第4話
虎の次に花凜が興味を示したのはキリンだった。
「キリンさん。すごい。首長いね。」
初めて生で見るキリンに大興奮な花凜。辺りを見渡して何かに気がついた有翔は、花凜の肩を叩いた。
「奥の方でキリンさんの餌やり体験やってるけど、餌あげてみたい?」
「キリンさんのえさ?あげてみたい!」
有翔が花凜の手を引いて餌やり体験をやっている場所に向かう。
「すみません。まだ、キリンに餌あげれますか?」
「ええ、まだ、あげられますよ。」
飼育員に聞くと快く了承してもらえた。花凜は飼育員から餌を受け取ってキリンにあげようとしたが、背が足らなくて口まで届かなかった。
「おねーちゃん。届かないよ。」
花凜は、悲しそうに絃葉を見る。
「塩野くん。花凜のこと抱っこしてあげてくれない。私は、もう花凜のこと持ち上げられないから。」
有翔が、花凜を抱っこするチャンスを逃すはずもなく、言われるがままに有翔は、餌をあげられる高さまで花凜を抱き上げた。
「キリンさん。どーぞ。」
花凜に差し出された餌を器用に舌で受け取った。
「あははっ!すごいすごい。」
ムシャムシャと餌を食べるキリンに上機嫌に笑っている。
「永澄さんもどう?餌あげてみない。」
「私!?わ、私はあげなくても大丈夫だよ。塩野くんこそいいの?」
遠慮とかではなく本気で嫌がっている雰囲気を感じる。確かに、絃葉に限らず女子はちょっと苦手かもしれない絵面をしている。
「俺は、花凜ちゃん抱っこしてるからいい。」
当然、有翔の答えはノーだ。この幸せな時間を噛み締めたいのだ。
「そろそろ疲れたでしょ。ちょっとくらいなら変わってあげられるよ。」
「変わってくれる必要は無いよ。役得だし。」
強制するようなことでもないことだが、絃葉がここまで嫌がることを有翔は、見てみたくなった。絃葉は、観念して飼育員が手に持っている餌を受け取ろうとしたとき、
「あっ、そうだ。」
何かを思い出したような声を出した。
「写真撮らなきゃ。シャッターチャンスだよ。」
それで、有翔は全てを理解した。餌やりでニコニコな
花凜に、花凜を抱っこする有翔。こんなにも良い瞬間は無い。
「花凜。写真撮るよ。こっち向いて。」
キリンに餌をやりながら、カメラを構える絃葉の方を向いた。その瞬間を見逃さず絃葉は、シャッターを切った。
「よく撮れた?」
「いい感じ。」
上手く撮ることができたらしく、手を前に出し親指を立てた。
「えさ無くなっちゃった。」
夢中で餌をあげていたので、かなりの速さで餌が無くなった。しょぼくれる花凜をそっと下ろす。
「もうちょっとキリンさん見る?それとも、バイバイして次の子見に行く?」
「もうちょっと見てからバイバイする。」
そう決めてから、檻に近づいてじっとキリンを見つめている。
「餌あげて愛着が沸いちゃったのかな?」
「そうだと思うよ。塩野くんも花凜にデレデレしてるしね。」
「花凜ちゃん。可愛いから仕方ないでしょ。」
花凜は有翔に懐いたが、有翔も花凜にすっかり懐いているのだ。
「学校とのイメージのギャップが凄いよ。」
「そんなこと無いと思うけど...」
有翔はいまいちピンと来ない。
「いつも一人でいるし、「俺、群れるの嫌いなんで」って今にも言い出しそうな雰囲気してるから。」
群れるのが嫌いという訳では無いが、基本的に一人でいるのが好きな有翔から、そういう雰囲気を感じても不思議でない。
「そんな雰囲気だしてるつもりは無いんだけどな。でも、友達はいるよ。一人だけど。」
「え!?友達いたの?」
絃葉は、有翔の友達がいる発言に衝撃を隠せない。
「その反応はさすがに傷つくよ。」
「ごめんね。ずっと一人でいるんだもん。いないと思っちゃった。」
動揺して言い訳のつもりが、傷口に塩を塗る絃葉。
「まあ、他校だから仕方ないけどね。小学生からの付き合いなんだ。」
「長いつきあいなんだ。いい関係だね。」
有翔は、絃葉の言葉に何かの違和感を感じた気がした。少し考えに耽ってみたが、何も分からないまま花凜が来たので考えを中断した。
「キリンさんにバイバイした?」
花凜は小さくこくりと頷いた。
「じゃあ、次行こっか。」
いつも通り三人で手を繋いで、園内を歩く。少しずつ色んな動物を見ながら進んでいくと、目の前にカピバラが見えた。
「塩野くん。カピバラだよ!可愛いー!」
カピバラを見つけるや否や食いついたのは絃葉だった。こんなにテンションの上がった絃葉は学校でも見たことがなかった。
「カピバラさん?かわいい。」
花凜もカピバラを真剣に見ている。
「花凜、塩野くん、見て。温泉に入ってるよ。」
絃葉が、カピバラを見て可愛い連呼する。確かに温泉に浸かるカピバラは可愛いと思うが、有翔にとってはそこまで夢中になる程でもない。
「そうだ。写真撮らなきゃ。塩野くん。写真お願い。」
絃葉からカメラを手渡された。そのままカメラを構えて温泉に浸かるカピバラと一緒に絃葉と花凜を画角に収める。
「撮るよ。はい、チーズ。」
二人とも自然な笑顔で写真に写ったり
「どう。よく撮れてる?」
駆け寄ってきた絃葉に写真を見せると、満足気に頷いた。
「うん。可愛く撮れてるね。カピバラ。」
思わず「そっちかい!」とツッコミそうになるが堪える。
「塩野くんも撮る?」
「別にいい。」
花凜はカピバラに夢中だし、特段撮る理由もないので遠慮する。有翔が断るとそそくさとカピバラの檻の前に戻って行った。
「そっくりだな。」
カピバラを眺める絃葉と花凜の後ろ姿が似ていて思わず声が漏れる。
「何がそっくりなの?」
地獄耳と錯覚する程、耳がいい絃葉には聞かれてしまった。
「何でもない。」
有翔が言うと、興味無さそうに振り返ってカピバラを眺め出した絃葉の横に並んで、有翔もカピバラを鑑賞することにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます