第41話ローナの修行開始

 商売ができることになった翌日、ちょっとした罪悪感を感じつつもミューに商売関係の事は全部任せ、僕はロイドとマリー、それからついでに変態猫ことローナも連れていつもの森へとやってきたわけだ。


「はーい。それじゃあ服ぬいでねー」


 と言うわけで、いつもの修行の始まりだ。ロイドとマリーは必要ないから普通に修行してもらうけど、ローナは初めてだからまずはこれからだよね。まあ、やりたいって言うんだったらロイドとマリーも川流しにしてもいいけど。


「はえ? 何急に? やっぱりおっぱい吸いたくなった?」

「そう言うのはもうちょっと胸を大きくして母乳が出るようになってから言ってよ。壁に用はないよ」


 ぺったんとは言わないけど、君そんなにあるわけでもないじゃん。少なくとも、自分から話題に出すほどの代物じゃないよ。


「壁!? 壁って何!? 私そんな小さいわけじゃないんだけど! 見る!?」

「見ない。そうやってところ構わず胸を出そうとすると、次から痴女って呼ぶよ」

「ところ構わずじゃないし、痴女でもないですー!」


 痴女じゃなければそんな露出の多い服なんて着ないよ。その下、もしかしたらゴブリンの腰巻きの方が布面積多いんじゃないの?


「はいはい。まあ、修行だと思ってよ。いや、思ってっていうか、本当に修行だし」


 成人女性に対して服を脱げ、なんて言うのはちょっとどうかなって思うけど、それやらないと修行にならないし。それに、軍人もそうだけど裸になるくらいで恥ずかしがってるようじゃこの先やってけないしね。


「服ぬいで、川に流されるのが一番手っ取り早いんだよ。ほら、先輩二人もやったんだから、早く早く」

「む、むぐー……」


 まあそうはいっても抵抗はあるよね。他に脱いでる人がいるんだったら周りの空気に流されて、ってあると思うけど、今服脱ぐのはローナ一人だけだし。


「……まあ、レーネはもういい歳した大人だしね。どうしても嫌だって言うんだったら他の方法もあるよ。そっちにする?」

「んー、ちなみにそっちはどんな感じなの?」

「僕と死にかけるまで戦い続けるだけだよ。簡単でしょ?」


 服を脱がなくてもいいし、たいした準備も必要ないとっても簡単な方法だよ。まあ、簡単なのは始めるまでだけで、実際にやると簡単とはいえないけど。


「んげっ! そんなことしたら死んじゃうじゃないのよ!」


 死なないって。死にかけるだけだよ。


「生命力って、簡単に言えば自分の命を感じ取ることなんだよ。普通に生活してるだけじゃ、自分が生きていることの凄さとか感じないでしょ? それを感じ取るために、一度死ぬのが手っ取り早いんだけど、その方法として、死にかけるまでボコボコにされるってやつが——」

「はい! ご主人様が望むならまっぱで逆立ちしながら森の中を駆け回っても問題なかです!」


 そう? ローナだともうすでにそれなりに戦えるんだから、僕と戦うことで戦闘技術も鍛えられて生命力——オドの使い方も覚えられるんだから結構お得な修行コースだと思うけど……嫌なのなら仕方ないね。

 でも、嫌なのはわかるけどその喋り方なにさ? ああ、そんな乱暴に服脱いで。後のことなんて全然考えてないんだから。


「そんなこと求めてないし、そんなに乱暴に服を脱ぎ散らかすともう一回着る時に面倒だと思うよ? 風にさらわれて下着だけ消えるとか嫌でしょ?」


 もしその布切れみたいな服がどっか行っても、僕知らないからね? 自力でどうにかして街に戻ってよ? 絶対一緒に帰らないから。


「そ、それで!? こ、ここここれからどーすんのよ!」


 寒いからか恥ずかしいからかはわからないけど、ローナは声を振るわせながら聞いてきた。

 でも、恥ずかしいんだったらもうちょっと隠すような動作した方がいいと思うよ? 体を背けるとか腕で隠すとかさ。……でも、それだとなんか余計にいやらしい雰囲気があるかも?


 ……まあ、あれだ。僕まだ子供だからわかんない! だからそんなことよりも、今は修行の方を考えよう。


「これからしてもらうことがあるんだけど、その前に……はい、これ」

「何これ? ロープ?」

「うん、そう。まあロープっていうか、その辺で見つけた丈夫な蔦?」


 うちにはロープなんて高尚なものを買うお金なんてないのだよ。大丈夫。それロイド達を縛って川に流した実績を持ってるから。……大人だとわかんないけど、多分いけるいける! いけなかったら頑張って泳いで戻ってきて。その時は蔦を三重くらいにすればなんとかなるでしょ。


「どっちでもいいけど、これどうすんのよ」

「それを体に巻き付けて、その辺の木に縛るんだよ。まずはそこまでやって」


 ロイド達の時は僕も協力して縛ったけど、ローナの場合はそこまでやらなくてもいいでしょ。大人なんだし、自分で縛れるよね。


「ね、ねえ……これ本当に大丈夫な感じなの? こう、焚書指定されるような危ない雰囲気になってない?」

「そもそも本として残さないし、誰に伝えるわけでもないんだから問題なんてないでしょ」


 っていうか、子供になに聞いてきてるのさ。

 確かに裸の女性を蔦で縛る光景っていうのは、なんとも危ない雰囲気をしてるけど、わざわざ自分のことを縛ってるこの状況で聞いてくることじゃないでしょ。

 お互いにそこらへんのことには触れないのが傷が浅くて済む方法なんだから、黙ってようよ。


「でも、なんかやらしい雰囲気じゃない? や、まあご主人様なわけだし、あんたが望むんだったら仕方ないかなって感じもするんだけど、やるんだったら初めてはもうちょっとまともなところがいいっていうか……それに二人も見てるしそれはちょっと恥ずいかなーって思ったりするわけなんだけど……」

「バカなこと言ってないでよ。僕まだ十歳だよ? 将来的にどうなるかなんて知らないけど、今のところ手を出すつもりなんてないから安心して裸晒してて」

「いや、あんたの場合十歳だなんて思えないわよ。それに、安心しても裸を晒すことなんてしたくないんだけど……」


 うん。まあ僕もただの十歳とはいえないしね。それに、安心したからって裸を晒すようになったら、それはそれでヤバいやつとして認識するし、ちょっと関係を考えたくなるから踏みとどまってくれて嬉しいけどさ。


 なんて話しているうちに、ローナは自分の体と丈夫な木を蔦で縛り終わったみたいだ。


「いいから、そのロープちゃんと縛った? 解けない?」

「んー。ま、まあちょっとの衝撃くらいじゃ平気だとは思うわよ?」

「そう。じゃあちょっとこっちにきてよ」


 そう言いながら川べりに立ち、ちょいちょいとローナのことを手招きする。


「何? 何するわけ? まだ何にも教えてもらってないんだけど?」

「何をするかって言ったら……こうするんだよ」


 ノコノコとやってきたローナの後ろに回って、その背中を思いっきり突き飛ばす。


「んべっ!? ぐわっぷ! 何すんのよ!」


 突然川に落とされて文句を言っているローナだけど、そんなのは無視して説明をしていく。


「そこで水の流れに身を任せて、流され続けてて。しばらくすると体の奥からなにか感じると思うから。それまで我慢しててねー。あ、そうだ。魔力を使って強化したり回復したりするのは無しだから。それじゃあ頑張ってねー」


 最初は訳わからなそうにしてこっちをみてたローナだけど、次第に川の流れに体を任せるようになってきた。でも、まだ恥じらいがあるようでモゾモゾと体を隠そうと動いたりしている。

 それじゃあダメだよ。体を隠したくなる気持ちはわかるけど、そんなことしてると本来の目的の方に集中できなくなるからね。


 けどまあ、そのうち諦めて流されてるでしょ。それにどうせ、数時間も同じ状態が続けば、裸で流され続けるのも慣れてくると思うし。


「あ……なんだかちょっと気持ちよくなってきたかも……これが感じるってこと……?」


 それは多分違うんじゃないかなぁ……。いや、僕は子供だからよくわかんないけどさ。でも、多分違うと思うよ。


 まあ、後何時間か放置しておけば何か変わるでしょ。だからあの変態チックなことを言ってるアホは無視して……


「さて、あっちはあれでしばらく放置でいいとして、こっちはこっちで訓練しよっか」

「な、なあ、本当に大丈夫なのか、あれ。もし途中で蔦が切れたり溺れたりしたらまずくないか?」

「あんなアホでも、一応は魔王の直下部隊だったんだから、大丈夫でしょ。溺れる前になんとかするって」

「まー、あいつに負けたあたしらが心配することじゃないってことだろ」

「……そうだな」


 ローナなんて蔦が切れた程度じゃ問題ないよ。そのことを言うとロイドもマリーも納得したようで、それ以上ローナのことを聞いてくる事はなかった。


「二人も、ちゃんと鍛えれば強くなれるよ。それこそ、ローナに負けないくらいにね」


 僕がそう言うと、この間の負けを思い出したのか、ロイドもマリーも目にやる気を漲らせた。

 うん。今日はいい訓練になりそう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る