第33話十歳は誤差!
「ね? ……じゃなーい! なんでお願い聞いてもらおうとしてる人に襲い掛かってるの! もう、バカなんだから!」
「バカじゃないですー。っていうかお姉ちゃんにその言葉はひどくない!?」
「だってバカなんだもん!」
殴りかかってきた理由が、悪意がなくとても単純なものだったので呆れていると、ミューがそれまでの真面目でしっかりものな雰囲気をぶち壊してローナに怒りだした。
「力を隠そうとしてる人を相手に話し合いじゃ、いつまで経ってもおわんないってのよ。だったら、こうした方が早いでしょ?」
「でもっ——」
「いいよ、ミュー。そこのアホがアホだってのは、ここにくる前からわかってたし」
ミューはまだローナに対する怒りが収まらないのか、それとも僕に対する罪悪感からなのか食い下がろうとしたけど、確かにローナの言っていることは間違いではない。
二人のことは助けたいと思ったけど、それはそれとして正直言って面倒ごとはごめんだと思ったし、できる限り能力は隠そうと思っていた。だから、ローナの暴挙がなければ平行線のまま話が長引いた可能性は十分にある。
それを考えると、無駄な時間を省いたって意味ではローナの行動は間違いではない。まあ、頼み事をする相手にいきなり殴りかかるなんて、それが必要なんだとしても躊躇わずにやるのはどうかと思うけどさ。
「だからアホじゃないってば!」
「アホじゃなかったら、酒で酔い潰れて取り残されるなんてことになってないでしょ」
「そ、それはぁ……そのぅ……ね?」
言い淀んでる時点で自分でもダメダメだってわかってるんじゃん。
「ともかく。そういったわけですので、私たちを奴隷とし、あなたにご主人様となって欲しいのです」
このまま放っておけば二人は苦しい生活をすることになるだろう。いつかは別の主人を見つけるかもしれないけど、それまでは大変だろうし、悪いじんぶつではなさそうだからできることならば助けになりたいとは思う。
けど、これでも僕は剣王なんて王様をやってたんだ。たとえそれがお飾りだったとしても、損得を考えるだけの頭はある。
「……つってもさー、ディアスにメリットがなくね? 魔族と一緒にいたら、絶対に面倒なことになるじゃんか」
なんて考えていると、僕が何かを聞く前にロイドがローナ達に問いかけた。
確かに、面倒は起こるだろう。……あ。母さんにどう説明しよう? すぐに、じゃないとしても絶対にバレるよね。魔族と一緒に行動してたら噂になるだろうし、バレないわけがない。
けど、それ以外にも面倒は起こるだろうし、それらに対処するために労力を使うことにもなる。その労力分の何かを得られるのでなければ、二人と契約するつもりはない。
「でも美少女二人を好きにしていいのよ? すっごいお得じゃない?」
「……美少女?」
自信満々に答えられたローナの言葉に、マリーが首を傾げているけどどうしたんだろう?
実際、ローナは自分で言うように結構可愛い見た目してるし、美少女っていうのもあながち間違いじゃないと思う。
「美少女でしょ! どっからどう見ても!」
「あ、うん。可愛いのは認めるけど……でも、二十一なんだろ? それっておば——」
「最後まで言わせないから! 誤差よ! 十歳も二十歳も早退して変わんないわ!」
ああ……そういえば、もうローナって二十越えてるんだったっけ。それなら確かに、自分のことを美少女って言うのは……その、ちょっと痛々しい、かな?
「誤差か?」
「十歳差ってだいぶデカくね?」
「……まあ、二十一歳でおばさんって呼ぶのは早いんじゃない? だからって美少女って呼ぶような歳かって言われると、うん。まあ、そうかもね?」
なんとかフォローしてあげようと思ったけど、おばさん呼びに関しては僕も言葉が出てきたけど、自分のことを美少女と呼んでることに関しては、つい言葉に詰まってしまった。だって……ねえ?
「優しさが痛いんだけど!? せめてはっきりいってくんない!?」
「姉さん。少し落ち着いてください。今は話をまとめる方が大事なので」
「……私の歳だって大事だもん」
ローナ的には大事かもしれないけど、今回僕達がこの場所に来た目的からしてみれば全く大事じゃないからね。
「それで話を戻しますが、そちらのメリットに関して私たちから提示するものは、あなた方の今後の手助けです。私たちが知りうる限りの情報を提供しますし、使いぱしりでもやります。大人としての立場が必要なのであれば、ローナを使ってくださって構いません」
本当に奴隷として使われるつもりはある、と。厄介事を承知で抱え込む対価としては、どうなんだろうね。
まあ正式に契約をすれば国は問題ないとしても、それ以外のチンピラとか、法律の外側のがね。
……あれ? でもそういった連中は叩き潰せばいいだけなんだから、意外と問題はない、のかな?
「契約をするにしても、その期間は? まさか一生ってわけじゃないでしょ?」
「九年。次の戦王杯が開かれるまでとなります」
「それまでは奴隷で、境界が消えたら解放ってこと?」
「そうなりますね。境界さえ通れるようになれば、私達は自力で戻ることができるようになりますので」
まあそっか。境界が完全に行き来することができなくなって困ってるから奴隷になるんだから、境界さえ通れるようになれば奴隷でいる必要なんてないもんね。
「でも、境界が消えれば戻ること自体はできるんだから、九年も契約する必要なくない。三年か五年あたりの契約でも、今の状況を凌ぐだけなら十分でしょ? それだけの時間があれば脱出の手を整えることもできると思うけど?」
一応今の状況だけ凌いでしまえば、身内を魔王軍に処理されることもないし、こっち側での生活を安定させることもできると思う。なんだったら、急場さえ凌げれば一年もあればなんとか生活していくだけならできるでしょ。
奴隷なんて好きでなるわけでもないんだし、その期間はできるだけ短い方がいいんじゃないのかな?
「それはそうですが、しかしそれだと筋が通らないではないですか。こちらの都合で厄介事に関わらせ、助けてもらうのに、こちらの都合がついたらさようなら、ではあまりにも道理にもとる行為です。私は、そのような恩知らずになるつもりはありません。途中で抜けることができる契約ではなく、途中で何があろうと最後まで責任をとる契約でなくては、私が納得できません」
「……随分と、魔族について勘違いしていたかもしれないな」
なんというか、思ったよりもまともっていうか、まっすぐ?
「あ、いえ。基本的には勘違いではないと思います。私は一族としても、魔族としても、異端に分類される類の者ですので」
ああそうなんだ。でも、分かるかもしれない。だってローナって明らか異端側の人だし、その妹やってられるんだから、どっちかって言ったら異端枠だろうからね。
「まあ、わかった。それじゃあ、その契約受けようかな」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
「でも、九年後か……その時には三十だな!」
「三十って、もう人生半分終わってんじゃん。それでいいのか?」
「大丈夫よ! いざとなったらこいつに孕ませてもらうから!」
人のことを指差して何言ってるんだろうね、あのお馬鹿は。勝手に人のことを種馬扱いにしないでほしい。
「……契約するのやめていいかな?」
「すみません! 黙らせますからお願いします!」
「んぎょっ——」
地面に頭をつけて謝ったミューは膝立ちになり、ローナのいる方向と反対を向いたかと思うと後ろ足でローナの脇腹を思い切り蹴り飛ばした。
でも、いいのかな? なんか人が出すような声じゃない悲鳴みたいなのが聞こえたけど。
「……意外と強いんだね」
「これでも魔王直轄部隊の一員ですので」
確かに、この威力を見せられれば納得だね。
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