第38話 初回得点(3)

 高校生のサッカー大会は、男子も女子も夏のインターハイと冬の選手権がメインだ。


 すずたちの県立高校は、インターハイの全国大会に出場するのが目下の目標だが、現実的には、県の予選リーグに勝ち残り、決勝トーナメントで1回勝ち上がって準決勝まで残ってベスト4に入ることが狙いだ。そうすれば、秋から始まる選手権で予選リーグを経ずとも決勝トーナメントに残ることができる。

 決勝トーナメントを勝ち残れば、近県の代表同士で戦う地区エリアのトーナメントへ進出し、そこで上位に入って、ようやく全国大会の切符が手に入る。

 いずれは全国大会に出場したい。

 だが、昨年までの大会では、予選リーグを勝ち残るのがやっとで、決勝トーナメントを勝ち抜くことができず、万年ベスト8だった。


 今年は、今までのところ、4戦あるうちの予選リーグの3戦を終えて、2勝1分けと、おおむね順調で、決勝トーナメントへの出場は既に決まっている。

 中でも、後藤は予選リーグ3試合で合計7得点を上げたことで、予選リーグであっと言う間に注目されるようになっていた。

「ゴトゥーって何者? あんなに点を決めるのに、なんでうちの高校にいるの?名門から推薦の話なかったの??」

 練習後、更衣室ですずまさに尋ねる。

「ああ、ゴトゥーって、ああ見えて帰国子女で、どこの国だったかな?」


 …………


「えええ!?」

 涼の頭が一瞬理解を拒否した。


「外国でサッカーやってたけれど、ご家族の帰国に合わせて、中3のときにこの街に来て、一般受験でうちの高校に入ったんだって言ってた。だから、実力はあるんだけど、日本では全く知られていなくて、どこからも推薦入学の話がなかったみた」

「家から近いし、サッカー部あるし、このコーコーに入るしかないじゃーん♪ 」

 涼と雅の肩に腕を掛けて、後藤が話に割り込んできた。

「ゴトゥー、えーご喋れるの?」

「あたし?日本語しか話せない残念帰国子女だよ♪ 」

 涼の質問に後藤がなぜか偉そうに胸を張って答える。

「向こうにいたの、そんなに長くなかったし、日本人学校だったし。でも、サッカーに言葉はあんまり関係なかったもん」

「わ、ゴトゥーが普通にしゃべった!!」

「ハセガー……、いくらなんでも、それひどい。ゴトゥーはこう見えても成績いいんだよ」

「いや、こう見えてもって、ニシザーもひどいじゃん」

「ハセガーもニシザーも、あたしのことをなんだか僻んでいるらしいというのは分かった♪ 」

「「ちげーよっ」」

 3人でけらけらと笑う。


「でも、4アシスト1ゴールのニシザーももっと褒められるべき♪ 」

 後藤の7得点のうち、3点は雅がアシストしたボールだったし、逆に、ゴトゥーがゴール前に上げたボールを雅が決めたこともあった。

「ゴトゥーのクロスボールがいいところに来たからね」

 後藤が雅を褒めて、雅が照れ笑いを見せた。

「あたし、あたし、ニシザーとコンビプレイやれてうれしー♪ ニシザーと二人でツートップでやりたい♪ 」

 ゴトゥーが一人でくるくる回る。

「ツートップ?」

 涼が首を傾けると、雅が答える。

「んんー、FWフォワードが二人の陣形。今は、FW3人なのがうちの陣形」

 サッカーはキーパー以外の10人を、おおむねDFディフェンダー、MF、FWの3陣に分ける。今のところ、後藤はFWで、雅はMFミッドフィルダーだ。

 後藤は両手を広げる。

「ツートップで、コンビプレイで点をばんばんとってー、『双翼』みたいなかっこいいあだ名をつけてもらうのー♪ 」

「やだ」

 雅がにっこり笑って、後藤の願望をざっくりと拒否する。

「えー!?」

 後藤が口を尖らせる。

「ハセガーも入れて、『三羽烏』とか『トライアングル』みたいのがいい」

 雅がけろっと、涼を仲間に引き込む。

「うえええ」

 涼がうめき、後藤は目を丸くしてから笑う。

「それでもいー♪ 」

「待って、君たちはレギュラーだけど、わたし、ベンチにも入れてないよ」

 涼は、一人焦る。

「じゃあ、早く、レギュラーになればいいじゃん」

 雅が歯を見せて笑った。後藤もそれに続く。

「早く早く♪ 」

 二人は気軽に涼をけしかけてくる。


 簡単に言ってくれるじゃないか。


 涼は、軽く歯を食いしばる。

 ベンチ入りするキーパーの枠は二人。しかも、ゴールキーパーが試合で交替することはほとんどなく、スタメンを勝ち取れるのは、チームでたった一人ともいえる。

 3年も宮本先輩と、2年の林先輩。そのどちらかを蹴落とさなければ、涼はベンチ入りできない。宮本先輩が引退すれば涼がベンチ入りできるかもしれないが、現状では、林先輩がいるからスタメンにはなれない。しかも、次の年に経験のある巧い1年生キーパーなんてものが入学してくれば、落とされるのは涼だ。

 

 見てろよ、と思いながら、ばんっとロッカーを閉めた。


 ところが。

 予期せぬ形で、ベンチ入りが涼に回ってくることとなる。

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