三章 弱みを握られた俺は、放課後、休日にデートする
二十一話 メイド美少女
夜ごはんを食べに食卓へ向かうと、母が珍しく拗ねていた。どうやら、父が珍しく残業で帰宅が遅くなるかららしい。
俺としても、両親が喧嘩してるより、イチャイチャしてくれてた方がマシだ。姉は少しは落ち着いて欲しいらしいが。
そんないつもと違う夜を過ごしたのだった。
いつもより早く目が覚めた。
制服に袖を通す。普段俺が着てるものだ。一応という形で鞄にはスカート等の女子用の制服も入れてある。
もちろん、鞄の奥底に。
いつもと同じように準備をし、姉と一緒に家を出る。そうしていつものように学校についた。
教室に入ると、いつもと違いクラスはざわめき立っている。いつもより早く来たせいか、
まあ、どうせすぐ来るだろう。
「誰でしょう?」
そう言って、俺の視界は塞がれる。既視感あるその状況と、彼女の声ですぐに誰かわかる。
「
「ざんねーん。正解はあなたの愛しの
そのまま彼女は抱きついてくる。そのせいで女の子特有の柔らかな膨らみをふんわりと感じる。
「どうしたの?」
「それはこっちのセリフだな。クラスだって違うんだから」
あまり動揺してることを悟れないよう、努めて冷静な声を出す。
先日とは違って、クラスメイトの男衆から殺意の籠った視線は感じない。それよりも、他のことで話は持ち切りといった様子だ。
「それはもちろん──」
そこで言葉を区切り、息を吸う。十分に溜めて彼女から紡がれたのは、
「
どうでもいいことだった。
「そういや、今日ってなにかあったのか?」
「もー、つれないんだから」
「それで?」
頬を少し膨らませ、ぷくーとしたのち、彼女は語り出す。
「昨日、孤高のお姫様がなにやらかわいい女の子と一緒にいたって噂がね。お胸は慎ましかったらしいよ?」
慎ましいとか言った奴、どこのどいつだ? と、言いそうになるも、なんとかこらえる。そもそも、そんなことはどうでもいいことだ。
それより、問題は噂の方だ。いつ、どこで見られていたのか。
いや、学校という場である以上、常に見られていてもおかしくない。けど、それだけの理由で噂にまでなるだろうか。
「その美少女を見たって人がほとんどいなくてね。それで、一目見ておきたいと話が広がってるみたい」
「そういうもんなのか?」
「
「……ん、まあ」
なんと答えるべきか悩み、苦い表情をしながらそう答える。
だって、それは俺が女装した姿なのだから。
「それにしても、一日でそんなに噂って広がるものなのか?」
「それは、たぶんお姫様、
「なんで? なにか関係あるのか?」
「彼女、入学式から今まで、一度も誰かと一緒にいることなんてなかったから。そんな子が急に誰かといたとなると、広まるのも早いんじゃない?」
その言葉に、一応納得する。そういうことなら、人が興味を引くのは理解できる。
「それに、彼女って美少女だし。まあ、私もかなりかわいいと思うけどね?」
間接的に「どう?」と聞いてきてるオーラというか、圧を感じる。
まあ、かわいいのは認めるけど。
「ところで、
「んっ、誰を?」
「皐月に一緒にいたって子」
「それは──」
「
「なんでそんな残念そうなんだよ」
「べつにー」
「私としても……」
「えっ、俺もしかして歓迎されてない?」
ちょっとしゅんとした様子で自分の席に荷物を置き、着席する。
それからしばらくスマホとにらめっこしてたと思うと、急に口を開いた。
「しっかし、この騒ぎようはなんなんだ?」
「お前が振られたって言ってたお姫様が美少女と一緒にいたかららしい」
「それマジ? ちょっと、その美少女紹介してくれね?」
「お前、女子だったら誰でもいいのかよ」
俺は呆れたようにそう言うも、心の中ではそれ俺だし、男なんだけどなと思う。
しかし、これだけ美少女として噂になっていると、嬉しいような嬉しくないような微妙な気持ちになる。
というのも、女装してる俺としてはきっと嬉しいのだ。だけど、男の、一人の男としての俺は嬉しくない。今まではただただ辟易するだけだった自分の容姿だが、こうして少しは変化があった。
気持ちとしては微妙でも、いつかは好きな自分が見つかるかもしれない。そう思えるだけの変化だ。
「そうだ!」
「なんだよ、急に大声出して」
なにか忘れていたことを思い出したような
「美少女で思い出したんだけど、
「これって……」
まじまじと見せつける
「そんなもの消しとけ」
一言そう言うも、俺も確認してしまう。
けど、それは間違いなく俺で、美少女だと見間違えるだけのことはあった。今よりも化粧は出来てないし、少し顔立ちも幼く見える。
そして、なによりとてもイヤそうな顔をしている。
「てか、美少女で思い出したってことは、俺のことを美少女だと思ってるのか?」
「んー、ちがっ──いや?」
違うと否定しようとして、考え出す。なにを想像しているかは考えたくない。
「女装してるお前、ありだな」
「想像させるな気持ち悪い」
俺と
そこでハッとしたような顔をした
「あとで二人きりで話がしたい」
「それって──」
答えは聞かず、
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