第50話やっぱり絡まれた

 賊がこの町で目立つようになってきたという話を聞いた翌日、それでも僕たちは変わらずに森に出かけて修行をし、ついでに獲物を狩って街へと戻っていた。


「なあなあ。実際のところ、賊に絡まれると思うか?」

「んー? さあ、どうなんだろうな? でも、絡まれたとしても、俺たちならなんとかなんだろ!」

「いや、そりゃそうかも知んねえけど、そうじゃなくってさ……ディアスはどう思う?」


 家に戻りながらロイドとマリーが話していることは、昨日ミューから教えてもらった賊に関して。


「賊ねー。どうだろうね? 正直言ってわからないっていうのが正解だけど……まあ、絡まれるんじゃない?」


 賊が僕たちを目的として街に来ることはない。商売をしてるって言ってもそんな大した規模じゃないし、わざわざ来るわけないもん。

 けど、襲われないかって言われると、わからない。むしろ、襲われる確率としては高い方だと思う。


「わからないのに絡まれるのかよ」

「だって、僕たちってわかりやすい的でしょ」

「的?」

「そ。子供達だけなのに獲物を狩って、お肉を持ってて、それを商売にしてる。どう考えても目立ってるでしょ。敗残兵って言っても、ああいうのはメンツとかプライドとか大事だからね。ある程度の地盤ができたら、どこかでドカンと大きなことをやって注目を集めるものだよ。ま、大きなって言っても、ちょっとはやるな、って注目される程度のもので、明らかに捕まえないとまずいような犯罪行為はしないものだけどね。だって、力がない状態で騎士達を相手にすることになるし」


 力がなければ何もできないのが世界ってものだけど、力をつけるためには小さなところからやっていかないといけない。子供達だけの商売なんて、最初の足がかりとしてはうってつけだ。

 僕たちみたいな小さなところを襲って自信をつけて弾みにし、そこから色々やらかしていく、というのは考えられることだと思う。


「なら、初めっからでかいことやろうとするのは、それだけ自分たちの力に自信があるってことか?」

「多分ね。弱い敗残兵の方なら、僕たちを倒して駆け上がるための踏み台にするだろうし、強い方なら僕たちを手下にしようとすると思うよ。子供だけで獲物を狩って肉を売るって、どう考えても普通じゃないもん。育てるつもりか使いっ走りかはわからないけどね」


 僕たちみたいにこの町で育ってきた子供がいれば、色々とやりやすいこともある。周囲の人を絆す役にしてもいいし、街に関する情報を手に入れるためでもいい。地元の子供っていうのは使い道があるものだし、そこそこ力を持っているなら尚更価値がある。

 ちょっとした手間で手に入れることができるんだったら、進んで狙ってくると思う。


「つっても、肉を売るの自体はやめないんだろ?」

「そりゃあね。僕だってお肉食べたいし、何より今の環境から変わりたくないもん」


 お肉を食べられるようになったことで、母さんの体調は昔に比べるとずいぶんいいものに変わっている。そりゃそうだ。だって、人間の体は肉を必要とする前提で作られているんだから。それを無理に草だけで生きようとしたら、どこかに異変が出てくるのは当たり前だ。


 それに、僕だってお肉を食べられるようになったことで、昔よりも成長するようになった。やっぱり、戦うためには体を作らないといけないし、体を作るにはお肉を食べないとだよね。


 お肉の売り上げもバカにできないし、今では僕にとってお肉を売る商売ってのは必要なものになっている。

 どうしてもやめないといけない事情があるならやめるけど、今回の問題はそんな〝どうしても〟ってほどでもないし、このまま修行のついでに狩りは続けていく。


「あー、まあそうだよな。こっちに方がいい暮らしだし、なんだったらあたしだってあっちに住みたいぜ」


 うーん。まあマリーの家もうちよりはマシだったけどボロ屋だし、人数たくさんいるしで、住めるんだったらもっといい場所に住みたいだろうね。


 でも、うちに住みたいんだったら別に構わないかな。


「住む? そろそろ仕事先に住み込みで、って言えば認められる歳でしょ」


 もうマリーだって十歳超えてるんだし、うちだって立派な商売をやってるんだから、うちに住み込みの奉公ってことにすれば、マリーの親も納得して送り出してくれると思う。ちょうど一部屋空いてるしね。


「おっ! なら俺もいいか?」

「え? あー、そっか。まあそうだよね。いいけど、マリーと同じ部屋になるよ?」


 マリーが来るんだったらロイドも来たいって言い出すのは当然か。ロイドの家もボロいし人数多いしね。

 でも、あいにくと空き部屋は一つしかないんだよ。だから、二人が来るってなると必然的に相部屋になるけど……大丈夫かな?


「なんでだよ!」

「こいつとか!?」

「いや、なんでも何も、部屋のあまり一つしかないし。それでもいい?」

「「え〜」」


 どうやらダメみたい。そうだろうなって思ったけどね。


「まあそのうちもっと稼げるようになったらね。成人したら傭兵とか冒険者とかやってもいいわけだし」


 この街だって、傭兵ギルドとか冒険者ギルドとかあるはずだ。場所は行ったことないから大体しか知らないけど、確か僕たちが普段使ってる門とは別の門の方向にあったと思う。いつか行って見ようかな?


「傭兵に冒険者かあ……まあそうだよな。傭兵になって魔物を倒しまくれば、めちゃくちゃ稼げるよな!」

「あたしら身体強化ができるようになったんだし、かなりいいところまでいけるだろ!」


 まあ、普通の大人よりは戦えるだろうね。でも、あんまり調子に乗らない方がいいよ?


「身体強化を覚えたって言っても、あんまり調子に乗らないようにね。前にも言ったけど、増長したら怒るから。もし調子に乗ってその力で悪事を働こうものなら……」

「わ、わかってるっての。俺だって別に無闇に暴れたりなんてしねえよ」

「そーそー。ちゃんと世のため人のために使うから、安心しとけって」

「それならいいけど」


 でも、そのうち傭兵なり冒険者なりやるっていうんだったら、もうちょっと厳しめに鍛えたほうがいいかな? せめて斬撃を飛ばせるようになるまでにはならないと、安心して送り出すことはできないよね。


「とりあえず、傭兵になるにしても訓練はちゃんとしようね。二人はまだ初心者もいいところなんだから」

「ちなみに、どこまで行ったら半人前なんだ?」

「半人前? 一人前じゃなくて?」

「だって、どうせお前のいう一人前ってめちゃくちゃ先だろ?」


 まあそうだね。僕のいう一人前っていうと……簡単に言えば最初に出会った時のローナを倒せるくらいかな?

 ……うん。それだけあればある程度は安心だね。一人前って言ってもいいと思う。


「うーんそうだなぁ……生命力を現象に変化させることができるようになったら、かな? ほら、前に見せた雷とかそんな感じのやつ」


 ちなみに、剣撃を飛ばすことができてひよっこだ。剣士の技って、大体あれが基本になって発展する感じだし。


「あれで半人前なのかよ……」

「道のりが長すぎねえか?」

「だからこそ、剣士は強いんだよ」


 妥協なんてしていたら、すぐに周りに置いていかれる。だから、剣士は鍛え続けるしかないし、だからこそ剣士は強いんだ。


「というわけで、二人も修行頑張ろうね。ひとまずは、剣で斬られても切り傷ができないようにしようか」

「ひとまずの要求がおかしいだろ!」

「でも、できるようになったら便利でしょ?」

「便利どころの話じゃないけどな」


 それに、そんな遠い話でもないと思うんだよね。二人ならそろそろ自身の存在の強化ってできると思うんだよね。今だって、半端なものならできてるわけだし。……もうちょっと厳しめのやつにすれば、一ヶ月もあればできるかな?


「さーて、明日もいい修行をしようね」


 きっと二人なら僕が少し無茶をしたところでついてきてくれるよね!


「地獄みたいな修行の間違いだろ?」

「地獄の方がマシなんじゃねえの?」


 失礼な。これでも僕としてはまだ軽い方なのに。

 それに、優しくしたらしたで、成長するのが遅れるよ。


「じゃあもっと軽くする? 多分強くなるのにかなり時間がかかるけど」

「時間がかかるって、どれくらいだ?」

「最低十年?」


 多分それくらいだろうね。昔はみんな子供の時から修行し始めて、大体二十くらいで頭角を表し始めたから。

 それだって懸命に修行をし続けたからで、いくらロイド達に才能があるって言っても、軽い修行だったらそれだけ時間がかかるに決まってる。


「じゅっ……かかりすぎだろ」

「それくらいで強くなれるんだったら、破格だと思うけどなぁ——ん?」


 なんて話していると、家に入る直前に複数の人物が僕たちに近づいてくる気配を感じた。知らない気配だけど……誰だろう? そう思いながら振り返ってみると……


「てめえらか? 魔物を狩って肉売ってる魔族の一味ってのは」


 あー、これはつまり、そういうことかぁ。


「……ほらね?」


 ロイドとマリーに振り向きつつそう言うと、二人は少し怯んだように顔を強張らせていた。


 この程度の敵なら、二人でも問題なく倒せるのに……。

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