第21話
有翔と絃葉が、皿洗いを終わらせて花凜を連れて外に出た。
「どこ行きたい?」
何も決めずに家を飛び出したので有翔は、花凜が行きたい場所に行こうと聞いた。
「おにーちゃんと一緒ならどこでも良いよ!」
有翔は、今すぐ花凜に抱きつきたい衝動に駆られたが、公共の場ということを思い出して、なんとか思いとどまった。
「そっか。それじゃあ、永澄さんはどこ行きたいの?」
「そうだね。電車に乗らないといけないけど、ショッピングモールに行きたいかな。大丈夫?」
「じゃあ、そこにしようか。花凜ちゃんも良いかな?」
絃葉の案を採用し、花凜が首を縦に振ったので行き先はショッピングモールに決まった。
「ショッピングモールにレッツゴー!」
「おー!」
花凜と手を繋いで有翔が、空に向かって手を突き上げた。それに習って、花凜も有翔と同じように目を突き上げて楽しそうにしている。
その一方で、絃葉は花凜と一緒にはしゃいでいる有翔を見て、
「見てるこっちまで恥ずかしくなるから、今すぐ辞めて。」
冷ややかな視線と共に、いつもより低い声で言った。
そう言われて有翔が、周りを見ると複数の人が自分たちを見ていることを理解した。
「これは確かに恥ずかしいな。」
「分かったら二度としないでよ。人の目をちょっとは気にするようにして。」
我に返り恥ずかしそうに顔を少し赤くした有翔に、絃葉が怒ったように言った。
「それじゃあ、早く行くよ。」
そうして、三人は今度こそショップモールに向けて出発した。
徒歩で十五分くらいの駅まで歩いて、電車に乗りこんだ。そのまま二駅跨いで駅を下り、更に十分近く歩いて目的地に到着した。
「ショッピングモールなんて初めてだな。」
「嘘っ!?」
有翔の言葉に絃葉は、手で口を隠して目を見開いた。その顔が面白くて思わず吹き出してしまう。
「冗談だよ。でも、ショッピングモールに来るのは久しぶりだ。」
「なんだ冗談なんだね。びっくりして信じちゃったよ。でも、久しぶりなんだったら、結構楽しめるんじゃない?」
「楽しくないとは思ってないけど、取り敢えず色々回ってみようか。」
そして、ショッピングモール内を一通り見て回っていると、絃葉が不意に有翔に向かって言う。
「そういえば、塩野くんっていつも同じ服着てるけど、それしか無いの?」
「ほんとだ!おにーちゃんいつも同じ服屋来てるね。」
「同じ服を何着も持ってて、それを着回してるってだけだよ。」
絃葉、そして花凜までもが信じられないといった表情で、有翔を見つめる。
「そんなに良くなかった?」
「おにーちゃん。それはダメだよ。」
「花凜の言う通りだよ。流石に色だけでも違う種類の服を持ってた方が良いよ。」
絃葉だけでなく、絶対的な味方だった花凜にまでダメ出しを食らってショックを受ける有翔。
しかし、有翔は服に全くと言っていいほど興味が無いので、当然オシャレなどにも興味が持てないのだ。
「あっちの方に服屋さんがあったから、今すぐ行くよ。服を何着か選んであげるから。」
そう言って絃葉が、来た道の方向を指さす。
「別に良いよ。服なんて今あるのだけで十分だから要らない。」
有翔は、ダメ出しされたことに不貞腐れて絃葉の提案を却下する。
「えぇー。せっかく塩野くんをかっこよく仕立ててあげようと思ったのに。」
「服を変えたくらいじゃイケメンになんてなんてならないだろ。」
有翔は本気でそう思っているが、絃葉はそうでは無い。
「分かってないね塩野くんは。イケメンになるなんて言ってないよ。顔は変わんないからね。雰囲気がかっこよくなるってことだよ。もちろん私がコーディネートするんだからモテモテになるよ。」
「別にモテ無くても良い。」
「なんで拗ねてるの?早く行くよ。」
どれだけ説得しても首を縦に振らない有翔に痺れを切らした絃葉は、強引に服屋に連れて行った。
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