二十五話 脱衣 2
空き教室にバサッという音が響き、彼女がスカートを脱いだのだとわかる。
ん、スカート?
よく考えても、脱ぐ理由がない。
「なんでスカートを脱いでるんだ?」
「ひゃっ」
「いや、ごめん。でも、手元にスカートがなくて」
「あっ、ごめん。渡し忘れてたみたい」
そう言って、パタパタと歩く音とともに程なくしてそれを差し出される。
「手元にスカートがあったからつい脱いじゃった」
そのまま再度「ごめんね」と言うとパタパタと音が聞こえてくる。それから無音の教室に響くのは外部から漏れる雑音と、布の擦れる音にスカートのチャックの音で、少し意識するだけでもドキドキしてしまう。
振り向けば、そこには着替えている
昨日来た時よりも、スカートは少し腰回りが大きいというか緩い。胸のとこも詰め物をしているのに、少し緩い? 気がする。
「準備できたかな?」
「ごめん、あとメイクだけさせて」
そう言って俺は彼女と向かい合う。いつもの
そこから軽くではあるが、短時間でパパっとメイクを済ませる。
脱いだ服を片付け、立ち上がり俺は目の間の彼女と向き合う。
「どうかな?」
俺が男だと知った上で、初めて他人に見られるその姿に、まだ否定されないかとドキドキしている自分がいる。引かれるんじゃないかと、そう考えてしまう自分がいる。
自分を好きになれる自分の姿を否定されたくないと願う自分がいる。
「うーん、少し胸は窮屈かな。スカートはなんかきついけどね」
どこかどんよりとしたその言葉に、違和感を覚える。俺は、自分の姿を聞いたつもりだった。けど、その答えでは自分のこと、
「どういうこと?」
「そのままの意味だよ。
「えっと、どういうこと?」
「あー、ごめん。今の忘れてくれる?」
可愛いらしい笑顔とともにそういう彼女に、一瞬見惚れてしまう。しかし、すぐに冷静になる。制服を借りた?
俺が知る限り、それが意味する現状とはつまり、俺の持ってきた制服は
それなら俺が着てるのは、一体──。
「ばっちりかわいいと思うよ!」
「あ、うん、ありがとう。それで──」
「凄い! 声まで女の子らしくできるんだ」
露骨に話を逸らされる。しかし、さすがにスルーするわけにはいかない。だって、もしさっきのことが本当なら、俺が今着てるのは、さっきまで
そう思うと、制服から甘い香りというか、花の匂いというか、いい匂いがしてくる気がする。なにより、鼓動はより一層早鐘を打つようで、体が熱く硬直する。
「制服のこと──」
「その、この後なんだけどね?」
「制服!」
「わっ! 大きな声だね」
「ねぇ」
「うぅ。はい」
どうしても逃げれられないと悟ったのか、観念したように俯き、ちんまりとする。しかし、特になにか話そうとしない。仕方ないので、俺から口を開くことにした。
「制服のことだけど、借りたってどういうこと?」
「そのままの意味です」
罪悪感は感じているのか、しゅんとした様子でそう答える。
そう言われれば、違和感は最初からあった。最初にスカートを脱いだこと。渡すのを忘れてたと言っていたが、これが確信犯であったとするなら納得はいく。俺が持ってきたスカートを穿くために、自分の穿いてたスカートを脱いだ。
そうであれば、俺の制服を借りたというのと辻褄があう。正確には俺の制服ではなく、俺の姉の制服ではあるんだけど。この際ややこしいので、それはどこかに置いておくとして。
「なんで黙ってそんなことしたの?」
「えっと、その」
「言えないようなこと?」
「うー。……きだから。
「?」
全く理解できない。俺の着ていたものに包まれていたいとか、そういうことだろうか。しかし、そうであるならバレたときのリスクが高すぎる。普通であれば不快感を感じてもおかしくないようなことだ。
「私の制服を着たら
納得できてないことを察してか、彼女はそう口にする。そう言われて少しだけ、理解する。なにより、これはこうだから成り立つのだ。逆であれば関係が断たれることになるのだろう。
なにより、
これは、客観的に見てもそうだ。不快感を感じる要素が少ない。全く、ズルい。
「それだけ?」
「うっ。……
「少し?」
「ほとんどそれ目的でした」
「正直でよろしい」
「それで、私はドキドキしてるんだけど、
そう言って近づいてくる彼女は制服と同じ甘い花の香りが、けど、制服とは比にならない濃厚さで鼻腔をくすぐる。
それだけで、俺はもうドキドキだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます