第7話

昨日の楽しかった日曜日から一変して憂鬱な月曜日。思い足取りで登校し教室に足を踏み入れた。すると、教室中から有翔を詮索するような視線が向けられた。


有翔も怪訝に思ったが、特に気にすることなく席に着くと、スマホが振動する。


『今日の昼休みにお弁当を持って屋上へ来て。話したいことがあるの。』


絃葉から端的にそれだけ送られてきていた。


『話ってなに?』


『先生が来そうだからまた昼休みにね。』


時計の針はチャイムの三分前を指していた。携帯の使用が禁止の学校ではリスキーな行為なのでポケットにスマホを戻した。


「それにしても、教室に入った時、視線を集めたのはなんだったんだろうな。」


有翔の呟きは授業の開始を知らせるチャイムにかき消された。


なんとか眠たい授業を乗り越え昼休みに突入した。有翔は知らなかったが、屋上の鍵か壊れているところが有るらしくそこから侵入できるそうだ。


その鍵の壊れている屋上の扉を開いた。


「お、来たね。こっちこっち。」


風呂敷を広げて準備万端な絃葉が手招きする。


「それで、話ってなに?」


絃葉の正面に腰を下ろした有翔が、単刀直入に切り出した。


「そんなに焦らないの。時間はまだたっぷりあるんだし、まずはお弁当食べよ?」


絃葉に諭されて確かに焦っていたと自覚した。


「そうだな。いただきます。」


「いただきます。」


行儀よく挨拶をして弁当に箸をつける。


「塩野くん。お弁当美味しそうだね。お母さんが作ってくれてるの?」


「いや、俺が作った。」


美味しそう言われたのが嬉しかったのか少し自慢するように言った。


「そうなんだ。すごいね。」


褒められて嬉しいのを隠すために、頬が緩むのを堪えているので、有翔は変な顔になってしまった。


「そういう永澄さんこそ自分で弁当作ったんじゃないの?」


有翔の頬の緩みが我慢の限界に達したので強引に話を振る。


「まあね。」


「すげー美味そうだしね。俺のよりも美味そうだ。」


有翔は客観的に見た素直な感想を述べる。


「塩野くんのお弁当の方が美味しそうだと思うけど。」


そう言う絃葉に信じられないと言った表情で、


「いやいや、永澄さんの弁当の方が美味そうでしょ。」


と、言った。


「塩野くんのお弁当の方が美味しそうだって言ってるよね?」


絃葉も有翔に負けじと反論する。そこからしばらくお互いに一歩も引かず「永澄さんの方が美味そう。」「塩野くんの方が美味しそう」と、言い合った。


「それじゃあ、お弁当のおかずを交換して決着をつけるっていうのはどうかな?」


だがそれは、絃葉の提案によって終わりを迎えた。


「賛成。絶対永澄さんの弁当が美味しいって認めてもらうから。卵焼き貰うぞ。」


「それはこっちのセリフだよ。唐揚げ一個貰うね。」


お互いが相手の弁当に箸を伸ばす。有翔は卵焼きを、絃葉は唐揚げを掴み口の中に運んだ。


「永澄さんの作る卵焼きはちょっと甘いんだね。」


有翔は絃葉の作った卵焼きをしっかりと味わってから行った。


「え?あんまり美味しくなかった?」


絃葉は、不安気に有翔とに聞いた。


「美味しくないなんてそんなことないって。俺はしょっぱい感じに作るから。でも、甘いのも美味しいよ。」


「良かった。」


有翔が美味しいと褒めると、絃葉は安堵の表情で一つ息を吐いた。


「それで、俺の唐揚げはどうだった?」


有翔も絃葉の評価が気になっている。


「美味しかったよ。冷めてるのにジューシーだったのすごい良かった。」


有翔も絃葉から美味しいと言って貰えて一安心する。


「それじゃあ、どっちのお弁当が美味しいと思ったのか、せーので言い合おっか。」


有翔は絃葉に頷いて同意を示した。


「せーの。」


「永澄の弁当の方が美味い。」


「塩野くんのお弁当の方が美味しい。」


絃葉の合図から一拍置いて同時に言った。その結果は、食べる前と何も変わらなかった。


「ふふっ。思った通りになっちゃったね。」


「はっ。全くだ。」


有翔と絃葉は、顔を見合せてひとしきり笑いあった。


「決着つかなかったけどどうする?」


「それなら、これからはここでお弁当を食べたらいいんだよ。」


「どういうこと?」


絃葉の言っている意味が汲み取れず聞き返す。


「だから、お昼休みはここに集まってお弁当のおかずを交換するの。それを決着がつくまで続けるってこと。」


「いいねそれ。」


絃葉が「そうでしょ。」と、胸を張る。すると、絃葉の高校生にしては大きい胸が強調されて、慌てて目をそらす。


絃葉はそんな有翔を見て怪訝な顔をしたが、気にした素振りを見せない。


「明日からここに集合だからね。あんまり私を待たせないこと。」


「ああ、なるべく遅れないようにするよ。」


それから、二人はほとんど無言で弁当を食べ続けた。




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