第7話 一晩の期待

フンボルト王国 首都ウォシュレット――



日も落ちたころ、俺は用意してもらった部屋に通され、寛いでいた。

奇麗な部屋だが、城の規模だとかに反して広くはない。

調度品も必要最小限しかない。

ベッドやドレッサーはあるが、物書き机とかベッド側の棚とかもない。


……多分、燃料だとかにするために余分な家具は壊して薪にしたんだろうな。

そういえば攻城戦のときのバリケードにも、いやに精巧な彫刻が施された木材があった。ああいうのにも使われたんだろうか?

大きい客室とかもう埃を被ってて、この小さな部屋だけ急いで掃除したんだろう。

戦時中だしな。

飽く迄も俺の想像だし答え合わせに誰かに尋ねたりするつもりはないが。


俺は、きちんと洗濯されて清潔にされたシーツが敷かれたベッドに横になる。

世話役に専属の美人メイドでもつくのか、と少し期待しちゃったが、そんなことはなかった。

使用人の絶対数ももう足りてないらしく、俺をこの部屋に連れてきた人も、すぐに別の仕事に向かったからな。

自分の疚しい気持ちスケベ心を諫めよう。



さて、と俺は目を閉じる。

別にこのまま寝入るつもりではない。

確かに色々あって疲れたが、やらなければならないことがある。



俺に与え押し付けられた恩寵チートである、【うんこマン】の能力スキルの確認だ。

意識をすると頭の中で情報開示ステータスオープンされていく。

スキルポイント制で、自分が必要だと思うスキルを取得・成長させていく方式だ。

ざっと見る限り、すべてのスキルを取ることはできない。

取捨選択が必要になるみたいだな。


そして俺のLv《レベル》は既に100。

Lv100も超えられるかもしれないけれど、とりあえず上限に達したんじゃないかな?キリがいいし。

これ以上俺は強くなれないし、スキルポイントも取得できないと考えよう。

そうすると必須だと思われるスキル以外は、ここで取得しきってしまうのは危険か。

スキルリセットできるとも限らない。

今後どういう状況になるかも分からない。

高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応するために、ちょっとは残しておこう。



その上で、だ……。

脳内にリストアップされているスキル群に目を向ける。

先ほど見た【無差別便意ガッデム・ジェントルメン】や【焼夷糞ヤケクソ】が目につく。



やはり、何度見ても酷い。

何が酷いじゃなくてすべてが酷い。

すべてが糞になる。



まず常時発動型パッシブのスキル、身体能力ステータス強化型のスキルが一切……いや、殆どない。

体力HP魔力MP強化とか、攻撃力STRとか速度AGIとかの項目がない。


代わりにあるのは、糞便生成速度増加と、糞貯蔵量増加だ。

俺はこれをステータス強化スキルとは認めん。

絶対に取らねえぞ。

後者はまだしも、前者とか取ったら絶対にすげー勢いでトイレに籠ることになるだろ。

いやトイレと結婚する羽目になるならまだいい。

最悪我慢できなくなって垂れ流しになるのが……見える見える。

尊厳を犠牲に強くなる勇者、それが俺だ。

ふざけてんのか。


そしてこの際、糞であることを百歩プラス数万数千幾億那由他歩、譲ったとしてもだ。

とにかく高威力・広範囲・無差別攻撃が多いんだよな、多すぎる。

神は何を思ってこんなもんを俺に与えたんだ。

悪ふざけか?悪ふざけだよな?そりゃあそうだよな。それ以外の何物でもない。

世界を糞まみれにするのがお望みなのか?

県北の橋の下で勝手にやってくれ。


冗談はともかく、純粋に攻撃スキルとして過剰なんだよな。

単なる攻撃だけなら【糞射出ボッシュート】と【糞爆弾ビッグ・ベン】だけで事足りるんだ。

何かほかに搦め手というか、【便意兵シットマン】のような出来ることに幅を持たせたい。



コンコン


そんな便所の底のような場所脳内で思考していた俺は、ドアをノックされる音で我に返る。

誰かが訪ねて来たのか?俺に?何の用だ?

はっ、分かったぞ。

これは異世界転移系あるあるの勇者の子供を作っておこうとかいう昨晩はお楽しみイベントだな!

勿論迎え入れよう、さあ相手は女騎士か!メイドか!



「やあ、休みたいところ済まないね」


そこにいたのは、でっぷりとお腹に肉を携えた中年の男性でした。

なんと、この私が好きと申すか!?そ、それはいかん!もう1度考えてみなさい。



「えっと……あなたは……」

「ああ、悪いね。先の戦勝で一度挨拶はしたんだけど。

 サーモだよ。伯爵位はもらってるけど、まあ単なる中年のオッサンだよ」

「あ! す、すみませんサーモ伯爵!」

「いやいや、一回で覚えろって方が無理だものね」


サーモ伯爵は人が良さそうに笑う。

見た目は完全にフィクションで出てくる悪徳貴族のそれなんだが……バリバリの武闘派だ。

さっきの戦いでも魔物を片端から二刀流手斧で斬り捨てていたしな。

元は山賊の頭領だったけど、あんまりにも強すぎたから召し抱えたとかいう噂まで聞いたぞ。



「しかし、伯爵がなぜ?」

「ああ、それなんだけどね。

 本当は勇者以前に、君のような人に言うようなことじゃあ、ないと思うんだが」


サーモ伯爵は、少し苦い表情をして俺の顔を見る。

どうにも不本意そうだ。

ってことは、国王とか、上位の貴族に頼まれたのかもしれない。



「先の戦い、魔物の将であるリクシール王女を捕らえたんだ。

 今彼女を尋問しているところなのさ。

 何せ王女だ、きっと情報を持っているに違いない。

 ただ、残念だけれど未だに引き出せていないでいて……。

 いつ次の魔王軍が来るとも分からないし、手早く済ませたいんだけれどね。

 そこで……何か勇者である君が、何か手立てがないかと思って」


尋問かぁ……。

流石に異世界だけあって人権意識だとか、やっぱ違うんだな。

いや、現実でも敵兵とか相手ならやってるか。

テロリストは兵士じゃないからセーフらしいし。

しかし、俺のことを便利屋か何かと思ってないか?

まあ、切羽詰まった状況なのは重々理解しているし仕方ないけど。



「わかりました、やってみましょう」

「本当かい?すまないね」


サーモ伯爵に頷き、俺は地下牢へと向かった。


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焼夷糞ヤケクソ

糞便でテルミット反応を起こして対象を焼き払うスキル。

燃焼に酸素を必要としないため水をかけても鎮火せず、糞便特有の粘りはあるため振り払うのは困難。

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