第38話
水族館に向けて出発した三人は、電車に乗り込んだ。そして、他の乗客の迷惑にならない程度に小声で話し始めた。
「塩野くんが、水族館に興味あるなんて意外だったよ。」
「水族館自体に興味はあんまり無いけど、サメが見たいんだよね。」
「サメ好きなの?」
「そうだよ。詳しいわけじゃないんだけどかっこいいからね。子供の頃からなんとなく好きだったんだ。ところで、花凜ちゃんは見たい魚とかいるの?」
自分の好きな物の話をするのが照れくさかった有翔は、早口でまくし立てて花凜に話を振ることにした。
「えーとね、かりん、マグロが見たいな。」
クラゲとかイルカを見たいと言われると想像していた有翔は、マグロという予想外の返答に固まってしまった。
「花凜、水族館にマグロはいないと思うよ。」
それを見て絃葉が、花凜に言った。
「マグロ、いないの?」
水族館にマグロがいないと知って悲しそうにする花凜。
「花凜ちゃん、イワシってお魚知ってるかな?」
ここに来てやっぱり行きたくないと言われないように、正気を取り戻した有翔が、必死に興味を惹こうとする。
「いわし?」
「そう、イワシ。」
「どんなお魚なの?」
有翔の狙い通りひとまず花凜の興味を惹くことに成功した。
「花凜は、どんなお魚だと思うの?」
有翔は、普通にイワシについて説明しようとしたが、絃葉が逆に花凜に聞いた。子供の好奇心を煽るには自分で考えることが大事なのかもしれないと、有翔は納得した。
「マグロみたいにおっきくてはやいお魚。」
花凜は、しばらく考えて自信有りげに言った。
「じゃあ、どんな魚か教えてあげて、塩野くん。」
「あ、俺が言うのね。」
「当たり前でしょ。塩野くんが始めたんでしょ。」
「まあいいけど。」
何を言っているんだと不思議そうな顔をする絃葉に有翔は渋々了承する。そして、子供でも分かるよう簡単説明を始めた。
「まず、イワシはマグロみたいに早いかは分からないけど、すごく小さい魚で大きくても三十センチメートルくらいなんだよ。」
「大きくないんだね...」
「で、でも、イワシって大きくなるんだよ。」
イワシが大きく無いと知って興味を無くしてしまいそうになっ花凜に、焦って訂正を入れる。
「ほんとに?」
「大きくなると言うよりも、群れを作って大きく見せるって感じかな。」
「むれってなに?」
「えっと...」
「群れっていうのは、同じ動物が集まって動くことだよ。今回だとイワシだね。」
有翔が群れの説明に手間取ると絃葉が、間髪入れず群れの説明をする。
「それに、イワシが群れを作って泳いでたらすっごいキラキラで綺麗なんだよ。」
「キラキラ!」
女の子はやっぱりキラキラしてるものが好きなようで、イワシがキラキラしているという有翔の説明が、花凜の心を掴んだ。
「水族館には他にも、面白いお魚がいっぱい居るから楽しみにしててね。」
「うん。」
花凜は、既に楽しそうに元気いっぱいの笑顔を浮かべている。それを見て有翔と絃葉は一安心と一息ついた。
「危なかったね。」
「なんとかなって良かった。それにしても、何でマグロが見たいなんて言ったんだろう?」
「それは多分、この前食べたお寿司のマグロが美味しかったからだと思うよ。」
いかにも子供らしい理由だと思い、有翔は苦笑を浮かべた。
そして、水族館の最寄り駅に着いた。
「花凜ちゃん、行くよ。」
再び三人は手を繋いで水族館へ歩き出した。
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