二十二話 女装
「そんじゃ、部活行くわ」
「あ、ああ。また明日」
「おう。じゃあな」
そう言って、
そこで、何者かの気配を感じ、パッと振り返る。
「ひゃっ!」
「……
驚いた表情の
「なにしてるんだ?」
「いつものように目隠しでもしようと思って。……どうしてわかったの?」
「なんとなく。てか、先にごめんなさいでは?」
「うう、ごめんなさい」
しゅんとしながらもちゃんと謝ってくれる
「それでなんのようだ?」
「朝、言ったでしょ?」
その言葉に、なぜか背筋が凍るような思いをする。なんて言葉のないはずなのに。
ただ、要件はそれだけで伝わった。
「だからここで待ってたんじゃないの?」
「いや、ぼうっとしてただけ。
「そうなんだ」
彼女はそれだけ言い、考える素振りを見せると「ついてきて」と言って歩き出した。俺も、急いで準備を済ませ、彼女の背を追いかける。
しばらく歩いたところで、空き教室の中に俺たちは入る。一息ついたところで、沈黙が場を支配する。
彼女が話を持ち掛けてきたのは朝、
しかし、
というか、
考えがまとまった俺は、意を決して口を開く。
「なぁ、なんで二人で話がしたかったんだ? 告白なら──」
「本当にわからないの?」
「告白じゃないのか?」
分かっていることから整理して考えついたのは、メイド服を着た俺も好きだという告白。
それが真面目なものであることを意識させるために、場所や雰囲気を大事にしたい、なによりこういうことは二人きりでするものというイメージもある。
なにより、彼女は俺のことが好きだ。自惚れでも、自意識過剰なんかでもなく、それはもう痛いほど知っている。いつ再度告白をしてもおかしくはないし、タイミングさえあれば好きだって何度も言うことだろう。
だから、また告白しようとしているのでは? と思っていたが、反応から考えるにどうやら違うらしい。
「私、吹奏楽部なんだよね」
突拍子もないその発言。なにか意図があるのだろうが、全くわからない。
吹奏楽部とこの状況、そしてメイド服。
どこをどうつなげようと思っても繋がらない。とりあえず、当たり障りのないことを返すことにする。
「そうなんだ。楽器を聞いても?」
「トランペットだよ」
金管楽器でも目立つその楽器。普段の彼女を考えれば少し意外で、強気な楽器。
しかしその言葉に、どことなく既視感を覚えた。最近どこかで聞いたような。
肌にべったりとまとわりつくような嫌な予感。どうしようもない不安が体を支配する。
「
「いや、あんまり」
「そうなの? ちょっと意外かも」
「
「そうだね。まあ、ご想像通りクラシックも聞くけど、アニソンとかJ-POPも聞くよ」
「アニソンとかも聞くのか」
またもや意外だった。
しかし、順当に考えればそこにおかしなことなど一つもない。吹奏楽部で演奏する機会だってあるだろう。そうすれば自然とそういう曲を聞く機会も増える。
俺も昔はよく曲を聞いていた。
そのときの俺は自分のことが嫌いで、そんな自分も嫌いで、どうしていいのかがわからなかった。だから、少しでも気を紛らわせるために曲を聞いた。
明るい曲は気持ちを明るくさせ、静かな曲は気持ちを落ち着かせ。そうしてるうちに色んな曲を聞いた。
でも、今はあんまり触れていない。
曲を聞く必要がなくなったから。女装をすることで、今は自分を少しでも肯定できている。その結果、気を紛らわせる必要がなくなった。
まあ、たまには聞くこともあるが、その程度。
そんなことを考えていると、
その行動に、これから本音を本題を話すのだと無条件で理解する。
「私ね。
「やっぱり告白?」
無言で首を振る
しかし、不安は何一つ消えない。ただ増すばかりだ。
きっと、頭では理解しているのだ。このあとのことを。それでも、その理解を拒んでいる。
「だから、私は
「なんでも?」
「そう、なんでも。例えば──」
そこで言葉を区切って笑顔を見せる彼女。なにやら曲を口ずさむ。
それは昨日聞いたトランペットの音色。聞き間違える方が難しいような目立つ音色。それだけに、俺の記憶に焼き付いていた。思い出してしまった。
なにより、そのときの俺は女装していた。初めて着た制服に、簡易的な髪型。
その姿を誰かに見られていた。その数は多くないにしろ、一定数いる。
その一人に
けど、それはまだ確定していない。 直接確認されたわけでもない。
まだ、どうにかなるかもしれない。
そんな希望も、彼女の次の言葉でついえた。
「
頭が真っ白になるような、なにをしても溺れてしまいそうなその一言に、これが絶望かと冷静に思考する自分がいる。
なにを言うべきか、言葉一つ見つからない。ただ、運命を委ねることしかできない。
だって、全てがバレてしまった。このことがみんなに知られれば、きっとこの学校での俺の居場所なんてない。
なにより、
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