第5話

絃葉と花凜は、名残惜しそうにカピバラに別れを告げて、ペンギンのいるエリアにやって来た。


「ペンギンってやっぱり可愛いよね。」


可愛いものに目がない絃葉は、よちよち歩くペンギンにウットリしている。


「俺もペンギンは可愛いと思う。」


これには流石の有翔も同意を返す。ペンギンの可愛さは偉大だ。


「ペンギンさんって、どうして足が短いの?」


有翔と絃葉をまっすぐ見て首を傾げた。これが噂の子供の疑問ってやつか!?と、有翔は思った。チラリと絃葉を見ると苦い思い出でもあるのか、遠い目をして現実逃避をしている。


「お嬢ちゃん。いい所に気が付いたね。」


有翔は答えが分からずに内心で焦っていると、近くにいた飼育員が花凜に話しかけた。


「ペンギンさん足が短くて歩きずらそうだよ。」


「実は、ペンギンさんの足って短くないんだよ。」


何を言っているのかと、有翔と絃葉は思った。よちよちと歩く可愛いペンギンは脳裏に焼き付いている。


「ほんとに?」


「ほんとだよ。ペンギンさんは羽毛の中に長い足を隠してるんだよ。」


有翔は、自信満々にその知識を披露する飼育員を疑いながら、スマホを取り出してペンギンについて調べた。


「えぇ、嘘じゃないじゃん。」


「ほんと?塩野くんも私をからかってるんでしょ。」


そう言って、絃葉はスマホの画面を覗き込んだ。


「ほんとだ。嘘じゃないんだ。」


「ちなみに、足の先、つまり末端が短い方が熱が保ちやすいから足が短く見える構造になってらしい。」


有翔と絃葉は、飼育員の話そっちのけで、ペンギンについて調べ続ける。この横で、花凜は飼育員を質問攻めにしていた。


花凜の疑問全てにしっかりと答えられる飼育員はすごいんだなと感心する。飼育員が花凜の質問攻めから解放されたところで、飼育員が話しかけてきた。


「お二人の娘さんですか?いい子ですね。」


「いえ、私の妹です。」


またか。と、思ったが今度は動揺せずにしっかり言った。


「あ、妹さんでしたか。僕もこんなにも質問されたの初めてで、ちょっとびっくりしちゃいました。」


「すみません。色々と聞いちゃったみたいで。」


「構いませんよ。むしろあれだけ色んな気はことに興味を持てるのはいいことですから。」


高校生になってから好奇心を失いつつある有翔に、刺さる言葉だった。


「まだまだ色んな動物がいますからね。楽しんで行ってください。」


飼育員は手を振って離れていった。


「あの人凄くいい人だったね。花凜も喜んでる。」


「俺たちだったら、疑問に答えられてないからね。救世主だよ。」


有翔は、花凜の前で恥をかかずにすんだと一安心。


「ちなみに、ペンギンってラテン語て太ってる。肥満って意味なんだって。」


それを聞いて絃葉は、侮蔑的な目線を有翔に向けた。


「それは知りたくなかった。花凜に言ったらダメだからね。」


「ごめんなさい。」


唯一調べないで知っていたペンギンの雑学を披露するも失敗に終わり、自業自得とはいえ絃葉の表情を見てさすがに堪えたので、素直に謝る。


「おにーちゃんどうしたの?」


心配そうに有翔に声をかける。


「どうもしないよ。塩野くんは放っておいてつぎいこっか。」


絃葉が言うと、心配は何処へ行ったのか。何事も無かったかのように手を繋いで先に歩いていってしまった。花凜に見捨てられた有翔はさらに深く落ち込んだ。


一日中動物園ではしゃいだ花凜は疲れ果てて有翔の背中で眠ってしまった。


「塩野くん。花凜のこと、ありがとね。」


「全然問題ないから大丈夫。前も言ったけど役得だしね。」


疲れ果てた花凜をおぶるという大役を任されて、今日一やる気を出していると言っても過言では無い。


「そう?それならいいんだけど...」


絃葉は、なにか気になることでもあるのか、少し俯き気味になる。


「どうかした?」


「え、なんにも無いよ。」


絃葉本人から何も無いと言われてしまえば、もう余計な詮索はできない。絃葉が言いたくないであろうことを無理やり聞き出す趣味は無いのだ。


「それにしても、今日は楽しかったね。」


有翔は話を切りかえて明るい話題を振る。


「そうだね。動物園なんて子供の頃以来だったから、想像以上にはしゃいじゃったよ。」


「あんなにテンションの高い永澄さんを見ることになるとは思わなかった。」


絃葉が、有翔に指摘されて少し恥ずかしそうにする。


「塩野くんも、ずっと花凜にデレデレしてたもんね。動物よりも花凜のこと眺めてた方が長かったんじゃない?」


「そ、そんなこと...ないだろ。」


最初こそなるべく頬の緩みを抑えようとしていた有翔だったが、途中からは隠す気もなく頬が緩みっぱなしだった。でも、花凜のことをチラチラ見ていたことがバレてると思ってなかった。


「ふふっ。嘘つくの下手くそだね。」


今度は有翔が恥ずかしい思いをした。


「上手いよりはいい。」


必死に照れ隠しをしようとするが、


「それもそうだね。嘘つくのが上手な人よりも下手な人の方が信用出来るもんね。」


どうやら、絃葉の方が一枚も二枚も上手だったらしい。有翔は為すすべも無く完敗した。

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