第35話

「ちょっといいか?」


四時間目の授業が終わっていつも通り屋上に行こうと席を立ったとき、一人の男子が有翔に話し掛けた。


有翔はそれを、自分に話しかけられたと分かっていながら無視してその男子の横を通り抜けようとした。


「おい、どこに行く気だよ!」


有翔は突然腕を掴まれて思わず足を止めた。そして、仕方なく対応してあげることにした。


「何?俺に話しかけてたの?」


「お前しかいないだろ。」


「いや、名前も知らない奴から話しかけられると思って無かったし。知らない人と話したらダメって妹同然の女の子と約束しちゃったからな。約束は守るものだろ。」


有翔はある一言以外適当に嘘を並べ立てて男子を煽るようにして言った。


「知らない人って...何でクラスメイトの名前を覚えてないんだよ。」


「お前も俺の名前知らないんじゃないのか?」


有翔は半ば確信を持って言った。


「べ、別にどうでもいいだろ。そんなこと。それよりも...」


有翔の思った通り図星だったようで、すぐに本題へ入ろうとする。これは、早く屋上に行きたい有翔にとっては好都合だ。


「それよりも...何だ?」


「昨日の放課後、あの永澄さんと一緒の傘に入って帰ってるところ見たんだけどどういう関係だ?」


これまた、有翔の予想通りの内容で昨日絃葉がそんなことあるはずが無いと否定したものと同じだった。


「それってお前に関係あるのか?」


「あるに決まってる。どうしてお前なんかが永澄さんと一緒にいたんだよ。」


男子が大きな声を出したことで、クラス中が有翔たちに意識を向けた。そのほとんどは有翔の返事が気になっているのを必死に隠している。


「少しだけ良い行いをしたら良いことが返ってきたからとでも言えば納得するか?」


「永澄さんとの関係は?」


「ただの友達。」


絃葉を待たせてしまっているため、一刻も早く屋上に行きたい有翔は、案外素直に質問に答えていく。


「だったら昨日一緒の傘に入って帰ってたのはどういうことだよ。友達の範疇超えてるんじゃないのか?」


「永澄さんが、傘忘れたって言うから仕方なくだよ。誰が好き好んで一緒の傘で帰るもんか。」


俺も嫌々だったんだという雰囲気を醸し出し、自分はあくまで被害者だと言いたい有翔。


「だとしても、一緒に帰るのはおかしいじゃねえか。お前が永澄さんに傘を渡して濡れて帰れば良かっただけだろ。」


「俺も同じこと言ったのに、俺が濡れて帰るのはダメだって言われたんだよ。」


有翔が男子に共感しながら、昨日の状況について説明するほど、男子の顔は怒りと嫉妬から顔が歪んでいく。


「あ、そうだ。」


有翔は、何か思い出したかのように呟いた。


「何だよ。」


「そんなにも永澄さんが特別で、お近付きに成りたいのなら自分から話しかけにいけばいいと思うぞ。」


「は?何言って...」


「それでも、永澄さんはお前みたいなタイプ嫌いだと思うから取り合ってくれないだろうけど、精々がんばってくれ。」


最後に特大の煽り文句を言い、何も言えなくなった男子の横をあっさりと通り抜けた。


そして、屋上へ向かいながら


「やっぱり、風邪でも引いて寝込んどけば良かったかもな。」


と、呟き面倒なことになったとため息をついた。





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