第6話

空はすっかり暗くなり、街頭が明るく光っている。


「ごめんね。家まで送ってもらって。」


「こんな暗いのに女の子二人で帰らせられないでしょ。何があるか分からないんだから。」


絃葉は、帰り道の途中に花凜を起こして二人で歩いて帰ると言ったが、有翔は家まで送ると言って聞かなかった。


「花凜起きて。」


「んぅ〜。ここどこ?」


花凜は、絃葉に起こされて目を擦り大きく伸びをした。頭がまだ冴えていないらしく有翔の上にいることに気づいていない。


「おはよう。ここは花凜ちゃんのお家だよ。」


「あれ?おにーちゃんなんでいるの?」


有翔の首に腕を回してガッチリ抱き締めている。


「塩野くんは花凜が寝ちゃったから背負ってくれてたの。」


有翔がゆっくりとしゃがんで花凜を下ろす。


「ぐっすりだったもんね。全く起きる気配がなかったし。」


「きっと、塩野くんの背中が心地よこったんだよね。」


「うん。おにーちゃんの背中暖かかった...」


花凜をからかうつもりで言ったはずなのに、有翔はまさかの方向からダメージを受けた。自分胸のあたりで両手を握って少し俯いて呟く花凜は有翔には刺激が強すぎた。


「おにーちゃんどうしたの?具合悪いの?」


花凜が胸を押さえてうずくまる有翔を心配して駆け寄り手を握る。


「だ、大丈夫だよ...」


花凜のその行為は有翔に致命傷を与えるには十分すぎた。


「花凜。塩野くんは大丈夫だからこっちおいで。」


「でも、おにーちゃん辛そうだよ。」


有翔を心配して泣きそうになる花凜。


「ほんとに大丈夫だから。心配しないで。」


心配させたお詫びと言っては何だが、花凜の頭を撫でる。


「おにーちゃんほんと元気いっぱい?」


「ほんとに元気だよ。心配させてごめんね。」


有翔が言うと安心してそのまま有翔に抱きついた。有翔が花凜を抱き締めて頭を撫でつつ一言。


「もう死んでもいいわ。」


「死んじゃいや!」


冗談めかして言うと花凜の抱きつく力が強くなった。


「塩野くん。いい加減にしなさい。」


調子に乗りすぎて普通に叱られた。


「冗談だよ。死なないから安心して。」


「ほんと?」


目にうるうると涙を貯める花凜に罪悪感が湧く。


「ごめんね。もう冗談でも言わないから泣かないで。」


「うん。」


小さく頷いた。花凜が可愛いからと調子に乗ったことを反省する。


「今日は楽しかったね。」


「そうだな。永澄さんの意外な一面を見れたし、楽しかったよ。」


「それを言うなら私だって塩野くんのこと、意外なところをいっぱい知ることができて嬉しかったよ。」


「え!?どんなことが分かったんだ?」


有翔は、特に変わったことをした覚えは有るが、そんなに意外なところという程でもないと思っいたのでびっくりする。


「ふふっ、内緒。」


口に手を当てて少し恥ずかしそうに笑う。


「何それ?気になるんだけど。」


「まだ、教えてあげなーい。」


無邪気に有翔をからかう。


「まあ、いいか。」


まだということは、今後教えてもらえることだと思い込んで引き下がる。


「永澄さんも花凜ちゃんもまた。」


「うん。また遊びに行こうね。」


手を振って帰ろうかと思ったが、花凜が手を振り返してくれないことに有翔が気づいた。


「花凜ちゃん。お兄ちゃんにバイバイしてくれないの?」


「帰っちゃヤダ...」


しょぼんとして俯いている。


「わがまま言わないの。来週も会いに来てくれるから。」


「え?来週も?」


またしても勝手に予定を決められて困惑する有翔に


「おにーちゃんダメ...?」


花凜は、上目遣いでお願いする。当然可愛くお願いする花凜に断るという選択肢は有翔に存在しない。


「そうだね。また来週も会いに来るよ。」


「やった。約束やぶっちゃダメだからね!」


「花凜ちゃんとの約束は何があっても破らないよ。」


今度こそ、その場を離れて花凜と絃葉と別れた。

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