第26話

隙あらば花梨とイチャイチャしながら夕飯を食べ終えて、有翔が一人で皿洗いをしている最中に絃葉と花凜は帰り支度を済ませた。


「今日はお世話になっちゃってごめんね。」


「いやいや、俺も今日は美味い飯が食えたし花凜ちゃんとも遊べて楽しかったから問題ないぞ。」


有翔と絃葉が家の玄関で別れの挨拶をしている間、花凜はずっと不服そうな顔をしていた。


「花凜。塩野くんにバイバイしなさい。」


絃葉からそう催促されるも花凜はそれに取り合おうとしない。さらに不服さを顕にするだけだった。


「花凜ちゃんどうしたの?」


「...まだ、帰りたくない。おにーちゃんと一緒にいたいもん。お泊まりしちゃダメ?」


有翔が言うことは素直に聞くらしく、小さい声で花凜が我儘を言った。


「花凜。お姉ちゃんもお兄ちゃんも明日は学校だから一緒にには居られないよ。」


いつも通り絃葉が花凜の我儘を咎める。いつもはこれで引き下がるのだが、今日の花梨はいつもより頑固だった。


「嫌だ!まだ帰りたくない。」


有翔としては、花凜に一緒にいたいと言って貰えて嬉しいことこの上ないのだが、絃葉の言った通り学校があるのでそういう訳にもいかない。


「ごめんね。俺も泊まって行ってもいいよって言ってあげたいんだけど、おにーちゃんは学校があるから...ね。」


優しく花梨を諭すように言った。すると、花凜は小さく首を縦に振ったが、その目には薄らと涙が浮かんでいた。


花凜とて絃葉と有翔に学校があって一緒にいることは叶わないと分かっている。しかし、感情を理性で押さえることが出来るほど大人なはずがない。


「また今度、今日みたいな機会があったらその時はお泊まりしようね。」


「うん。」


「じゃあ、今日のところはお兄ちゃんにバイバイできる?」


「うん。」


有翔と絃葉の二人がかりでなんとか花凜を説得することに成功した。そして遂にお別れの時がやって来た。


「おにーちゃん。バイバイ。お泊まり会約束だよ。今度の土曜日もあそぼ。」


「花凜ちゃんまたね。それなら次は土曜日だね。それまでいい子にしてるんだよ。」


花凜が有翔に抱きついて有翔成分を補給して離れた。


「改めて今日はありがとね。花凜も楽しそうだったし、塩野くんも花凜とイチャイチャして嬉しそうだったし、良かったよ。」


「俺もだよ。また明日学校で。」


そして、今生の別れかのような盛大なお別れをして、絃葉と花凜は有翔の家を出て行った。夜も遅いし送ろうかと有翔は言ったが、近くまでお父さんが来てるから大丈夫と断られたので、大人しく引き下がっておいた。


絃葉と花凜が家を出て行って二人の声が聞こえなくなった途端、有翔はその場に倒れ込んで花凜の可愛さに悶えていたとかいなかったとか。

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