第40話

通路を進んでいると、何やら人が集まっている場所があった。そこに近づいてみると、大人から子供まで幅広く人気の動物がいた。


「花凜ちゃん、ペンギンさんがいるよ。」


人混みで何がいるか見えない花凜に、有翔が教えてあげると、


「ペンギンさん!見たい!見たい!」


と、言ってぴょんぴょん飛び跳ねる。有翔は、近くにいた子連れのお父さんを見習って花凜を肩車してあげる。


「花凜ちゃん、ペンギンさん見える?」


「見える!ペンギンさんかわいい!」


有翔は、花凜の可愛さの感傷に浸っていた。すると、


「幼女の太ももに挟まれる感触はどう?」


絃葉に、心外なことを言われた有翔は、花凜に聞かれていたらどうしようかと焦ったが、花凜はペンギンに夢中で聞こえていない様子だったので安心する。


「いや、言い方悪すぎ。まるで俺が、幼い女の子に興奮する変態みたいじゃないか。」


「違うの?」


「違うよ。」


こんな人混みの中で、流石に身の危険を感じた有翔は、少し強めに否定する。


「ふふふ。ごめんね。ちょっとからかっちゃった。」


「心臓に悪い冗談は辞めてくれ。」


有翔をからかって楽しそうな絃葉は、有翔が肩を竦めるのを見て、また楽しそうに笑った。


「それにしても、ペンギンってどうしてこんなに可愛いんだろうね。」


「どうしてペンギンが可愛いのかは知らんが、分かってることならあるぞ。」


「なに?」


「ペンギンの語源は諸説あるんだけど、ラテン語で太っちょ。太っている。から来てるらしい。」


心臓に悪いからかわれ方をした有翔は、その仕返しとして聞きたくなかったであろう絃葉に言った。


「塩野くん、それ動物園に行った時にも聞いたよ。」


「え?ほんとに?」


しかし、動物園に行った時にも言っていたらしく、またかと呆れた視線を絃葉に向けられている。


「それと、私から一つアドバイス。」


「アドバイスって?」


絃葉にアドバイスなんてされる言われの無い有翔は、首を傾げる。


「私はいいけど、女の子とデートに行く時にそういうしょうもないことは、あんまり言わない方がいいかもね。」


「女子とデートって誰と?」


「例えば、水戸南さんと行った時とかだよ。」


「何でそこで侑季が出てくるんだ?」


本気で訳が分からないと思ってそうな顔をする有翔に、絃葉は、心の中で頑張れと侑季にエールを送った。


そして、一応有翔の気持ちを確認できたところで、別の話題に入る。


「前にも思ったけど、よくラテン語なんて知ってるね。」


絃葉は、関心したように言った。


「それは、負の遺産というか、何と言うか...男は大体通る道だから。」


有翔は、軽度だったが消し去りたい過去ではあるので、あまり掘り返したくないので、渋々口を開いた。


「それってもしかして、厨二病ってやつ?」


絃葉は察しがついたのか、ニヤニヤとしながら聞いた。


「ちゅーにびょうってなぁに?」


すると、ペンギンから最悪のタイミングで意識を取り戻した花凜が、純粋な興味で有翔を上から覗き込むようにして聞いた。


「かっこいいことが、好きになる時期のことだよ...」


有翔は、声を震わせて厨二病についてざっくりと説明した。


「おにーちゃんは、今もちゅーにびょうなの?」


「今は違うよ。もう卒業したんだよ。それで、ペンギンさんはどうだった?」


これ以上、花凜に色々と聞かれる前に話題を変えて回避する。


「ペンギンさん、可愛かったよ。おにーちゃんは?」


「可愛かったよ。」


花凜ちゃんが。と言うのを有翔は、ぐっと堪えた。そして、花凜を肩から下ろして再び魚を見ながら通路を歩く。







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