、連れていく。
時間がかかるのと、移動中に奇襲を受けるリスクは重々承知だけれど。
人間が王都に残っていると知ればまず先にそっちから殺されてしまうだろうからね。
……魔王軍も、帝国と戦った後だ。
流石に侵攻軍を再編成してからこちらに攻め込んでくるだろう。
悠長にはしてられないけれど、その隙に砦に逃げ込むしかない」
まあ言いたいことは分かる。
俺も手伝っていたから分かるけど、マジで王都はもうボロボロだ。
言っていた通り、城壁は木材とか壊した家屋や家具を張り合わせてなんとか維持しているようなものだし。
バリスタのような大型の防衛兵器は全部壊されてしまった。
そりゃ移動すれば隙を晒すことになるけど、ここで籠っていても勝てないかもしれない。
というか、
俺がいても勝てるかどうか未知数なわけだし。
それならここよりも遥かに設備が整っている砦に逃げ込んだほうがまだ、勝てる確率が上がるってことだろう。
「勇者殿、どうか今一度、力を貸してくれませんか」
サーモ伯爵は俺のほうを見る。
わかっているともさ。
俺だって尊厳は安売りしたくないけれど。
それで人が助けられるなら、断腸の思いで尊厳の切り売りくらいしてやるとも。
俺の
え、人前で脱糞を?!できらぁ!!
「俺も、出来る限り力を尽くします」
「どうか、頼む」
ベンデル国王が懇願するように声を上げた。
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【暗殺者】
毒薬劇物医薬品などの薬物の扱いに長けた
魔術を会得している
純粋な肉体の強さと環境にある様々な道具を武器とする技術に優れた
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