二十三話 女装 2
沈黙が場を支配し、それは俺にとって永遠とも思える時間で、考えをまとめるのには十分な時間だった。
俺は意を決して彼女に問いかけることにする。
「なんで? なんで、女装してるって知ってるの」
「やっぱりあれは
その言葉に改めて頭が真っ白になる。
口ぶり、態度から知ってると判断をしたのは俺だ。実際、知ってるとも言ったから。
「かまをかけるようなこと言ってごめんなさい。でも、どうしても気になって」
「気になる?」
「朝、メイド服を着た
「そうだね」
そのときの俺と昨日の女装した俺が繋がったのだと思った。
「遠くから見かけただけだから確信があったわけじゃないんだ。だから、あのあと
「ちょっと待って。
「え、あっ、うん。そうなるのかな?」
視線を背け、そっぽを向く彼女の態度はなにか隠し事でもあるかのような、後ろめたいことがあるかのような反応である。
「私の話は今は置いといて、そのメイド服を着た
「それで聞いてみたの?」
「はい。だから、女装してたってのは本当は知らなくて。だから、ごめんなさい」
謝罪をする
それに知られてしまった以上、隠すことはできない。できることと言えば、他の人にこのことを漏らさないようにすることだけ。
「とりあえず、他の人にはこのことを話さないで」
「うん。私と
「まあ、そうなるのか」
なんとも照れくさい表現に、なんとも言えないむずがゆさを感じる。それは
「あ、あの、それで、
「俺にできることだったら」
「えっとね。その、今から女装してもらいたいなって」
「女装?」
なぜ女装して欲しいのだろうか。
いや、もともと
「あーうん。その、今は持ってなくて──」
「私のを貸すよ?」
食い気味だ。いつもの
それだけじゃない。目がぐるぐるしてるような、そんな感じがする。
「えっと、道具とかもなくて──」
「それも私のがあるから! というか、持ってるよね?」
「えっと、どうしてそう思うの?」
「毎日持ってるし。それに、ないとしたら制服ぐらいでしょ? ないのはお姉さんのを借りてるからだろうし、それなら私のをぜひ」
「ちょちょちょ、ちょっと待ってね。なんでそこまで知ってるの?」
情報量の多さに頭を抱えたくなる。というか、ちょっと怖い。
しかし、よく考えれば彼女は俺のことが好きなのだ。隙あらば俺のことを落とそうと、そして俺のことを知ろうとしてきてもおかしくはない。そうして徐々に情報を仕入れていった。
でも、それならなんで制服のことまで? 女装していることはさっき知ったということだった。もしかしてそれすらもブラフ?
考えれば考えるほど頭がパンクしてくる。
「ふふふ、なぜでしょう」
「それで、女装はしてもらえるのかな?」
「えっと、できればお断り──」
「えっ……」
なんと表現するのが正しいのか、彼女の言葉は拒絶とも、悲しみともとれるものだった。深い闇と言っても差し支えない。
よくよく考えれば、俺は
「ふーん。
「いや、えっと、その……」
「それなら女装のこと話そうかな。
明確な敵意。
どす黒い闇。
いつもの
しかし、今はそんなことはどうでもいい。だって、俺が取るべき行動は決まってるのだから。
「……する」
「ん?」
「女装する」
「よかった」
満面の笑みでそう言う彼女はいつもの
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