第34話契約完了
「それでは改めまして、今後はよろしくお願いいたします。ご主人様」
「よろしく。ごしゅ〜」
うん、よろしく。でも、ローナのその語尾何? これから契約を結ぶっていうのに、軽すぎない? 間違っても主人に対する反応じゃないと思うんだけど。
「……ねえ、ローナだけ契約しないでいいかな?」
ミューは普通に役に立つし、対応も面倒じゃないけど、ローナはちょっとね……。さっきロイドも言ってたけど、ずっとこれが続くとなるとなかなか面倒かも。
「なんで!? やっぱり語尾に〝にゃん〟ってつけた方が良かった?」
ほらね? 一事が万事この調子だと、すっごい疲れることになると思う。
「少しアレなところもありますが、能力だけは有能と言えなくもないので共に契約していただければと」
「そーよそーよ。私ってば優秀なんだから! ……あれ? 今能力だけって言った?」
あー、ミューもそんな認識なんだ。でも、そうだよね。だって普段からこんなだと、厄介ごとも相応に引き受けてそうだし。
ローナからジトッとした目で見つめられていながらも、決して目を合わせようとしないミュー。
そんなやりとりを見ていると、くすりという笑いが自然と溢れていた。
「まあ、大人が必要なのは確かだし、仕方ないかな」
実際、大人がいてくれると助かるんだよね。僕たちが何か新しいことをするにしても、登録するのには大人が必要なことってあるし。
まあ書類って言っても、すべての情報を完璧に管理できているわけじゃないんだから誤魔化そうと思えば誤魔化せるんだけど、後々のことを考えると、嘘は一つでも少ない方がいい。
それに、魔族って立ち位置は厄介ごとであると同時に、便利でもあるんだ。
あいつら生意気だな。でも魔族が仲間にいるから手を出すのはやめておこう、って感じでちょっとイキがってる程度の相手は大人しくしてくれることがあるかもしれないから。
仲間に魔族がいることを承知で襲ってくる様なら、それは加減なしに叩き潰していい類の相手だからそれはそれでありがたい。
だからまあ、僕は二人のことを受け入れようかな。もちろん、僕はいいとしても母さんに迷惑をかける様なら追い出すけどね。
「大人には見えねえけどな」
「ミューの方が大人っぽく見えるんじゃないか?」
まあ落ち着いてるしね。それに、あんまりこういうことを言うのもどうかと思うけど……胸が大きいし。なんていうか、それだけで女性らしさとか大人らしさを感じるよね。周りにいる人が子供っぽいと、特にさ。
……変態とかすけべとか、そういうことは言わないでよ? しょうがないじゃん。男なんていくつになってもそんなもんなんだよ。お前90近い爺さんだろ、なんてのはナシだ。だってもう僕は〝僕〟として生まれ変わったわけだし、女性に目が行くのは当然でしょ。
それに、この思考は生物として間違ってないでしょ。むしろ、それを卑下したり非難する方が生物として壊れてるよ。だから僕は悪くないし、おっさん臭くもない。
堂々とみるのは悪いと思うけど、目や思考が〝そこ〟にいっちゃうのは仕方ないことなんだ。
……でも、なんかごめん。
「あ。そうだな! なんか落ち着いてるし、胸もでけえし!」
「っ……!」
なんて考えていると、突然のロイドの発言が炸裂した。
ロイド的には悪気も何もない純粋な言葉なんだろうけど、その言葉を聞いてミューはビクッと肩を振るわせると、顔をほんのりと赤つつわずかに背中を丸めて縮こまろうとする様子を見せた。
まあ、流石に恥ずかしいよね。あんな堂々と言われちゃあさ。
「おいこら変態! なに堂々と胸見てんだよ!」
「は? いいじゃんか別に。っつか、見たくて見てるわけじゃねえよ。ただでけえなって思っただけだっての」
ロイド……気持ちはわかるけど、そこは黙っていた方がいいよ。この状況ではマリーの方が正義だから。
なんて思うけど、ごめんね。今の僕はそれを助言することもできないや。だって、何か言ったらこっちに被害が来そうだし。
「それが変態だってんだよ! まったくっ!」
「いいんです。私は一族の中でもむ、胸が大きかった方ですし……」
「ねー。おっきいよねー。羨ましいわー。私ってばちょっと慎ましい感じのやつなのに。山羊族ってみんなぺったんなのに、ミューだけズルっ子よね。私にも分けろー!」
ローナってもしかしてミューの敵だったりしない? そこは普通、恥ずかしそうにしてる妹を庇ったり話を逸らすものなんじゃないの? ……あ、もしかして、こうやってあえて話を振ることで明るい空気にしようとしてるとか? こういうのはコソコソと話すから恥ずかしくなるものであって、堂々と悪意なく話をふられた方が恥ずかしくもないだろうし。
……ないかなぁ。ローナのことだからそこまで考えてないだろうし、普通に本音で話してそう。
でも、そっか。ミューは一族の中でも大きいんだ……。
って、ああいや、そうじゃない。そんなことじゃなくって、えーっと……そう! 今日のうちに契約を済ませちゃわないとだし、さっさと話を進めよう!
「あー、えっとさ、遊ぶのは後にしてくれないかな? 今は、契約のことじゃないの?」
「あ、そうね」
「は、はい。申し訳ありません。それでは早速隷属の儀式を行わせていただきます」
これでさっきの話も流れて普通の感じに戻るだろう。
なんて思って少しホッとしてると、いきなりローナとミューが服を脱ぎ出した。
「なっ!?」
「なんで急に脱いでんだよ!」
「おいバカっ! 見てんじゃねえよ!」
突然の行動に僕たちは驚き、マリーによって僕もロイドも顔面に正面から平手打ちのように目隠しを喰らい、そのまま後ろに押し倒された。
倒された衝撃で頭が痛いし避けようと思えば避けられたけど、これは避けるべきじゃないよね。
「これが奴隷になるのに必要だからです」
ミューは少し恥ずかしそうな声で言ったけど、奴隷になるのに必要って、そんなことあったっけ? 僕が覚えてる限りだと、剣王時代はそんなこともなかったんだけど、時代が変わったことで戦い方だけじゃなくってその辺のことも変わったの?
「隷属の儀式は、奴隷に道具を使うことで成立します」
ああ、だよね。剣王の時もそうだった。首輪型が多かったけど、焼きごてみたいな紋様タイプだってあったし、変わったところだとネックレスとかイヤリングなんてのがあった。
僕は奴隷に反対も賛成もしない。だって、非道な面があるのは確かだけど、それで救われている者も確かにいるんだから。むしろ、奴隷があるおかげで救っている人数の方が多いかもしれない。
僕自身は奴隷をそばに置いていなかったけど、一応王様だったしその辺の事情もちょっとは知ってる。城でも奴隷はいたしね。だからどんなものがあるのかも見たことがあるのだ。
「でも、道具とかあるのかよ?」
「いえ。ですが、道具はあくまでも〝誰でもできる〟ようにするためのもので、方法を知っていて技量があれば道具がなくとも可能です」
「そして! なんとこのミューにはそれができるのよ! 私にはできないけどね!」
「自慢することじゃないかなぁ」
本当に自慢することじゃないと思う。けど、妹想いの姉と考えればいいことなのかな?
それよりも、目を塞がれているはずなのに、上裸になって惜しげもなく胸を晒しながらも、堂々と胸を張ってるローナの光景が容易く思い浮かんでしまう。
それだけローナのことを理解してるってことなんだろうけど……やだなぁ。
「ですので、どうぞ御手を」
と、そこで僕の手が掴まれ、起こされた。そうなれば当然マリーによる目隠しは外れ、僕の前に晒されているローナとミューの裸を見ることになるんだけど、これはもう仕方ないでしょ。そういうものなんだからさ。
「そ、それでは、これより契約の儀式を始めます」
そして、起こされてもまだ握られていた手はそれぞれの胸の中央へと持っていかれ、ぴたりと押しつけられた。
「ん……」
やめて。そんな声出さないで。反射的なものかもしれないけど、なんか罪悪感感じるじゃん。
役得だって、思わないわけでもないけども……。
「はーい。こっちの手は私の方ねー。……あんっ」
変な声出さないでよ。僕が動かしてるわけじゃないのに僕がやってるように思われるじゃん。っていうか、こっちは絶対わざとでしょ。胸に押し付けてる手を動かさないでよ。
……あれ? この感覚はもしかして……
「あ……」
儀式が始まった瞬間になんとなく理解はできたけど、これ、やっぱり生命力を使ってる。ってことは、この二人も生命力を使っての術を使うのかな?
もしそうなんだとしたら、魔族が生命力を使って戦うのに、対抗する人間側は魔力だけって……そりゃあ負けるよ。むしろ、今までよく持ち堪えてきた者だって感心するくらいだ。
「はあ、はあ、はあ……お、終わりました」
「どうしたの、ミュー」
なんだかすごい苦しそうに息切れしている。けど、一緒に契約したはずのローナの方は何も感じてないようでピンピンしてる。……って、もう離してよ。なんでいつの間にか胸の中央から胸を揉むように僕の手を動かしてるのさ。次から変態って呼ぶよ。
「いえ、なんでも……。ただ少し、二人連続は厳しかっただけで……」
「そう? まあ無理はしないでね」
「はい。ありがとうございます」
それにしても、さっきの感じだと生命力を利用して魂に直接契約を刻んでたね。方法と原理は理解したし、慣れれば僕でもできるかな?
こんなに疲れるようじゃ問題だけど、うーん。やってみれば結構簡単にできそうな気がするんだけどなぁ。
「なーに私達のおっぱい見てんの? あ。もしかしておっぱい飲みたい? でも残念ながら私のは出ないのよねー」
もう契約自体は終わったんだから服を着ようよ。なんでいつまでも晒してるのさ。
「いらないよ。変態猫」
「変態猫!? 誰がよ!」
「ローナがだよ。いきなりおっぱい飲みたいか聞いてくるなんて、どう考えても頭おかしいでしょ。出るならまだしも、出ないのに聞いてくるなんて尚更おかしいでしょ」
「そんなのおっぱいばっかり見てるあんたが悪いんじゃない! それに、私は出ないけど、ちゃんとミューのは出るんだから! だから聞いたんじゃない。私おかしくないもん!」
「え?」
え? ミューって母乳出るの? でも乳って子を孕んだ場合しか出ないものなんじゃ……って、違うよ! なんでそんなこと考えてるのさ! そうじゃないだろ!
「わ、私はその、山羊ですから、そういう種族ですので……」
「ああ……そっか。山羊って乳が取れるんだっけ」
な、なるほど。種族特性的なやつだったんだ。まあ、そうだよね。ミューの歳で子供を産んだことがあるわけない、よね? だって十三歳だしさ。少なくともその歳で、って言うのは普通ではないはずだ。
「の、飲みますか? 飲むんだったら……ど、どうぞいっぱい吸ってください!」
ローナが、ミューも意外とポンコツだというようなことを言っていたけど、これのことか。確かにこれは……うん。ローナの妹だなぁ……。
「いや、飲まないし吸わないよ。だから早くしまっちゃって」
「ほ、本当に大丈夫ですか? 必要ならいつでもおっしゃってくだされば……」
「いいから。とにかく早く服着てよ」
じゃないとまともに話をすることもできないよ。
そう思いながらため息を吐いて、いまだに目隠しをされて倒されているロイドへと目を向けると、なぜかマリーと目が合った。
……今のやりとりで、軽蔑されてないといいなぁ。友達としても、弟子としても、冷たい目で見られるのは結構悲しい。
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