第28話
有翔にとっては待ちに待った土曜日。花梨との約束を果たすため永澄家までの道を意気揚々と歩く。ただ、いつもと違うのは有翔の隣で侑季がいることだ。
「いや〜、しかし花凜ちゃんと遊ぶのは楽しみだねぇ。」
事の発端は三日前、有翔の携帯に突然侑季からメールが届いた。その内容が今度の土曜日に遊びに行こうというものだった。当然有翔は花凜とイチャイチャする予定があるので断ったが、
「まさか、花凜ちゃんから許可が出ちまうとはな。」
侑季に花凜と遊ぶことがバレていたので、一応絃葉経由で花凜に伝えてもらった。
すると、有翔の予想を裏切って侑季も一緒に遊んでいいと許可が下りたのだ。
「ボクも、半分くらい冗談で言ったんだけどね。花凜ちゃんボクのこと怖がってたし。」
初めて会ったあの日のことを思い出してしみじみと言った。
「どうしてかは知らんが、永澄さんのことを目の敵にしてたから花凜ちゃんが怖がるのも無理が無いんじゃないか?」
「どうしてか知らないのは、有翔が鈍感すぎるせいだからね。ま、今は絃葉ちゃんに嫉妬とかはないから安心してよね。」
「嫉妬?なんで侑季が、永澄さんに嫉妬なんかするんだよ。」
本気でわかっていない様子の有翔。そんな有翔に侑季は、
「知ってたよ。有翔が鈍感でバカなことは昔から知ってますよ。」
と、そっぽを向いて拗ねた。
「ボクはもう、有翔のことなんか知りませーん。有翔なんか花凜ちゃんに嫌われちゃえ!」
侑季がこうなってしまっては取り付く島がないことはよく知っている。一先ずは経過観察として放置するこにとに決めた。
どうせ、花凜ちゃんに会えたら機嫌が良くなると有翔は思っている。
それからは、特に会話をすることも無く道案内役も兼ねている有翔の後ろを侑季がついていっているだけだった。
そして、気まずい時間を乗り越えて永澄家に到着した。有翔がインターフォンを鳴らすと、玄関のドアがガチャっと勢いよく開いて、
「おにーちゃん久しぶりー!かりんいい子にして待ってたよ!」
「永澄さんから聞いたよ。花凜ちゃんは偉いね。」
有翔に向かって花凜が飛びついた。花凜を優しく受け止めた有翔は、宣言通り思う存分頭を撫でてあげている。それを受けて嬉しそうな顔をする花凜と有翔で幸せな時間が流れている。
それに終止符を打ったのは、一通りの流れを全て見ていた侑季だった。
「ねぇ、ボクのこと忘れてない?」
侑季が、二人に声をかけるとほとんど同時に侑季の方に顔を向けた。
「ああ、すまんな。忘れてたわ。」
「えっと、侑季おねーちゃん。ごめんなさい。」
花凜が、おねーちゃんと言った瞬間、侑季の口角が、限界まで上がった。
「おねーちゃん。甘美な響だ。これで今日からボクも花凜ちゃんのお姉ちゃんということだね。」
胸に手を当ててボソリと呟いた。
「侑季。」
「なに?」
「気持ち悪いぞ。」
有翔から言われたくなかったであろう言葉を、侑季に浴びせた。
「有翔にだけは言われたくないね。ボクは女の子だし気持ち悪くなもんね。有翔だって相当気持ち悪いよ。」
「どっちもどっちだよ。塩野くんも外は辞めてって言わなかったっけ?」
今にも喧嘩が始まりそうな雰囲気だったが家の中から出てきた絃葉が、仲裁して入った。
「ごめんなさい。花凜ちゃんが可愛くてつい。」
「つい。じゃないよ。水戸南さんもかりんの前で喧嘩しないでね。」
「は、はい。分かりました。」
有翔と侑季は、絃葉に叱られてすっかり小さくなってしまった。
「早く公園行こ!」
そして、元気な花凜に手を引かれて近くの公園に歩いて向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます