第8話 告解の尋問

フンボルト王国 首都ウォシュレット――



サーモ伯爵に連れられ、俺は階段を降りて王城の地下牢へと向かっていった。

ここの地下牢は、王家や限られた貴族が何らかの理由で「極秘」に捕えておきたい相手を拘束する場所だとか。

単なる囚人の牢屋は兵舎の方にあるらしい。

それもそうだよな、極悪な囚人とかを地下とはいえ王城に留めておく理由ないもんな。

そんな会話を伯爵としていると、目的地に到着する。



「お待ちしておりました、サーモ様」

「うん、あれからどう、カラン?」

「申し訳ありません、未だに吐きません」


白髪交じりの髪をオールバックにした年輩の男性、カランがサーモ伯爵に頭を下げる。

カランに連れられて、牢の前に立つ。

牢の中では、青い肌の女が両手両足と口に枷を着けられ、拘束されていた。



「……何をされて、も、知らないもの、は、知らん、な……」


王女が全裸にひん剥かれて兵士がニヤニヤ笑いで周囲に立っている……なんてことはなく。

舌を噛んでの自害防止用らしい謎の器具が口に取り付けられていて。

ボロボロの服を纏った王女の腕や足など、いたるところに鞭で打たれたような酷い跡がある。



「知らない、なんてことはないだろう?リクシール王女」

「…………」


サーモ伯爵が尋ねるが、リクシールは黙って睨むのみ。

しかし普通、敵とはいえ王家に連なる捕虜にこんな拷問とかするんか?とも思ったが。

先の戦勝会で聞いたオーキツネン侯爵の話を信じるなら、お互いに共存とか考えてないガチの殺し合いしてるみたいだからな。

捕虜だとか取引だとか人質とか言う概念は存在しないんだろう。



「強情だね。……悪いね、何か方法があったりしないかい?」

「あります」


仕方がないな、と俺は息を吐く。

どのみち、先の戦いで糞射撃やらで滅茶苦茶な数の魔物を殺したからなあ。

もし人間側が悪かった、魔物側が正義だった!だったとして、今更魔物に謝罪したところで許してもらえる気がしない。

こうなった以上は腹を括るしかない。



さて、ともあれ尋問しないといけないが。



俺は牢の中を見る。

リクシール王女は肌の色こそ青く、白と黒が反転した色合いの目をしているが、それ以外は人間とほぼ同じだ。

角とか翼すら生えていない。

整った顔立ちだし、これ別の異世界転移作品とかならヒロイン張れるようなポジションだよなあ。

逆にここまで見た目が人間近くても、互いに根絶ジェノサイドを宣言してるあたり根が深いな。

俺が「みんななかよく!」って言ったところで平和にはならないだろう、諦めようそっちの路線は。


で、話が戻るが。


情報を引き抜くだけなら簡単だ。

【うんこマン】のスキル【人格排泄ホワイトスネイク】で強情な人格を垂れ流してもらい、抜け殻になった身体に尋ねるだけで良い。

ただこう、話に聞く限り魔物を逃がそうと、司令官ながら最後まで戦場に残り戦っていたと聞くし。

そんな高潔な人に、そんなことをするのは非常に忍びん。

そうすると、もう一つのスキルだが……これもなあ。

いや、【人格排泄】よりマシ……かなぁ……でも、これしかないか。



「サーモ伯爵、カランさん、牢から離れていください。

 リクシール王女……止めて欲しければすぐに喋ってください」

「ふん、貴様のような者が一体何ができるというのだ」

「【糞溺死うんこでおぼれろ】」


スキルを発動した瞬間、リクシールの居る牢が結界に閉じ込められる。

そして、床から湧き上がってくるように何かが競り上がってくる。

強烈な悪臭を放つ、黄土色の物体。

糞尿だ。



「な、なんだこれは……?!何なんだこれは?!」


狼狽するリクシールだが、泉のように溢れ続ける糞尿がそれに答えるわけもなく。

足につきそうになると必死に逃げ回るが、やがて逃げ切れずに浸かってしまう。



「うわああああ?! うわああああ!!!」


悲鳴を上げるリクシール。

サーモ伯爵やカランは、その様子を顔を顰めながら眺めていた。

流石に止めるようなことはしないか。



「貴様!……おのれ!貴様が王国の切り札だな……!

 屍霊術ネクロマンシーのみならず!このような外法を……!」


膝まで糞尿につかり太ももまで競り上がってきている中、リクシールが涙を流しながら俺に怒号を吐く。

ああ、【便意兵シットマン】のことを屍霊術ネクロマンシーだと思ったのか。

外法というのはマジでそうなので撤回のしようもない。



「それより、いいんですか。もう顔が浸かりますよ」

「ひっ……!」


競り上がった糞尿は既に胸元にまで来ていた。

もう数分もかからず、リクシールは汚水と汚泥に沈むことになる。

剣に胸を刺し貫かれて死ぬのと、糞で溺れ死ぬのと、そこに何の違いもありゃあしないだろうが!

あるに決まってるだろ!



「ひっ……わ、わたしは誇り高い、魔王の娘……!このような辱めを、う、うけても、話さな……ひっ?!」


あ、糞尿が跳ねた。

リクシールの雫が顔にかかった瞬間、彼女は泣き喚く。



「いやああああああ!!止めてお願い止めて!!!こんなのいやああああ!!!話すからあああああ!!何でも話すからあ!!!!」

「ん?今何でもって言ったよね」


あともう少しで口まで浸かる、というところでリクシールが折れた。

スキルを解除すると、ずるずると糞尿が地面の中に沈むようにして消えていく。

目のハイライトが消えたリクシールを見て手ごたえを感じた。

落ちろ!落ちたな。



「……頼んだは僕たちだけどねえ」


サーモ伯爵とカランはドン引きしていた。

言わんとすることは分かるので、俺もあいまいな表情を返すしかなかった。


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糞溺死うんこでおぼれろ

指定した結界内に大量の糞便を発生させるスキル。

結界内にいる生物は、一定確率で『恐慌』状態になる。

スキルレベルが上がると結界範囲、発生する糞便量が増加する。

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