第20話
早歩きでスーパーから帰宅した時の時刻は、十二時半過ぎで空腹も限界に近いので急いで料理を始める。その横で花凜は、絃葉に言われて大人しくテレビを見ている。
「私も何か手伝おうか?」
絃葉が、スーパーで買った夕飯の食材を冷蔵庫に仕舞いながらそう提案した。
「いや、なるべく急ぐから座って待っててよ。お客さんに手伝わせる訳にもいかないし。」
「でも、塩野くん一人で作るよりも二人で作った方が早く出来上がると思うよ。」
「まぁ、仕方ないか。ごめんだけど手伝って欲しい。」
絃葉が手伝うことを嫌がっていた有翔は、あっさりと手伝ってもらうことを選んだ。
「全然いいよ。やって欲しいことがあったらなんでも言ってね。」
絃葉は、それを快く快諾した。ただ、一つだけ疑問があるようで、
「ところで、仕方ないって言ってたけど、何が仕方ないの?」
有翔に言った。
「花凜ちゃんにご飯作ってあげる約束だったから、一人で作りたかったってだけだから大丈夫。ほんとにしょうもない理由だよな。」
有翔はそう言うと、自虐気味に苦笑してみせた。
「大丈夫だって。花凜なら、おにーちゃんの作ったオムライス美味しい!って言うに決まってるよ。私だって手伝ったのにね。」
「そうかな。喜んでくれると良いんだけどな。」
不安げに呟く有翔を見て呆れたように絃葉は言う。
「花凜のことだから、きっとおにーちゃんの作ったオムライス美味しいね!って大喜びで食べるに決まってるよ。私も手伝ったのにね。」
絃葉からすると、花凜が美味しそうにオムライスを頬張っている姿を容易に想像できると思っているが、有翔はそうでは無いらしい。
「そうか。喜んでくれるに決まってるのか...それなら、もう少し気合い入れるか。」
絃葉のおかげで不安を取り除くことができた有翔は、気合いを入れ直した。
そして、話をしながらも手を止めることが無かったので、普段よりも早いペースでオムライスが完成した。
「お待たせ。オムライスできたよ。」
綺麗な形のオムライスを皿に盛り付けて、テーブルに置きながら、テレビに夢中の花凜を呼んだ。
「もうできたの?はやーい!」
「お兄ちゃんもお姉ちゃんも頑張ったからね。」
有翔の家に当然子供用の椅子は存在しないので、抱っこして花凜を椅子に座らせる。
花凜の隣に絃葉が座り、花凜の対面に有翔が座った。全員が席に着いてから体の前に置いてあったスプーンを手に取った。
「いただきまーす!」
有翔と絃葉は、花凜がオムライスを一口食べるのをじっと見守る。
「ん〜!美味しい!」
左手を頬に当てて、目をキラキラに輝かせて美味しさを全身で表現した。有翔は、花凜の反応に安堵して息を吐いた。
「ありがとね。花凜ちゃんにそう言ってもらえてお兄ちゃん嬉しいな。」
花凜の天使ぶりに有翔はノックアウト寸前だ。
「おにーちゃんのつくったオムライス美味しいね!」
花凜が、絃葉の予言した通りのことを言った。なおも美味しい、美味しいと言いながら夢中で食べ続ける花凜を見て、有翔と絃葉は自然と視線を合わせ微笑みあった。
「ごちそうさまでした!」
花凜は、あっという間にオムライスを食べ終えた。それだけ、有翔のオムライスが美味しかったと物語っている。
「お粗末さまでした。」
そこで、有翔はふと気になったことを花凜に聞いてみることにした。
「花凜ちゃんは、お兄ちゃんとお姉ちゃんの料理。どっちが美味しいと思う?」
「ちょっと、塩野くん?花凜に何聞いてるの?」
有翔の花凜への問に焦って、絃葉が止めに入った。
「だって、気になっちゃったから...」
「だってじゃないよ。だとしても、花凜に聞くことじゃないじゃない。」
絃葉の言い分は有翔も理解しているし、その通りだとも思うが、有翔は気になってしまったのだ。
「かりんは、おねーちゃんの作るご飯も、おにーちゃんの作るご飯も、どっちも大好きだから決められないよ。」
「嫌なこと聞いちゃってごめんね。」
悲しそうな表情で言った花凜に、有翔は罪悪感に見舞われた。
「だから言ったのに。取り敢えず、お皿だけ洗って気分転換に外に出よう。」
「賛成。」
有翔は、絃葉に異論を唱えることなく、大人しく言うことに従うことにした。
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