第23話

寝てしまった花凛を背負いながら、絃葉とショッピングモールを堪能していると、時計が十六時三十分を指した。


「夕飯の準備があるからそろそろ帰らないと。」


「そっか。それならもう帰ろうか。永澄さんのご飯楽しみだからね。」


絃葉と有翔が、名残惜しそうにショッピングモールを後にしようとしたところで、


「有翔ー!」


有翔を呼ぶ大きな声が聞こえた。絃葉には馴染みのない声だが、有翔にとっては聞き馴染みのある声だ。


その声が聞こえた方向に、二人揃って振り向いた。


「塩野くん。あの元気に手を振ってこっちに向かってる子は誰?」


「あ〜、前に言った俺の幼なじみで友達。」


一直線に走ってきている有翔は友達だという人を見て頭を抱える。


「有翔!久しぶり!」


「あぁ、久しぶりだな。けど、今だけはお前に会いたくなかったよ。俺は。」


「え〜、ボクは有翔にずっと会いたかったんだけどなぁ。」


有翔が幼なじみの友達と小気味いい掛け合いをしている横で、絃葉が置いてけぼりを食らっている。


「あの〜、塩野くんのお友達だとお聞きしました。私、塩野くんの友達?の永澄 絃葉です。」


「あ〜、君が有翔の...」


有翔の友達がキッと絃葉を睨み付けて、敵意を全面に押し出した。それを絃葉は敏感に感じ取って思わず一歩後ずさる。


そんな雰囲気を有翔に感じさせていないのか、有翔が鈍感なのか定かでは無いが、


「永澄さん?どうしたの?」


どこか様子のおかしい絃葉を心配して声をかける。


「あ、いや...なんでもないよ。心配かけてごめんね。」


当然絃葉は、こう答える以外の選択肢が無い。


「ほら、お前も早く名乗れって。」


「分かったよ...ボクは、有翔の幼なじみで親友の水戸南みとみな侑季ゆうき。有翔とは奇跡的に名前が一文字違いなんだよね。」


侑季は、あえて親友を強調して高圧的に自己紹介をした。


「よろしくね。水戸南くん。」


「あ〜...言いにくいんだが...」


絃葉が侑季をくんと呼ぶと、侑季の機嫌が悪くなったのを、二人は感じ取った。それを、有翔はフォローに回る。


「侑季の一人称は、僕だし髪も短いから分かりにくいと思うけど、一応女子で性別間違われるの嫌ってるから、そこのところ分かってあげてくれ。」


「一応ってなんなのさ。一応って。これでもボクは立派な大人のレディなんだからね。」


有翔は、侑季がじゃれついてくるのをはいはいと、受け流す。


「えっと、水戸南さん。ごめんなさい。悪気はなかったんです。」


絃葉の理解が追いついてから、勢いよく土下座する勢いで頭を下げて言った。


「悪気が無かったからって、許される訳じゃ無いと思うんだよね。ボクは。」


それを見て、機嫌を治すどころか機嫌が悪くなっていく。


「んぅ...ん、おにーちゃん?」


流石にうるさかったのか、花凛が眠りから覚めた。


「花凛ちゃん。おはよう。ぐっすりだったね。」


「誰?その子。超可愛い!」


「永澄さんの妹。」


「そうなんだ。それなら、妹ちゃんに免じて今回は許してあげるよ。」


さっきまでの機嫌の悪さが嘘だったかのように、花凛を見た瞬間上機嫌になり、絃葉のことをあっさりと許した。


「あ、ありがとう。」


「ふん。別にあんたの為じゃないもん。」


この二人が仲良くなるのはまだまだ先になりそうだ。なんて呑気なことを考える有翔は、


「永澄さん。時間ってまだ大丈夫?」


「え?うん。大丈夫だよ。」


「そしたら、あそこの喫茶店でちょっと親交を深めるのも悪くない気がしないか?」


二人の仲を取り持つ為に、名案だと思ってこれを提案した。


「いいね。ボクは参加するよ。」


案の定、花凛と仲良くなりたいと思っていると感じていた侑季は、即答で乗ってきた。となれば、絃葉が断ることも無く、喫茶店へと足を運んだ。


花凛はと言うと、


「かりんは、おにーちゃんと一緒だったらどこでもいいよ。」


と、破壊力抜群の発言をし、またしても有翔を悶絶させるのだった。

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