第8話

「それで、話って何だ?」


二人ともが弁当を食べ終えて、昼休みに呼び出された理由である本題に入る。


「あー、そうだね。話をしないとね。」


絃葉が目を泳がせて今、思い出したかのように言った。


「もしかして忘れてた?」


「いや、覚えてたよ?」


「別に忘れてたのはいいんだけど...俺を呼び出した理由は何?」


何故が疑問形で言う絃葉に呆れるも、時間も無くなって来てるので有翔は、話を聞きたがっている。


「ごめんね。今から話すよ。」


一息ついてから覚悟を決めたような顔つきになって話し始めた。


「昨日動物園に行ったでしょ。そこで、私と塩野くんが子供を連れて歩いてるのを見たって人がいて、みんなに言いふらしてるんだって。」


「ふーん。それで?」


思い詰めた顔をする絃葉に対して、話を聞いた有翔の反応はあっさりしたものだった。


「そ、それでって...私と親しくしてるのバレたくなかったんじゃないの?」


「それでそんなに泣きそうな顔してるの?」


バカバカしいと乾いた笑いをあげた。


「だって、もう仲良くしてくれなくなると思ったから...」


それを聞いて有翔は、


「そんなことで一方的に永澄さんから離れたりしない。」


「じゃあ、学校では話をしないって言ってたのはどうして?」


納得がいかないと、依然として俯いたまま問い詰める。


「それは、俺なんかと話してたら永澄さんの株が下がると思ったんだ。」


「何それ?俺なんかってなに?」


有翔から見て俯いている絃葉の表情は見えないが、その声に少しだけ怒気を孕んでいるのを感じ取った。しかし、有翔には、どうして絃葉が怒っているのか理解ができない。


「普通に、学校の人気者の永澄さんと、どこにでもいる平凡な学生の俺じゃ話にならないってことだよ。」


だからこそ有翔は、当然の話として言った。


「話にならないってどういうこと?どうして話にならないの?」


「簡単な話だよ。永澄さんと俺じゃ釣り合わないんだ。つまり、顔も頭も良くて運動もできる永澄さんとなにも持ってない俺だと生きている世界が違う。」


どうして絃葉が怒っているか分からない有翔は、さっきの発言の詳細を事細かに話して理解を得ようとした。


「なるほどね。塩野くんの言い分はよく分かったよ。」


「それなら...」


だけど、その目論見は不発に終わった。顔を上げた絃葉の顔を見て言いかけた言葉を止めた。笑ってはいるが、いつもの笑顔と違って目が笑っていなかった。


「塩野くんも一緒なんだね。」


「どういう意味だ?」


「どういう意味も何もそのままの意味だよ。」


絃葉の意図を読み取ろうとするが、その表情からは有翔に対して、激しい怒りを思えていることしか読み取ることができない。


「もう君と話すことはなにもないから。もう家に来なくていいよ。花凜には私から上手いこといっておくよ。」


「は?なんでそんなことになるんだよ!」


それは有翔にとって聞き逃せない言葉だった。


「君と話すことはもう無いって言ったよね。さようなら。」


有翔の言葉に聞く耳を持たずに、有翔に背中を向けて絃葉は屋上の出口へと歩き出した。


「ちょっと待てって。さようならって何だよ!」


絃葉は、それを聞いて足を止めて振り返った。顔を歪ませて有翔に失望したように


「塩野くんは違うと思ってたんだ。」


たった一言だけ呟いて屋上を出ていってしまった。有翔は、屋上を出て行こうとする絃葉を止める気も起きなかった。


「急にそんなこと言われたってなにも分かんねえよ。」


さっきまでの時間が嘘だったかのように静かな屋上にたった一人取り残された有翔の呟きは、昼休みの終わりを告げるチャイムにかき消された。


授業に遅れて参加した有翔は、当然先生にも怒られ、授業の内容も一切頭に入らなかった。




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