第10話 悔悟の行進
ゲリデルン帝国 首都ナンベンダ――
数あった人間の国家の中で最も軍事力に力を注いでいたのは、間違いなくゲリデルン帝国である。
ゲリデルン帝国はノーロ皇帝の名のもと周辺国家を併呑し、その広大な領土から採取できる豊富な資源を注ぎ込み、最強の軍隊を育成していた。
魔術により
さらに肥料を作る過程で火薬を精製することに気が付く。
フンボルト王国でもオーキツネン侯爵が
しかし従来兵科を即座に転換するような愚をおかすこともない。
最強の名を欲しいままにしたキレージ重騎士団による騎馬突撃は未だにすさまじい突破力を誇り、イボージ弓兵団による
間違いなく最強の人間国家はゲリデルン帝国であった。
ノーロ皇帝は、この世のすべてを呪う言葉を口にしたところで首をはねられた。
たった今、ゲリデルン帝国は滅んだ。
残っているのは、僅かな敗残兵だ。
組織だった抵抗もできない以上、あとはすり潰して終わりである。
かつで帝国の首都だった場所。
瓦礫の山に腰かけて、ぼーっと空を眺めている
青い肌に白黒目。
そして身長が2mは超える筋骨隆々とした身体を持ち、背に巨大な大剣を背負った豪傑。
彼こそが魔王。
魔王ジャーニスである。
「魔王陛下」
彼のもとに、側近である
魔王が特に反応を示さない中、彼はその場で膝をつき、首を垂れ報告する。
「ゲリデルン帝国攻略、完了いたしました。
ノーロ皇帝は死亡。
騎士団も弓兵団も最低でも8割の損害を与え、現在は散り散りとなっています。
残っていた人間の民間人は倉庫街に集めました。
所定時間になりましたら着火し、根絶いたします」
報告を述べる蟻魔人。
しかし魔王は反応を示さない。
もしかして聞こえなかったか?いやそんなはずは……と、蟻魔人が再度報告しようかと口を開こうとした時だった。
「あの子はなあ、戦に出すつもりはなかったのだ」
何事か事態が呑み込めない蟻魔人は沈黙するしかない。
まるで語り手と聞き手が入れ替わったように、魔王ジャーニスがぽつり、ぽつりと語る。
「妻に四六時中べったりだった息子と違ってな。
あの子は、普段こそ妻に甘えていたが、寝るときになると私と一緒じゃあないと眠れなくてな。
よく添い寝をして、本の読み聞かせをしてやったものだ。
それが、大きくなってなあ。
私に頼らない国を作りたいと意気込んで、いろいろと勉強を始めた頃は、寂しくとも嬉しくてな」
蟻魔人は悟る。
魔王の座と意志を継ぐべく、この戦いに参加しており、フンボルト王国の討滅に向かった第一王女の話だと。
「リクシールからの連絡が、途絶えた。
フンボルト王国の人間にやられたのだろう。
リクシールは、死んだのだ」
蟻魔人は驚愕を通り越し、もはや理解不能であった。
しかし、フンボルト王国はこのゲリデルン帝国と比較すればドラゴンのウンコとノミのウンコくらいの差がある。
万に一つも、そのような事故などあり得ない話なのだ。
あの国に負けることなど、空が落ちてくることを心配するような話だったはずだ。
まだリクシール王女が急な病気で倒れたとか、あの弱虫な第一王子が勇気を振り絞って差し向けた暗殺者にやられただとか、そっちのほうが説得力がある。
「あの子はなあ……戦に出すつもりはなかったのだ……なかったのに、なあ……本当に……」
魔王は、自らが滅ぼした帝国の瓦礫の上でボロボロと泣いていた。
顔を両手で覆っても、隙間から涙が零れ落ちるのが止まらない。
しばらく嗚咽だけが周囲に響き渡る。
そして、ようやく魔王の涙が止まったころには。
その表情は憤怒に染まり……そして怒りを通り過ぎて、能面のような無表情へと変わる。
「皆殺しだ」
魔王は告げる。
蟻魔人は深く頭を下げる。
「これまでのようなものではない。
そんなものでは済まさない。
一人残らず。
肉片すら残さない。
慈悲も容赦も要らぬ。
疾く速やかに迅速に。
フンボルト王国の人間を絶滅する。
部隊を編成せよ」
「はっ」
蟻魔人は再度頭を下げ、動きだす。
次の戦争のために。
最後の戦争のために。
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【銃】
人間が開発した新しい武器。火薬を用いて鉄片を高速で飛ばすことができる。
既存の武器と比較して訓練にかかる時間が少なくて済み、弓と比べ即応性にも優れる。
半面、非常に製造や維持にコストがかかるため、大人数での運営は不可能である。
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