第3話
結局その日は、気まずくなって直ぐに解散する運びとなった。花凜はぐずっていたが有翔と絃葉でなんとか説得できた。その代わり次は花凜の希望て動物園に行くことになった。
当日、有翔は待ち合わせ場所に向かった。そこには、待ち合わせの時間はまだ先だが、既に絃葉と花凜が有翔を待っていた。
「すまん。待たせた。」
「おにーちゃんやっと来た。」
有翔は頬を膨らませた花凜に怒られた。
「大丈夫。さっき来たところだよ。花凜が早く行きたいって言って聞かなかったの。」
「そうなんだ。」
有翔は絃葉と普通に会話ができていることに安堵する。絃葉もあまり気にしていないのかもしれない。
「おねーちゃん。おにーちゃん早く行こ!」
そう言った花凜から差し出された手を握る。反対側の手は絃葉が握っている。そのまま、花凜に歩調を合わせて歩き出す。
チケットを買って園に入場すると早速フラミンゴがいたが花梨は
「なんかくさ〜い」
と、言って興味を示さなかった。フラミンゴの檻の横を素通りして次に見えたのはパンダだった。
「パンダ!パンダかわいい!」
パンダを見てはしゃいでいる花凜を見た有翔と絃葉は、花凜の可愛さに頬が緩みそうになるのを必死で我慢する。
「花凜。」
「なーにー?」
花凜は、パンダに夢中で振り返らなかった。
「パンダと写真撮ってあげるからこっち向いて。」
絃葉が言うとすぐに振り向いた。そして、有翔の手を取った。
「おにーちゃんも一緒がいい。」
「パンダとツーショット撮らなくてもいいの?」
有翔も花凜一緒に写真に写りたかったが、花凜とパンダのツーショット写真が欲しいので、グッと我慢する。
「やだ!おにーちゃんも一緒がいい!」
手をグイグイ引っ張って可愛く駄々をこねる花凜を前に、有翔はあっさり陥落した。
「もー、しょうがないなぁ。」
最早デレデレなのを隠そうともしない。さっきから有翔頬は緩みっぱなしだ。
「それじゃあ撮るよ。はい、チーズ。」
絃葉は、花凜と有翔の間にパンダを入れてカメラに収めた。そして、絃葉は手を繋いでいるはしゃいでいる二人を見て、出会って間もないのに親子みたいだなぁと、人並みな感想を思い浮かべた。
「せっかくだし、永澄さんも花凜ちゃんと一緒に写真に写りなよ。撮ってあげる。」
「私はいいよ。遠慮しとく。」
体の前で手を振って断りを入れるも、
「おねーちゃんと一緒に撮りたいのに...」
「ごめんね。私も一緒に写真撮りたかったんだよね。」
しょぼくれる花凜には勝てなかった。有翔と絃葉は、可愛さの前には全て無力であることを身をもって体験した。
「はい、チーズ。」
有翔は、絃葉と同じ画角で二人をカメラに収めた。
「また、さっき撮った写真送ってくれない?」
「それは構わないけど...」
絃葉は、何かを考える素振りを見せる。
「けど?」
「塩野くんはすぐに花凜と仲良くなったけど、もしかしてロリコン?」
「違うよ!」
幼子に懐かれただけでロリコン扱いとは心外だと強く訴える。
「あははっ、冗談だよ。写真は送ってあげるから許してね。」
笑って軽く流される。有翔は、おこっているわけではないが、上目遣いで可愛くお願いされると許さないという選択肢が失われる。可愛いには抗えないのだ。
「なんの話ししてるの?」
パンダに夢中だった花凜が無垢に聞いた。
「花凜は可愛いねって話してたんだよ。」
一応嘘は言っていない。
「えー、おねーちゃんとおにーちゃん。二人だけで話してるのずるい。かりんも混ぜて。」
頬を膨らませて不貞腐れてしまった。
「花凜ちゃん次はあっち行こっか。トラさんがいるんだって。」
有翔が言うと、花凜は
「トラさん!」
機嫌を直し目をキラキラ輝かせて有翔がゆびを指した方向に歩き出した。有翔は、はぐれないように花凜と手を繋いだ。その反対の手を後から追いついた絃葉が繋いだ。
「トラさんだ!」
「かっけぇ。」
パンダに続いて虎にも大はしゃぎな花凜の横で有翔が小さく呟いた。虎やライオンはいくつになっても心惹かれるものがある。
「やっぱり男の子って虎とかライオンってかっこいいものなの?」
有翔の呟きが聞こえたのか絃葉が聞いた。
「そりゃあ、かっこいいでしょ。具体的に何がって聞かれたらよく分からないけどな。」
「へぇー。」
特段興味もなさそうな反応をされた。
「おねーちゃん写真とろ!三人で!」
「いいね。誰かに撮ってもらおう。」
「私はいいよ。」
ノリノリの有翔とは正反対な絃葉。
「えー、なんで?おねーちゃんと一緒がいい。」
「そうだよ。お姉ちゃんも一緒に撮ろうよ。」
花凜に便乗して可愛くおねだりをする有翔。しかし、そんな有翔を見る絃葉の視線は冷ややかだ。
「花凜は可愛いけど、塩野くんは別に可愛くないよ。写真は一緒に撮ってあげるけど...すみません。写真撮っていただいてもいいですか?」
絃葉が通りがかったおば様に声をかける。突然のお願いだったにも関わらず笑顔で了承してくれた。
「いきますよ。はい、チーズ。」
花凜を真ん中に、有翔と絃葉で花凜を挟み手を繋いで写真を撮ってもらった。
「ありがとうございます。」
花凜がおば様に向かってお礼を言う。
「あら、よくできた子ね。お二人のお子様かしら?」
花凜は褒められて満足気だ。
「いえ、私の妹です。」
「あら、そうなの?それならお二人はカップルかしら?」
「いや、あの...僕たちは学校の同級生なので、そういう関係性では無いんです。」
動揺を必死に隠しながら言った。
「お似合いだと思ったのに。」
その一言がトドメとなり、有翔と絃葉は顔を合わせると俯いた。
「初々しいしいわね。いいもの見せてもらったわ。ありがとね。」
それだけを言い残しておば様は去っていってしまった。
「おねーちゃん。おにーちゃん。何してるの?早く次行こうよ!」
花凜に言われて有翔と絃葉はハッと我に返った。
「そ、そうだね。次行こうか。」
「そ、そうね。そろそろ行かなくちゃね。」
この時ばかりは花凜に感謝せずにはいられなかった。
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