第35話今後について

「さて、これで一応の話はまとまったわけだけど……」

「これからはどうすんだ? ディアスんちで一緒に住んだりするのか?」


 ね。その辺のことは特に考えてなかったけど、どうしよっか?


「いえ、それはやめておいた方が良いかと。確かにご主人様のお宅は私たちのこのボロ屋よりもまともですが、失礼を承知で言えば多少マシになった程度であって、実際のところは大した差はありません。広さとしても、私達二人が転がり込んでも狭くて不満が溜まることになるでしょう」


 まあ、あの家には二人住んでるだけでも結構ギリギリだしね。そこに二人増えるとなると、まだこっちにそのまま住んでたほうがマシだと思うよ。


「それに、ディアスってばママンに私たちのことバレたくないんじゃないの? っていうか、自分のことも?」

「……まあ、そうだね。母さんにはできる限り心配かけないでいたいところだ、っていうのが本音だね」


 そう。母さんのこともあるんだよね。多分母さんのことだし、僕が魔族と付き合いがあるなんてバレたら、心配すると思うんだ。

 二人と一緒に行動していればそのうちバレるとは思うけど、できることならその発覚の時間を遅らせたい。そして、二人と一緒にいても大丈夫なんだ、って実績を作ってから話をしたい。半年も一緒に過ごして何も問題が起きなければ、二人は魔族だけど安心できるよ、って納得してもらうこともできるだろうから。


 まあ、半年もバレずにいられるかって言ったら微妙だけど。多分二ヶ月かそこらでバレるんじゃないかな? だって、母さん自身には見つからなくても、近所の人たちには見つかるだろうし、そっちから話が行くだろうからね。

 それでも、遅らせることに意味はある。と思う。


「ですので、普段はこれまで通りの生活をしていこうかと。ただ、そこにご主人様の奴隷としての仕事が加わる形でいくのが良いのではないかと思われます」

「奴隷としての仕事ねぇ……」


 頼むとしたら、やっぱりお肉の販売関係だよね。金銭にするのか物々交換にするのかによって管理とか変わってくるだろうし、そもそも売る場所とかも決めないといけない。


 その辺はみんなで考えて決めればいいとしても、一番問題なのは魔族だ、ってところだよね。魔族が商売をしても問題ないけど、絡まれることは多そう。


 けど、頼みたいことって言ったらそれくらいなものだよね? 剣の修行相手を頼むにしては弱すぎるし……ハンデをつける? あ、いや。ロイド達の相手ならちょうどいいかも?


「おっぱいが吸いたくなったらいつでも来ていいわよ!」


 なんて考えてると、バカがバカなことを言い出した。何言ってるんだろう、このバカは。


 っていうか、言ったら悪いけど、ローナ胸がないじゃん。あるっていえばあるけど、そんなおっぱいを強調して話題に出すほどの代物でもなくない? そうやって胸を張ってもあんまり目立ってないよ。


「それ目的で来ることはないからせいぜい悔しがっててよ」


 そもそも二人が奴隷になることを引き受けたのはそんな理由のためじゃないし、初めから頼むつもりなんてないから。


「くっ! やっぱりおっきいのがいいのね! ミューみたいな!」

「え? えっと……吸いますか?」

「だからその話はもういいって」


 バカなこと言ってないでもうちょっとなんかまともなこと考えようよ。ミューもそんなバカの話に付き合わなくってもいいからさ。


「それで、僕が君達と契約することにした理由……仕事に関してだけど、一緒に商売してくれるってことでいいんだよね?」


 まだ具体的にどんなことをするのかは決まってないし、大丈夫だと思うけど、一応確認はしておかないとね。


「あ、はい。まだはっきりと聞いたわけではないので詳細は分かりませんが、獣の肉を狩って売る、ということで良いのですよね?」

「ほんと、よくわかってるね。うん。それでいいよ」


 獣っていうか、獣と魔物だけど、お肉を売るのが合ってればそれで十分でしょ。


「でしたら、問題ありません。書類に関しては姉さんがいれば通るでしょう。アレでも二十をすぎているので。ただ、今は移住期間も過ぎていますし、姉さんは魔族ですので、実際に商売ができるようになるまで最低でも一月はかかるかと思われます」

「それは、人間の奴隷となっていたとしても?」

「はい。奴隷になること自体は当人たちの間で済むものですが、その関係が別の書類に関わってくるとなると調査が入ることがあります。ですので、その分時間がかかるものなのです」

「調査って……こっちに話を聞きに来たりとか?」


 それは、ちょっと面倒だなぁ。僕が家にいる時ならいいんだけど、いない時だと母さんに色々とバレるし。


「いえ、調査といっても、陰ながらの調査です。ですのでこちらで何かをすることはないでしょう。契約や書類自体が完璧であれば、呼び出すことはできませんし」


 そっか。じゃあ、こっちを監視してる人がいたとしても、すぐには処理しない方がいい感じだね。もしそれが行政側の人だったら面倒なことになるし。

 その分普通の不審者を相手する場合は反応が遅れるけど……まあ大丈夫でしょ。今までそんな襲撃なんて一回しかなかったし、ちょっと反応が遅れた程度じゃ僕はもちろん、今のロイド達も倒されることはないと思うし。


「ただ、絶対にないとも言い切れませんので、万が一には聞き取りの者が来るかもしれません」

「まあ、じゃあその辺の擦り合わせもしておいた方がいい感じかな?」


 何もないことが一番いいんだけど、何かあることを前提に色々と隠したり話を合わせておいた方がいいよね。


「はい。ただ、それはまた後でといたしましょう。詳細を詰めるとなると時間がかかるものですので」

 チラリとロイドたちのことを見た

「ああ、確かにそうだね。それじゃあまた後で話すとして、本題の商売についてだけど、商売自体は問題ないと思う?」

「はい。今この街では食用となるものは不足気味ですので、どこへ持って行っても歓迎されることでしょう。それが肉となれば尚更です」

「そっか。ならいいかな。そういうわけだから、ロイドもマリーも、修行兼仕事を頑張ってね」

「おっ。やっと肉をたくさん狩ってもいいんだな!」

「まあたくさんって言っても、自分たちが食べる分と、多少売る分だけね。もし森の獣を借り尽くしたらまずいからさ」


 この二人でも森の奥にはいけないし、狩り尽くすことはないと思う。けど、浅い部分の生態系を壊してしまう可能性は十分に考えられる。

 浅い部分っていっても結構広いし、そんなことはそうそう起こりはしないと思う。でも、起こるかもしれないわけで、気をつけるに越したことはない。


 それに、こういっておけば無理して肉を狩ろうと森の中に深入りすることはないでしょ。一日のノルマとか、大量に取らないと、って思うとついつい深入りしたくなるだろうけど、取らなくても問題ないんだったら適当なところで引くだろうからね。


「ねえねえねえ。ディアっ様。ちょっといい?」

「だめ」


 ディアっ様って僕のことでいいんだよね?

 ふざけた呼び方してたからなんか反射で答えちゃったけど、まあいっか。


「だめじゃないですー。んで私たち、ごしゅの奴隷になったでしょ?」


 じゃあ、ちょっといいかなんて聞く意味ないじゃん。しかもさっきと呼び方変わってるし。


「せめて呼び方統一しない?」

「じゃあご主人たま?」

「却下。ご主人様って普通に呼んでくれた方がマシなんだけど?」

「じゃあそんな感じでよろろん」


 適当だなぁ。まあそんな厳しくするつもりはないし、二人のことを普通の奴隷のように扱うつもりはないからいいんだけどさ。でも、なんかなぁ……。


「んで、ご主人様の奴隷になったわけだけど、実際にこれから狩りしてくわけっしょ? そんでもって、そのメンバーの中には私も入るのよね?」

「まあ、毎回じゃないと思うけど、たまには?」


 基本的に、ローナにはミュート一緒に店の方を頼みたいと思っている。だって店の職員が一人だけって、大変でしょ? たまにロイド達の面倒を見てもらうこともあるかもしれないけど、基本は店側での仕事が中心になると思う。


「だったら、お互いの実力ってのを知っておいた方がいいと思うわけよ。何にも知らないまま、はいじゃあ今日は一緒に狩りをしましょー、なんて言われても、失敗する未来しか見えないもん」

「……まあ、それは確かに?」


 ローナの言うことも一理あるね。僕に用事があってロイド達のことを頼むことがあった時、初めて一緒に行動するんじゃロイドとマリーも動きづらいだろうし、ローナだってどう気をつければいいのかわかんないだろう。

 それを確認するためには手合わせをしてもらうのが手っ取り早いんだけど、どうしようかな。


「んー……どうする、二人とも。これからレーネと戦ってもら——」

「おう、わかったぜ!」

「あたしらだってつええんだって教えてやる!」

「ふふん! 確かにあんたたちも強いんでしょうけど、残念だったわね! 私の方が強いのよ!」


 ……なんか、三人ともすっごい乗り気だなぁ。いや、いいんだけどね? やる気があることはいいことだし、無理やり戦ってもらうことに比べたら全然良い。

 いいんだけど……なんか元気なのが三人になると、これから大変そうだなぁ。なんて思ったりする。


「ミューはどうする?」

「あ、いえ。私はあくまでも情報官ですので、戦闘はあまり得意では……」

「そう? まあ実働隊として動くのはレーネだし、そっちだけわかればいっか」


 ということで、いきなりではあるけど、ロイドとマリー対ローナの戦いが始まることになった。

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