第43話

人の流れに沿って歩いていると、広い空間に出た。


「お、ジンベエザメだ。」


そこには、一際大きい水槽に二匹のジンベエザメが入れられていた。


「かっこいいなあ。」


そして、水槽にいる他の魚に目もくれず二匹のジンベエザメの行方を目で追いながら段差に腰掛けた。


「このお魚さんが、おにーちゃんは好きなの?」


そう言いながら、花凜は有翔の足の上に座って、下から見上げた。


「そうだよ。かっこいいからね。一生みてられる。」


有翔は、花凜に目を合わせずに言いながら花凜の体に手を回した。そして、その横に絃葉が無言で座った。


「ふーん。だったらかりんは、じんべえざめ?あんまり好きじゃない。」


花凜は、自分に回された有翔の腕をぎゅっと抱き締めた。


「花凜、もうちょっと近づいたら色んなお魚さんが見れるよ。」


「いやっ!ここでいい。」


花凜の行動に反応を示さない有翔の代わりに、絃葉が花凜の面倒を見ようとした絃葉の提案を花凜は、拒否して有翔の足の上に座り続ける。


「おにーちゃん、まだ見るの?早く次のお魚さん見に行こうよ。」


ほとんど身動きを取らずサメを見続けて動く気配のない有翔に痺れを切らした花凜は、早く次に行きたいと有翔にアピールした。


「まだ見たいからもうちょっと待ってくれる。」


「ヤダっ!もう飽きたもん。」


まだ、満足できていない有翔は、花凜に待って欲しいとお願いするも、我慢の限界を迎えている花凜は、当然それを受け入れない。


「花凜も次に行きたがってるし、あと五分したら次に行くって約束して。花凜も、もうちょっとだけ我慢してね。」


「分かった。」


絃葉の折衷案に有翔と花凜は渋々頷いた。しかし、ふたりとも納得いかないと顔に出ている。


そして、花凜にとっては長く、有翔にとってはあっという間の五分が過ぎた。


「ほら、塩野くん。五分だったから早く行くよ。」


五分たって、スっと立ち上がった花凜とは対照的に有翔は、いつまで経っても立ち上がろうとしない。


「二人で満足いくまで水族館を見て回ってきていいよ。それが終わったら合流するよ。」


そして、あろうことか花凜の前で信じられないことを言った。


「いい訳ないでしょ。五分だったらって約束したじゃない。」


「おにーちゃん、早く行こうよ。」


それでも、有翔は一向に立ち上がろうとしない。


「塩野くん、花凜を悲しませるようなことはしたくないって言ってたよね。今まさに花凜が、塩野くんのせいで悲しそうだよ。」


「おにーちゃん、かりんと一緒いやなの?」


「ごめんなさい。すぐ立ちます。すぐ次のところに行きましょう。」


絃葉と花凜がこう言った瞬間に、岩のように動かなかった有翔が立ち上がった。


「まったく、子供じゃないんだからあんまり我儘言わないでよ。」


「ごめんなさい。」


そして、花凜と手を繋ごうと有翔が手を差し出したが、花凜はその手を無視して、絃葉を挟んだ反対側に行った。


「花凜は、塩野くんと手を繋ぎたくないってさ。」


有翔は、そのまま差し出した手を引っ込めて、ポケットに突っ込んだ。

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