第46話

「ごめん、ちょっとお花摘みに行って来て良いかな?」


「良いよ。花凜ちゃんのことは見とくから。」


お土産コーナーに向かう途中で、絃葉がトイレに行った。しかし、いくら待っても帰って来ない。


「おねーちゃん遅いね。」


「そうだね。さすがにおかしいし迎えに行こっか。」


絃葉を待つ間、椅子に座っていた花凜が待ちくたびれたと足をバタバタさせるので、花凜と一緒にトイレの方に迎えに行く。


すると、女の子が大学生くらいの男に詰め寄られているのを見つけた。


「あ!おねーちゃんだ!」


「ほんとだ。花凜ちゃんちょっと大人しくしててね。」


男に絡まれてる女の子が絃葉だと分かり、有翔は焦ってそこに近づく。


「あのー、ちょっといいですか?」


「あぁ、んだよ!俺は今忙しいんだ!」


有翔が、男に声をかけると振り返って怒鳴られる。


「忙しいってナンパにですか?ここ公共の場で辞めた方が良いと思うんですけど...」


「っ...うるせぇ!お前には関係ねぇよ!」


有翔に正論を言われた男は、一瞬怯んだものの綺麗な逆ギレを決める。


「関係ならありますよ。その可愛い女の子は俺の連れなんで、あんまり邪魔しないで貰えます?」


「し、塩野くん、可愛いって...」


「なに?その反応?」


有翔は自分が絃葉に可愛いと言ったことに気づいていないし、絃葉は可愛いと言われて恥ずかしくて照れる。


「お前ら、俺を無視してんじゃねえ!そもそも、お前とその子じゃ全然釣り合ってねえっての。」


「釣り合ってないって、あんたも大概じゃないか?あんたが釣り合ってるとはとても思えない。」


「ねぇ、ちょっといい?」


有翔が男と言い合っている横で、絃葉がいつもよりも低い声で男の肩を叩いた。有翔は、それに気づいて息を飲む。


「え?やっと俺と来る気に...」


鈍感な男は調子に乗って何かを言おうとして、息を詰まらせた。


「塩野くんと釣り合うとか釣り合わないとか何様のつもり?」


そして、ようやく絃葉の地雷を踏み抜いたことに気がついた。


「え?いや、そんなつもりじゃ...」


「じゃあどんなつもりだったの?」


絃葉の圧にさすがの男もタジタジだ。


「ちょっと永澄さん、落ち着いて。」


「で、でも、この男が...」


「みんな見てるからさ。公共の場だしね。」


そう言われて、絃葉がはっとして周りを見ると、ほとんどが魚を見ないでこっちを見てることに気づいた。


「という訳なんで、私はあなたには着いて行きません!私は、塩野くんの方がかっこいいと思うので!」


「なっ...!永澄さん!?」


そう言って、混乱する有翔の手と花凜の手を引いて男を置き去りにした。


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