第18話
「おにーちゃん。何して遊ぶ?」
「花凜ちゃんが決めなよ。お兄ちゃんは花凜ちゃんのやりたいとこだったら何でもいいよ。」
「かりんおままごとやりたい!」
「おままごとかぁ。」
おままごとが好きな年頃なのは理解しているが、それに付き合うとなると、有翔とてやっぱり恥ずかしい。有翔が少しだけ渋って見せると、
「おにーちゃん。かりんと遊ぶの嫌なんだ...」
今まで見たことが無いくらい悲しい顔をした。
「花凜ちゃんと遊ぶのが嫌な訳ないよ。ごめんね。ちょっとおままごとに自信がなかっただけだから。」
当然、花凜にそんな顔させるのを有翔が望んでいるはずが無いので、必死に言い訳をする。
「ほんと?ほんとにおままごとしてくれる?」
「する。ちゃんとやるよ。」
涙目で上目遣いをする花凜に、充分過ぎる程罪悪感を感じながら、おままごとをやりきると決めた。
「やったー!それじゃあ、おにーちゃんはかりんの旦那さんね。」
「えー、花凜ちゃんの旦那さんになっても良いの?」
合法的に花凜の夫になる権利を得て嬉しさを爆発させた有翔の頬は緩みきっている。
「だって、おにーちゃんのこと大好きだもん。」
「お兄ちゃん花凜ちゃんのこと大好きだよ。」
花凜が有翔に抱きつくと、有翔は花凜を抱きしめ返す。こうなってしまった有翔と花凜を止めることが出来るのは、この場に一人だけだ。
「塩野くんに花凜も、早く始めないと時間がなくなっちゃうよ。」
絃葉の魔法の一言で、有翔と花凜はパッと離れた。
「永澄さんは、何の役なの?」
「おねーちゃん?」
花凜が絃葉を見つめる。しばらく見つめ続けて不意にコクンと頷いた。
「おねーちゃんは、おにーちゃんの妹ね。」
「えっ?私もやるの?」
有翔と花凜は二人揃って、何を当たり前のことを言っているんだ。と、いう顔をしている。
「分かったよ。やれば良いんでしょ。」
絃葉が観念したように言った。
「じゃあ、おにーちゃんは会社から帰って来て。おねーちゃんは、適当にやって良いよ。」
「何それ。適当って何よ。適当って。」
「まあまあ、永澄さん。取り敢えず始めようよ。」
有翔が絃葉を宥めておままごとがようやくスタートした。
「ただいまー。」
「あ、旦那さん。おかえりなさい。お風呂にする?それともご飯にする?」
花凜の旦那さん発言に、またしても頬が緩みそうになるのを、押し殺して平静を装いおままごとを続行する。
「じゃあ、ご飯にしようかな。花凜のご飯は美味しいから楽しみだね。」
有翔がご飯を選ぶと花凜は、お皿に料理を盛り付けて配膳するマネをした。
「お兄ちゃんおかえり。」
「ただいま絃葉。」
有翔がそう返した瞬間、絃葉が固まって動かなくなった。
「おーい。どうした?」
絃葉の目の前で有翔が、手を振ると意識が戻って来た。
「あ、ごめん。塩野くんに名前で呼ばれるのが、ちょっとむず痒くて、なんというか恥ずかしい気がする。」
「そう言われると、何だか俺も恥ずかしくなっきた。」
名前で呼ぶことに抵抗のなかった有翔も、そう意識をすると途端に恥ずかしくなる。
すると、有翔と絃葉の間で気まずい空気が流れ出した。
「おねーちゃん。今のおにーちゃんは、花凜のなんだからイチャイチャしないで!」
その空気を花凜は、敏感に感じ取りプクっとほっぺたを膨らませた。
「イチャイチャなんてしてないわよ。ねぇ、塩野くん。」
「そうだよ。俺は花凜ちゃん一筋だからな。」
花凜にイチャイチャしていると思われたのが、想像以上に恥ずかしく必死に否定する。
「いつもはいいけど、今はダメだからね!」
「うん。分かった。」
いつもは良いと花凜が言ったが、有翔と絃葉にその自覚は微塵も無い。有翔はそれに動揺しつつも顔には出さない。それは絃葉も同様だ。
「じゃあ、さっきの続きからスタートね。」
それから、三人のおままごとは恙無く進行し、有翔は花凜の旦那役を心ゆくまで堪能し、花凜は有翔を独り占めすることに成功した。
その一方で絃葉だけが、有翔をお兄ちゃん呼びすることになったうえに、名前呼びまでされて何かを失った気分になっていた。
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