第80話襲撃後の報告会

 

 敵の処理だけ手っ取り早く終わらせると、そのあとは何を告げるでもなく城を離れて家へと帰ってきた。

 まだ残党処理とかあるだろうけど、それくらいは向こうに任せていいよね。一番の戦力であろう賊の頭を処理したし、魔族はこっちにきたんだから残るは雑魚だけ。


 町中に散らばってるから面倒だろうけど、城主の不在を任されるような人物なら問題なく……あ。

 ……そういえば、あの人大怪我負ってたんだっけ。かなり疲れてたみたいだし……気絶とか、してないよね?


 いや、仮に気絶してたとしても、流石に指揮を取れる者が一人だけってこともないだろうし、副官とかがなんかいい感じにやってくれる……はず。だといいな。


 まあ最悪の場合は、僕とミューとローナで町中を虱潰しに処理してけばい以下。何だったらローナだけでも終わりそうかも。なんかほら、野生の勘的な何かで探し出せそうな気がしない?


「ただいまぁ」

「おっかか〜——痛いっ!」

「姉さん。ちゃんとやってください。ただでさえ大事な時に遊んで不在にしていたのですから」


 ドアを開けると、椅子に座ってテーブルに突っ伏しているローナがふざけた出迎えの声をかけ、それにミューが起こるという、いつも通りな光景が繰り広げられた。


 ローナの出迎えの態度は奴隷のものではないし、ミューの言葉が正しいんだけど、なんかローナの振る舞いを見てると日常って感じがするよね。何の事件もない、平和な日常って感じがさ。

 もっとも、外では絶賛騒ぎが起こってる最中なんだけど。


 そういえばルクリオスはともかくとして、ミリアムとロイドとマリーもいないね。

 ミリアムは多分、ローナが帰って来たことで賊の討伐に出かけたんだろうけど、二人はどっちについて行ったんだろう? ミリアムもルクリオスも、面倒見がいいから二人に頼まれたら断らなそうだからわからないんだよね。


「いやね? 遊んでたって、私も敵に襲われてその対応にあれこれと頑張ってたわけで……」

「ですが、わざわざ敵の誘いに乗って街の外まで行く必要はなかったですよね? 倒す必要があったことは認めますが、その場で処理してしまえばよかったはずです」

「あー、それはほら、あれよ。えっと……街の外に部隊を用意してたかもしれないし、そっちも一緒に叩いておいた方がよかったかなー、って」

「はあ……。弁解はご主人様へどうぞ」


 そう言いながらミューはローナに僕のことを見るように手を動かし、その指示に従ってこっちを向いたローナと目が合った。


「うーんと……そう言うわけだからゆるしてちょ」

「だめ、有罪」

「ひどっ!?」


 ひどくないよ。

 せめてもうちょっと真面目に謝る様子を見せてくれてもいいんじゃない?


 まあ、今の話を聞いた限りだと、ダグラッドたちはローナのことを警戒していたためにかなりの戦力を注ぎ込んだみたいだし、仕方ないかなとは思ってるんだ。


 ローナは強い。たかがこっち側にいる戦力を集めたところで倒せる相手じゃなかったと思う。それはオドを使えるようになって強くなる前の状態であってもそう。


 だからこそ、向こうの戦術は時間稼ぎだったはずだ。逃げて罠に嵌めて防御に徹して。そうやって時間を稼いでいる間に、こっちで僕たちやミューのことをどうにかしようとしたんだと思う。だからローナだけ帰ってくるのに時間がかかった。


 もっとも、その作戦も失敗したし、時間もたいして稼げなかったみたいだけどね。


「冗談はさておき、ちゃんと処理したの?」


 そこだけちゃんとしてくれていれば、それでいいや。


「もっちもっちのろんよ! 私だってね、仕事はちゃんとできるわけよ。見くびらないでよね!」

「仕事がちゃんとできるやつは酔い潰れて残されたりしないよ」


 ここにいる理由が理由だし、残されてる時点で仕事ができてないじゃん。


「それは、まあそうなんだけどぉ〜……っていうかもういいじゃん。そんなこといつまでも引き合いに出してるなんてカッコ悪いわよ!」

「まあ、いいけどね」


 そうしてローナが遅れて帰ってきた件に関しては流すことにして、僕はしばらく休むことにした。

 肉体的には疲れてはいないけど、久しぶりの戦い……いや、戦争で少しだけ精神的に疲れた。どうせそのうち終わるだろうし、今はしばらく休んでいてもいいよね。

 それに、賊を倒すことぐらいしか外に出てもやることないしね。


 あ。せっかくだし、母さんが寝てるんだったらこの隙にオドの調整をやっておこうかな。いい時間潰しになるでしょ。


 そんな感じで何時間か休んでいると、もうそろそろ陽が落ちてくるといったあたりで外に出ていた者達が戻ってきたことで、話し合いというか、結果報告をすることとなった。


「——えー、それじゃあ一応聞いておくけど、問題のあった人はいる?」


 見た目的には誰も怪我してないけど、内傷とかはわからないからね。


「俺は大丈夫だぞ!」

「あたしもだ。まあちょっと疲れたけどな!」


 ロイドとマリーは問題ない、と。怪我もないようだし、いい経験になったかな。

 でも、多分人を殺したと思うんだけど、その辺りはどうなんだろう? 今は戦いで気持ちが昂ってるから気にならないかもしれないけど、落ち着いたらどうなるか……気をつけておこう。


「お二人自身も、ご家族も、被害はありません。ただ、あえて問題を挙げるとしたら、戦闘によってその周辺が少し傷と汚れができてしまったことと、お二人の能力が少し派手にバレてしまったことでしょうか」


 あー、そっか。そこまでは考えてなかったや。言われてみれば、賊を退治すること自体は問題なかったとしても、それを見られて他のはちょっと問題だね。


「それってなんかまずいのか?」

「まあそうだね。だって考えてもみなよ。今までちょっと動けるな、なんて思われてた子供が、実は賊を……それも今回みたいな大規模な襲撃をするような賊を倒せる実力があるってバレたんだよ? 騒ぎにならないわけないじゃないか。多分だけど、状況が落ち着いたらどっかしらから人が来るんじゃない?」

「ひ、人……? もしかして捕まったりすんのか?」


 焦った様子を見せるロイドだけど、安心していいよ。そういった類のじゃないから。


「そういう類のやつじゃなくってね。うーん……簡単に言えば勧誘? 多分来るよね?」


 強い人は少ないみたいだし、現状は人間が押されている。となれば、少しでも強い人や、その噂がある人はできる限り集めたいだろう。それが子供ともなれば、将来性を見越して自陣に取り込んでおきたいと考えてもおかしくはない。


「おそらくは。魔族もそうですが、人間側も戦力は常に欲している状況です。そんな中で、子供でありながら賊を倒すだけの実力を持っているとなると、育てて将来的な戦力としようと考えてもおかしくありません」

「そうなると、どうなるんだ?」

「誘いに来た相手によりますが、領主や国から来た場合はおそらく、学園などなんらかの国の施設に入ることになるのではないでしょうか?」


 学園かぁ……でもそれってそんなに悪いことじゃないような? だって二人って学校行ったことないでしょ。

 僕も行ったことないし、何だったら前世でも行ったことないけど、僕は前世の経験があるから学校なんて行かなくてもいい。

 けど、二人はまだまだ子供なんだから、学びの場所っていうのはいっておいて損はないと思う。

 少なくとも、このまま僕とずっと修行をしてるよりはよっぽどいい人生だと思うよ。


「学園? それなんだ?」

「え、学園ですか? そうですね……同じくらいの年齢の者が集まって共に勉強をしていく場所、でしょうか」

「勉強〜? んなもんしなくちゃなんねえのかよ」

「っつっても、それはあたしらんところに人が来たらの話だろ? 来ないこともあるんじゃねえのか?」

「あるだろうね。でも、多分くるよ」


 だって、僕だったらそうするもん。今の時点で賊を倒すことができる子供なんて、誘わないわけがない。


「そうですね。私が幼かった頃も学園に通っていましたし、そこでは有能な平民を特例で通わせることはありました」

「あ、ルクリオスってやっぱり元は貴族だったりするの?」

「元、と言いますか、一応現役で貴族ではあります。もっとも、貴族らしい生活をしているのかと言われたら微妙なところですが」


 やっぱり。なんていうか、単なる平民にしては品がいいよね。ミリアムと比べるとよくわかると思う。こっちが傭兵としての普通なんだよ。


「学園は国ごとにもありますが、もっとも大きく、権威があるものは、この国からは少し離れていますが、複数の国が共同で運営している剣魔学園レイラールとなります。もし皆さんが送られるとしたら、ここになるでしょう」

「なんでだ? この国にも学園? ってあるんだろ? わざわざ遠いところに行かなくてもよくねえか?」

「そちらの方が上等な教えを受けられるからです。言ってしまえば、レイラールが一番上で、各国の学園はレイラールに入れなかった二番手達が通う場所なのです」


 受け入れ人数にも制限はあるし、そうやって分けるのは仕方ないね。ただ、ロイド達なら問題なく一番上の学校に入れると思う。頭の方はちょっと心配だけど、多分何とかなるでしょ。

 だって、強いもん。


「まあ、来たら来たでそんとき考えりゃあいんじゃねえの?」

「ばーか。そんなんだからお前はバカなんだよ。あらかじめ対策とか方向性とか決めておかないと後で面倒になるだろ」

「だね。けど、誘いに来る相手が誰なのかわからない状況ではどうしようもないってのもその通りなんだよね」

「一番の懸念は、この街の領主が直々に来ることではないでしょうか?」

「領主が直々にって、あり得るの? いくら戦力の確保が重要って言っても……」


 と、そこであることに気がついた。ミューとローナって魔族じゃん、と。

 今回の騒動を起こしたのは賊だけど、そこに魔族も関わってるってなったら、じゃあ他の魔族達はどうなんだって怪しくなって当然だ。

 しかも、それがランキング……魔王位の百番以内に入るような強者となれば、領主直々に、ってのもあり得ない話じゃない。


「あー、まあそうだとしても、領主が来ても問題ないでしょ。そりゃあ魔族であるミュー達がいることは何か言われるかもしれないけど、基本的には法を犯すようなことはしてないんだから大丈夫じゃない?」

「そちらもですが……お忘れですか? この街の領主は『ルクスト』ですよ? その当主となれば、奥様の兄に当たる者です」

「あ……」

「奥様の過去を存じないのでなんとも言えませんが、もし仲が悪かったりしたら、奥様の負担になる可能性も考えられますし、こちらの動きに妨害をしてくる可能性も考えられます」


 もし誘うためにロイド達のことを調べたんだとしたら、絶対に僕のことも調べる。いつも一緒に行動してるのに僕だけ弱いなんてことはあり得ないからね。一人でも多く誘うために、調べるに決まってる。


 そして僕を調べて母さんのことまで知ったら、多分来る。母さんと領主の仲がどうなってるのかわからない以上、ミューの言ったように邪魔をする可能性も十分あり得る。


「あるいは、生き別れの家族に会えたのだから、再び共に暮らそうと、そう提案してくる可能性も十分に考えられるかと。その時、ご主人様はどうされるのですか?」


 問題は解決したはずなのに、また面倒な問題が残ったもんだね。

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