第19話

「おにーちゃん。お腹空いた。」


さっきまで、真剣におままごとに興じていた花凜が、突如全ての設定を放り投げて言った。


「そうだね。そろそろ良い時間だし、お昼にしようか。」


時刻は十二時前。有翔は思っていた以上におままごとに夢中になっていたらしく、花凜に言われるまで気がついていなかった。


「やっと解放されるんだね。色々失った気がするよ。」


有翔とは対照的に絃葉は、安堵の表情を浮かべてホッと一息ついた。


「かりん、おにーちゃんが作ったオムライスが食べたい!」


「いいね。オムライスにしようか。卵あったかな?」


花凜の要望を受けオムライスを作ることになり、冷蔵庫を確認すると卵が入って無かった。


「卵無いけど今から買いに行く?それとも今あるやつで何か作ろうか?」


「買いに行く!」


「よし。じゃあ行こうか。」


買い出しに行くことになったので、すぐさま服を外出用に着替えて三人で近くのスーパーに向かった。


「そうだ。夜ご飯の分の買い物もしちゃって良いかな?」


「全然いいよ。」


「じゃあ、花凜のこと見てて。食材で何作るかバレたくないから別々でお会計にしよう。」


絃葉が、スーパーに入って直ぐに夕飯の買い物に行ってしまった。


「花凜ちゃんは、お兄ちゃんと卵を買いに行こうか。一つだけお菓子も買ってあげるよ。」


「ほんと!やったー!」


「ちょっと止まって。」


有翔の発言で花凜が大喜びしてお菓子コーナーに走って行きそうになるのを、有翔が花凜と繋いでいた手を少し引っ張って止める。


「先に卵買ってからね。それと、転けたら危ないし、他の人の迷惑になるから走ったらダメだよ。これが守れないならお菓子買わないからね。」


さすがの有翔も公共の場で好き勝手させる訳にはいかないので、花凜を少し厳しく叱る。


「はーい。」


本当に理解したのか分からない不服そうな顔と返事だったが、花凜は落ち着いて有翔と一緒に歩いている。


そして、お目当ての卵を手に入れたので、花凜のお菓子を買いにお菓子コーナーに向かう。


「うーん。おにーちゃんはどれがいいと思う?」


お菓子コーナーに着いて、花凜は色んな種類のお菓子を見比べて悩んでいる。


「花凜ちゃんが好きなの選んでいいんだよ。」


どれがいいと聞かれても、よく分かっていない有翔はあくまで決定権を花凜に委ねる。


「これにする!」


それからもしばらく悩み続けて、約束通りお菓子を一つだけ選んで有翔の元に持って来た。


「最後にお兄ちゃんと約束しようか。絶対にお兄ちゃんに買ってもらったって言ったらダメだよ。」


「どうして?」


「お兄ちゃんは、お姉ちゃんに怒られるのは嫌だからだね。お姉ちゃん怒ったら怖いんだよ。」


「分かった。約束する。」


有翔も情けないことを言っている自覚はある。だが、それ以上に絃葉に怒られる方が遥かに怖いのだ。


なんとか、花凜との約束を取り付けて、絃葉よりも先に会計を済ませる。そうすることで、会計の時点でお菓子がバレることが無くなった。


そして、先に会計を済ませたのでスーパーの外で絃葉を待つ。しばらく、花凜と二人でイチャイチャしていると絃葉が、スーパーから出て来た。


「お待たせ。花凜と塩野くんスーパーの中からめちゃくちゃ見られてたよ。」


「知ってた。流石に視線感じてたし。でも、正直どうでもいい。」


絃葉は、呆れたように言ったが、有翔にはどこ吹く風だ。他人にどう思われるかよりも、花凜とイチャイチャする方が、有翔には大事なことだ。


「まぁ、塩野くんはそういうタイプだもんね。仕方ないよね。」


ものすごく色んな他意を含んでいそうな言葉を、有翔に吐き捨てた。その他意にあまりいい意味は含んでいなさそうなのは、有翔も気がついているが何も言わない。


「取り敢えず帰ろう。お腹空いたからね。」


少しばかりスーパーに長居しすぎた三人は、空腹が限界に近づいているので、いつもより早足で帰り道を歩いた。





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