第29話
花凜は一週間ぶりに有翔と遊べるのが嬉しいのかずっと笑顔で楽しんでいる。侑季はと言うと初めのうちは元気に走り回っていたにも関わらず子供の体力を見誤っていたのか、途中で離脱し絃葉と同じベンチに座って休憩をし始めた。
「水戸南さん。大丈夫?」
肩で激しく息をする侑季に心配そうに絃葉が声をかける。
「うん。大丈夫だよ。子供って思った以上に元気だね。びっくりしちゃったよ。」
侑季は、あははと困り顔に苦笑いを浮かべた。
「花凜ちゃんも元気だけど、有翔も元気だね。ずっと走り回ってるよ。」
「塩野くんも最初の頃は結構直ぐにへばってたんだけどね。最近は慣れたのか、体力がついたのかずっとあんな感じだよ。」
侑季は、絃葉に返事をせずに黙り込んだ。そして、しばらく息を整えて頭が正常に回るようになってから切り出した。
「絃葉ちゃんはさ...有翔のことどう思ってるの?」
「...どうって?」
侑季がそれなりの覚悟を決めた質問に鈍感な反応を返されて若干頭に来たが顔には出さず冷静に言葉を返す。
「いや、だから...有翔のこと好きなの...?」
「え?あー、なるほどね。」
絃葉が一瞬素っ頓狂な声を上げたが、その意図を理解してニマニマと侑季を煽るように口角を上げた。
「な、なんだよ。その顔は。それで、好きなのか好きじゃないのかどっち!」
「別に好きじゃないよ。塩野くんと私はただの友達。そこに特別な感情は無いって言い切れるよ。」
絃葉の言葉を聞いた侑季は露骨にホッとした表情を浮かべた。
「やっぱり水戸南さんは塩野くんのことが好きだったんだ。」
「気づいてたの!?」
「あれで気づかない人は中々いないんじゃないかな?よく似てるよ。みんな一緒だもん。」
やけに神妙な面持ちになる絃葉に聞きたいところはあったが、侑季は絃葉とそこまでの仲では無いと踏み込まない。
「有翔は気づいてないんだよね。長い付き合いだってのにさ。」
「塩野くんって鈍いもんね。」
「ほんとだよ。人の気も知らないでさ。ボクの知らないところで知らない女の子と遊んでるなんて酷い話だよ。」
こうして一対一で話してみると最初の印象は霧散し、恋に悩む乙女なんだと絃葉は理解した。
「それは、何か悪いことしちゃったね。」
「もうそれはいいんだ。それよりも、初対面の時に思わず睨んじゃってごめんなさい。」
侑季が身体ごと絃葉の方に向けて頭を下げた。
「気にしてないよ。花凜がちょっと怖がってたみたいだけど、それももう無くなっちゃったみたいだし。」
「そっか。ありがとう。」
絃葉としては特に気にしていることでもなかったので、なんとも思っておらず、これで水に流してお終いにしたかったのだが、どこか晴れた様子のない侑季に
「じゃあ、塩野くんのことよく教えてくれない?水戸南さんが塩野くんを好きになった理由とかね。」
「ちょっと恥ずかしいけど、できる範囲で答えるからなんでも聞いてくれていいよ。」
こうして、有翔の知らないところでちょっとした女子会が始まろうとしていた。
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