二十八話 仲良し?

 学校にはまだ生徒が大勢残っていた。その度に、悪目立ちしてしまう。

 なにより、噂になっていたことが良くなかった。「あの人が例の……」と皐月さつきといる俺の方が注目を浴びている。

 また、七海ななみはただ美少女というだけでなく、友達の多い美少女であった。ときどき友人と思わしき人に声をかけられ、なんてことが多く、学校を出るというだけで疲れてしまいそうなほど。


「ところで、デパートってどこに行くの? あんまり遠いところは流石に無理よ?」


「どこ行くかもわからないで行くって決めたの?」


「服が欲しいのは本当。それに流羽るると一緒に行きたかったの」


「そっか」


 俺は皐月さつきの言葉に照れてしまい、言葉に詰まる。それを理解してか、七海ななみが代わりにデパートについて話してくれる。「あー、あそこ。私と流羽るるの思い出の場所ね」と、どこか自慢気にそんなことを言っている。

 七海ななみ皐月さつきが二人で仲良くし話しているのを遠目に、物理的にも一歩身を引いて見守ってみることにする。

 そこでの二人の会話に耳を傾け、皐月さつき七海ななみが友達になってくれるならいいのになんて思いながら、駅を目指す。爽やかな風が吹いていた。


 二人はいがみ合い、デパートに到着した。

 俺は一つため息をついてから、二人の仲裁のために会話に参加することにする。


「服を見に行くんじゃなかったの?」


「そうなんだけどね、さっき皐月さつきちゃんが──」


皐月さつきちゃん言うな。茅野かやのと呼んでと言ったはずよ」


 七海ななみは一瞬呆れたような目で皐月さつき一瞥いちべつして、俺は皐月さつきなだめる。

 七海ななみは少々怒りのこもった様子で話しだす。


茅野かやのちゃんが、さっきデパートが思い出の場所って言ったから、その理由聞いて、それなら学校が私と流羽るるちゃんの思い出の場所だねって言ったらさ、私も学校は思い出の場所だけど? とか言ってくるの」


 それがどうしたんだよ。

 他愛のなさすぎる会話にどこかほっとする。

 しかし、なぜそれだけで電車に乗っている間はあんなに静かだったのに、デパートに来るまでの間でここまでヒートアップできるのだろうか。仲が悪いのか良いのかわからないもうわからなくなってくる。


「とにかく、私のが流羽るるちゃんと仲が良いって話!」


「はっ? だから私のがって言ってるでしょ」


「私のが付き合いは長いんだよ」


「ほんの数ヶ月だけでしょ?」


「数ヶ月も、ね」


 またもやヒートアップしだす二人に、俺は嫌な予感を覚える。

 だから、先手を打つことにした。


「とりあえず、二人とも頭を冷やそう。ほら、服を買いに行くって話だったし」


 そう言って二人の背中を押しながら強引にデパートの中に押し込み、案内板の前まで連れていく。そこそこ大きなデパートなだけあって、大手の衣料品店二つとも入っている。そこに行こうと俺が歩き出そうとすると、七海ななみに呼び止められた。


「そっちじゃないよ、流羽るるちゃん」


「えっ?」


「ほら、こっち」


 さっきまでの七海ななみはどこへやら、俺の手を取ると別のところに連れていかれる。


「ちょっと、待ちなさい!」


 そんな声を背に、七海ななみは楽しそうな様子で歩みを進めていく。

 ほどなくして着いたのは大手のとこは別の衣料品店。


「待ちなさいって」


「待ってるよ?」


「そういうことじゃないのよ」


 皐月さつきは置いてけぼりにされたのが癪なのか、ギリギリといった様子で七海ななみを睨んでいる。


「もう高校生だし、こういうとこに来てみたかったんだ」


 そう言って置いてある洋服を見だす。

 皐月さつきと顔を見合わせてから、同じように服を見てみることに。いくつか見ていると、いいなというものが一つ見つかる。

 そこで値段を確認してみると、思ったよりというか大手のとこよりも明らかに値の張る金額に「ひっ」と声が漏れてしまう。

 ああ、これは。バイトを探そうかな。

 そう感じてしまうには十分であった。


流羽るるちゃんはなにかいいのあった?」


「あ、ああ。うん。あったよ」


「どれどれ」


 ちょうど手元にあった白いワンピースを七海ななみを確認する。

 それは無地の、特に飾りのついてない簡素なワンピースだ。それでもワンポイントとばかりに小さなリボンが一つだけついている。

 可愛いすぎない、それでも女の子らしさが残るようなワンピース。

 しかし、今の俺には手持ちがない。本を買い、ファミレスで夜ごはんを食べるぐらいで、これを買うには足りない。

 そんな俺の思考など知らぬ彼女は、耳元で囁くようにこんなことを言うのだった。


睦月むつきくんって、こういうのが好きなんだぁ」


 甘いその言葉に一瞬、頭が真っ白になり、意識を持っていかれそうになる。しかし、彼女のニコッとした笑顔が意識を繋ぎ止めた。

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