第76話今回の襲撃

「さて、それじゃあどうしようかな。とりあえず家に帰れば誰かいるだろうけど……ロイド達も心配なんだよね」


 ようやく襲ってきてくれたバカ達を処理した後、死体の山の中で立っていればまた別の面倒に巻き込まれるだろうということで、ひとまずその場所から動くことにした。

 けど、移動するにしてもどこにいくのかが問題なんだよね。


「んー、まあロイド達を探すかな。家の方は大丈夫だと思うし、っていうかそのための護衛だし。なあそれ言ったらロイド達につけた護衛もそうなんだけどさ」


 家にはミューがいるし、今の時間ならミリアムもいる。だからあっちは大丈夫だと思うけど、ロイド達の方は微妙だ。一応ルクリオスがついて行ったみたいだけど、それだってもう解散していたかもしれない。


「とりあえず、ロイド達を助けてからにするかな」


 というわけでロイドの家に向かって走ったんだけど……


「ん? ……なんか騒がしいけど、爆発音?」


 途中でいろんな方向から騒ぎの音が聞こえてきた。一箇所か二箇所ならわかる。僕たちを襲うために同時に仕掛けたんだろうって納得できるからね。

 でも、この感じだとそんな少ない数じゃない。それに規模だって、単なる小競り合いじゃなくって、魔法によるものだろうけど爆発したり建物が崩れたりする音が聞こえる。多分だけど、街全体から響いて来ているような感じの音だ。


「とりあえず、ちょっと高いところから見てみるかな」


 近くの建物の屋根に飛び乗り、それだけじゃまだ高さが足りなかったのでさらに上に跳んで街を見下ろす。


「これは、街全体を襲撃してるのか? でもなんで……」


 予想したように町のいろんな場所で火の手が上がっている。僕たちを襲撃するための陽動にしては大袈裟すぎるし、なんだったら僕たちの方が陽動やついでだったと言われた方が納得できる規模だ。


 と、わからないながらも観察を続けていると、街の中を走っているロイド達の姿を発見することができた。よかった。偶然だったけど、見つけられなかったらすれ違いになってたら面倒になるところだったよ。


「あ、いたいた。そっちはどう? 変なの来たみたいだけど」


 空から一気にロイド達のそばに降り立ち問いかけたけど、様子を見た限りだと問題なさそうだね。ルクリオスもなんか満足そうな顔してるし、修行をしてから初めての実戦で何か感じたのかな?


「ディアス! お前の方にもいったのか?」

「うん。十人ほどね」

「ディアス相手に十人って、舐めすぎじゃねえのか?」

「いやでも、ほら。僕だって見た目は普通の子供だしさ。ちょっと戦えるっていっても、十人も大人を用意すれば平気だって思うもんでしょ。それよりも、そっちは結構いたみたいだね」

「まあな。でも俺たちが全員ぶっ飛ばしてやったぜ!」


 だろうね。僕の方にきたあの程度の連中がロイドの方にもいったんだったら、まず負けるはずがない。


「つっても、あたしらよりもルクの方が活躍してたけどな。頭を倒したのはルクだし」

「そうなんだ。なら、護衛として雇っただけの価値はあったかな」

「けど、俺たちだけでもできたんだぜ」


 まあロイドが言うように二人だけでもなんとかなっただろうけど、ロイド達を襲撃した敵のリーダーはルクリオスがやったみたいだし、雇った意味は十分あったと思う。


「そちらは無事だったようですね。いえ、私が心配するのは烏滸がましいというものですか」

「僕だって怪我する時は怪我するんだし、心配してくれてもいいんだよ?」


 怪我をする時はするし、死ぬ時は死ぬ。剣王だって、境界戦争の時は死にかける大怪我を負ったことだってあったんだから、今の弱体化している僕なら尚更傷つきやすい。

 けど、ルクリオスは優しげに笑みを浮かべているだけで心配そうな様子も、訂正する様子も見せない。


「ご冗談を。あなたがこの程度で傷を負うなどあり得ないでしょう?」

「まあそうだけど……そっちは随分活躍したみたいだね」

「活躍というほどではありません。敵の数はいましたが、そのほとんどは素人でしたから」

「でも、魔族とかいなかった?」

「一人だけいました。ですが、幸いなことにあまり強くはなかったようですので、さしたる苦労もなく」


 魔族を相手にして〝あまり強くなかった〟か。元々実力があったのはそうだけど、それだけでは苦労なくとはいかなかっただろう。何せ相手は調べた上で対策をしてきたんだから。

 でも、どうやらルクリオスもちゃんと強くなっているようだ。


「そう? それならいいんだけど……」

「それよりも、このあとはどうしましょうか? どうやら我々とは別の騒ぎが起こっているようですが」

「あ、それね。なんか街全体が襲われてるみたいなんだけど……どうしよう?」

「どうしようって、普通にお前んちに戻ればいいんじゃねえか?」

「でも、敵の狙いがわからないからさぁ。このまま僕の家に来て、もしまたロイド達の家、あるいはこの近辺が襲われでもしたら、大変なことになるよ?」


 ロイド達は問題ないとしても、ロイド達の家族は一般人だから、もし騒ぎに巻き込まれるようなことになったらひとたまりもない。


「あー、そっか。でもこの辺は襲わねえだろ」


 まあ、多分ね。だってこの辺襲っても旨みがあるような場所じゃないし。僕たちを襲うために家族の方を襲うっていうならわかるけど、どうにもこの襲撃って僕たちの方がおまけな感じがするんだよね。


「ってか、今他に襲われてる場所あるんだろ? それってどこなんだよ」

「さあ? さっき上から見た感じでは街全体で騒ぎが起こってる感じだったけど、目的がなんで、どこを狙ってるのかはさっぱりだったね」


 僕たちを狙ってではないことは確かだけど……なんて考えていると、ルクリオスが口を開いた。


「ですが、予想がつく場所は一つあります」

「そうなの? それってどこ?」

「この街の中心。……グリオラの剣王城です」


 城? ああ、だから街全体で騒ぎを起こしてるのか。


「城? なんでわかるんだ?」

「この騒ぎを陽動とすれば本命がどこかにあるはずですが、通常陽動というのは本命から目を逸らすために行うものです。必然的に、最も遠い位置を襲撃することになります」

「でもこの騒ぎって街全体なんだろ? 一番遠いところとかなくねえか?」

「うん。だから中心なんだよ。通常は中心に集まってる兵力も、街全体が襲われれば全体に散るしかないでしょ? そうなると中心の城で何かあってもすぐに連携を取りづらくなる」


 城主としても揺動の意図はわかっているだろうけど、だからと言って街の騒動を放置しておいていいわけではないので、誘いに乗るしかない。乗らなければ、街が滅びることになるんだから。


「ってことはさ、やっぱこの辺りは襲われないってことか? だって、陽動だっていうんだったら守るだけの価値がある場所じゃないと人なんて遣さないだろ?」

「おそらくは。ですので、こういってはなんですが、この辺りの市民や貧民は狙いにはならないかと。狙われるとしても、それなりの額を持っている資産家や商会となるでしょう」

「それじゃあこのあたりは心配いらねえってことだな」

「じゃあやっぱりディアスんちにいっちまっていいんじゃねえか? あたしらが襲われたってことは、あそこだって襲われてんだろ」

「うーん。そうだね。ひとまずはそうしようか」


 うちにはミリアムもミューもいるから大丈夫だと思うけど……まあまず間違いなく騒ぎが起こっただろうし、確認のために急いだ方がいっか。

 それに、一応うちも商売をやってるんだから、この騒ぎの標的にならないとも限らない。


「ご主人様。おかえりなさいませ」

「やあ、ミュー。こっちは……襲われたみたいだね」


 いつもの如く家の前で僕たちのことを出迎えてくれたミュー。だけど、そのそばには簀巻きにされた一人の男がいた。どうにも見覚えがある……というかダグラッドだ、これ。そっか、ダグラッドはこっちに来たんだ。まあ、目的はミュー達を説得することだったわけだし、ミューのところに来るのはおかしくないか。


「はい。ですが、万事つつがなく」


 みたいだね。何もないようならそれでいいや。


「そう。あ、それと、一応聞くけどローナは?」

「申し訳ありませんが、出かけたままですのでどこかで遊んでいるのではないかと」

「遊んでるって、この状況でかぁ。その遊び相手って……」

「〝それ〟の同類かと思われます」

「だよね。じゃあまあ、そっちは置いておくとして、これからのことについて考えようか」


 今はローナを待ってる時間はないし、先に話を進めちゃおう。どうせローナが話し合いに加わっても掻き乱されるだけだし、帰ってきたら決まったことだけ伝えればいいでしょ。


 そうと決めて家の中に入ると、母さんは寝ているようだった。どうしてこの状況で寝てるんだろう。そんなに調子が悪いのかな、と思ったけど、どうやらミューが薬を使って寝かせたらしい。

 なんでも、外の騒ぎが気になって剣を持ち出そうとしたから止めようとしたのだとか。うん。よくやったよ、ミュー。

 母さんも体調は良くなってると思うけど、それでもまだまだ悪いんだからあまり動いてほしくない。今は寝ておいてもらうのが一番だろうね。


「やっぱりどう考えても他に何かやってるよね。んー……火事場泥棒や便乗にしてはタイミングが合いすぎてるし……これは僕たちを狙ったってよりも、最初っから大きな計画があって、僕たちがそこに組み込まれた、って考えた方が正しいかな? じゃないとこれだけの規模の騒ぎなんて起きないだろうし」


 早速現状と今後の動き方についての話し合いになったんだけど、結論としてはそう考えるのが一番正しいだろうってことになった。多分僕たちを襲うと宣言してから二ヶ月も間が空いたのも、今回の騒動を準備した、あるいは準備していた集団と手を組んだからだと思う。


「でもそうすると……うちに籠ってるよりもそっちの救援に行った方がいいかな?」


 そうした方が早く終わりそうだし。それに、会ったことはないけど、今の城主は母さんの親族らしいから、死なれたら困るんだ。母さんに悲しんでほしくはないからね。

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