第45話

そして、ついにイルカショーが始まった。スタッフのお姉さんたちがイルカに合図を出すと挨拶代わりにイルカは手を振った。


「いるかさんたちかわいい!」


絃葉と花凜は、イルカたちに手を振り返していた。有翔は、絃葉もどことなくテンションが上がっているのだと察した。


そして、スタッフのお姉さんたちが続けてイルカに合図を出す。すると、イルカは頭上に高く吊るされたボールにくちばしでタッチした。


「おお、すげぇ。」


有翔は、素直に感嘆の声を上げ、花凜は夢中でイルカショーを見つめる。そして、絃葉は他の観客と同様に拍手をしてその場を盛り上げる。


「塩野くん、ほらすごいよ。イルカってあんなに飛べるんだね。」


絃葉のその声からも有翔に興奮が伝わる。


「あぁ、びっくりするな。羽も生えちゃいないのに。」


「ほんとだよね。けど、私には羽が生えて見えたけどね。」


「冗談言ってないで、せっかくのイルカショーだ。目に焼き付けてないともったいないぞ。」


有翔がそう言うと、絃葉はイルカショーに集中した。その後も、イルカたちはスタッフのお姉さんたちの合図に合わせて、その場で回転したり、スタッフのお姉さんを乗せて泳いだりしていた。


その度に、花凜は手を叩いたりしながら、全身で喜びを表現している。そして、イルカショーの最後には、スタッフの合図でイルカが水中から一斉に飛び出して、空中で一回転してみせた。


それを見た観客は立ち上がる人も居るほど大興奮だ。それは、花凜に絃葉、有翔でさえも例外でない。


そして、イルカショーの余韻に浸る有翔たちは、ぞろぞろと会場から出て行く観客には着いて行かずに、少しばかりイルカショーの感想について話す。


「花凜ちゃん、イルカショーどうだった?楽しかったでしょ。」


「うん!いるかさん凄かった!すっごい高く飛んでたし、いっぱい回ってたし、泳ぐのも速かった!」


「それは良かった。私も柄にもなくテンション上がっちゃったよ。塩野くんも珍しく興奮してたみたいだし。」


「まあ、さすがに凄かったからね。」


絃葉に興奮していたと指摘された有翔は、少し照れ臭そうにする。


「それで、今は十六時半頃だけど、もうそろそろ帰った方が良いんじゃない?」


「やだ!まだ帰りたくない!」


毎度のことながら、帰りたくないと言う花凜。


「塩野くん、実はねお母さんに許可を取りに戻った時、夕飯用にお金を貰ったからまだ、大丈夫だよ。」


「ダメだよ。明日も学校だし花凜ちゃんも幼稚園でしょ。それに、今更だけどあんまり夜遅くまで連れ回すのは気が引けるよ。」


「それこそ今更だね。けど、塩野くんの言う通りだね。花凜、お土産屋さんでなにか買ってあげるから、あんまり我儘言わないでね。」


「はーい。」


頬を膨らませ不服だと顔に出しながらもお土産を買うということで、ひとまず納得した。と、いうことで三人は土産屋さんに向かった。

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