第47話
そして、そのまま絃葉に引っ張られてお土産コーナーに着いた。
「お、落ち着いて永澄さん。」
「あっ、ごめんね。」
有翔に宥められてようやく立ち止まった。絃葉がここまで怒ったのは有翔と絃葉が出会った頃以来だ。
「いやー、しかし久しぶりに見たね。永澄さんが本気で怒ったの。」
「おねーちゃん怖かった。」
「嘘。怖かった?ごめんね。ちょっとムカついちゃって。」
あの日を思い出して懐かしそうにする有翔に、まったく怖かった素振りを見せず、怖かったと告白した花凜に絃葉は、申し訳なさそうに言った。
「見事に地雷踏んだもんね。あの男。」
「奇しくもあの時と同じ内容でね。」
「その節はごめんなさい。」
懐かしいと思ったはずなのに、有翔は身震いする。
「いいよ。もう気にしてない。それよりも、かわ...」
絃葉が何かを言いかけたが、
「おねーちゃん、おにーちゃん。なんのお話してるの?お土産さん買わなくて良いの?」
花凜の言葉がそれを遮った。
「あっ、あぁそうだね。じゃあ見て回ろっか。」
「永澄さん、なんて言おうとしたの?気になるんだけど。」
「何でもないよ。ほんとに何でもないから!」
続きの気になる有翔は、どうしても言いたくない絃葉の勢いに押し切られた。
そして、花凜の気にいるお土産を探してお土産コーナーを見て回る。
「あれが良い。」
花凜はイルカのぬいぐるみを指さして言った。
「このぬいぐるみでほんと良いの?もっと色々有るよ。」
「うん!だっているかさん。凄かったしかわいかったんだもん!」
さっきのイルカショーで随分とイルカを気に入ったみたいだ。花凜の手の届かないところにあったぬいぐるみを絃葉が取ってあげると、大事そうに抱きしめた。
「永澄さもんもなにか欲しかったら言ってね。」
「え?私?私はいいよ。」
関係ないと思っていた絃葉は、体の前で左右に手を振って遠慮する。
「それなら、塩野くんこそ何も要らないの?」
「俺は大丈夫だよ。もういっぱい貰ってるから。」
「私たち、塩野くんに何もあげてないよ?」
ニヤニヤと笑いながら上目遣いで首を傾げる絃葉。しかし、有翔は知っている。この笑顔を浮かべる絃葉は有翔をからかう時に見せるものだと。
「あ、あれは...」
だからと言って、からかい返すこともできず視界の端にあるものを見つけたものを指さして話を逸らそうとする。
「ど、どうし...ひっ。」
つられて有翔が指さした方を見た絃葉は、小さく悲鳴をあげた。
「ダイオウグソクムシのぬいぐるみだって、侑季にお土産で買って帰ろう。」
それもそのはず、絃葉が見ることも出来なかったダイオウグソクムシのぬいぐるみがあった。そして、それに目を向けず恐る恐る言った。
「大丈夫なの?水戸南さん嫌がったりしない?」
「あいつこういう系の大好きだから大丈夫。」
そう言って有翔はあっけらかんと笑った。そして、ダイオウグソクムシのぬいぐるみを手に取ってレジに向かい、有翔かお金を払おうとすると、
「ちょっと待って、わたしも払うから。」
財布を取り出した絃葉に止められた。しかし、有翔はそれを社交辞令と受けとりそのままトレーにお金を入れた。そして、それはそのまま受理された。
「なんで全部払っちゃうの。」
「こんな時しかお金使う時ないから問題ないって。」
「そうじゃなくってぇ。」
絃葉は、子供みたいに不貞腐れた声を出す。
「じゃあ帰るか。」
面倒臭くなりそうな気配を感じたので有翔は、花凜と三人で手を繋いで水族館を後にした。
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