二章 独りぼっちのお姫様

十一話 日常とお熱いカップル?

 気怠げかつ、憂鬱な朝日とともに目を覚まし、休日が終わったことを知り、さらに鬱になる。

 そんな月曜日の朝、高校の制服を見にまとい感じたのは、ただの違和感だった。いや、違和感だけじゃなく、不快感。

 自分という存在が不快だった。

 鏡を見て、自分を見て、それでも自分を否定できない自分という存在が、俺は否が応でも好きになれない。

 こんなことで、自分を好きになれる日が来るのかと、情けないことに卑屈になりながらも、扉の外からの声で思考を打ち切ることにした。


「そろそろ、いいかな?」


「うん」


「それじゃ行こっか? 途中まで、だけど……」


「そこからは彼氏と仲良く登校するわけか」


「うぅ……。お母さんには絶対に言わないでよ?」


 姉はため息を一つこぼすと、「めんどくさいんだから」と付け加えるようにそう言う。俺はテキトーにクビを縦に振り、鞄を持って部屋を出た。


 皐月と会った日から今日まで、起床してる時間のほとんどを彼女との連絡に持ってかれた。あのあと、帰宅すると既に何件か連絡がきていて、それを返信すると即既読。

 そのせいで、休日なのに普通に寝不足に陥る羽目になった。

 けど、彼女とのやりとり自体は楽しかった。普段しないことだからというのもあるかもしれないが、一番は自分という存在を忘れられたからかもしれない。

 あの日の楽しい記憶、それを鮮明に思い出せたから。

 そんなことを思い返していると、電車が大きく揺れる。

 今は姉と一緒に電車に乗り、高校へと登校中。どうせ、駅を降りたら別れることになるだろう。なんてたって、姉には彼氏がいるのだから。

 ほんと、お熱いことだ。

 少々余談になるが、彼氏にはちゃんとプレゼントを渡し、喜んでもらえたらしい。嬉しそうに教えてくれた。俺としてもそれなら一安心である。

 彼氏のことを母に伝えたのか聞いたら、イヤそうな顔をされたが。


「えっと、その、駅で……」


「待ち合わせしてるんだ」


「そうなんだけど、そうもハッキリ言われると恥ずかしい」


 さすが俺の姉だ。かわいい。

 そんなバカなことを思ってる間に高校の最寄り駅に着いてしまう。


「今日からは一人で登校か」


「別に、お姉ちゃんと一緒がいいって言ってくれるなら、一緒でもいいけど?」


「それじゃ、俺も友達が待ってるから」


「ちょっ!」


 別に待ち合わせなどしていない。些細な、姉と別れるためのウソ。

 高校に上がってから友達はできた。しかし、友達と言ってもそれは表面的なもので、深いところでは繋がっていない。

 中学のころからそれは変わっていない。

 俺はどこかで線を引き、壁を作って、ある一定のラインを超えて仲良くしようという人を寄せつけないようにしてる。これは自意識的なものでなく、無意識的に行われている。

 だって、そうしないと自分を守れないから。自分を知られ過ぎて、弱点が露呈して、そうしてもいじめという形で答えが呈される。

 そうだとしても、輪から外れれば、和を乱したとしていじめられる。

 めんどくさいしがらみ以上の理不尽がこの世界には存在してる。だから、選択の一つ一つを慎重にならざるを得ない。

 告白を断ったのもきっと、そういうことなんだ。

 ぼんやりと駅で足を止め、人を待ってみることにすると、姉が彼氏と合流してるのを確認できる。そこでちょっとイジワルをしたくなる。

 姉に気づかれないように、彼氏にも気づかれないように。ゆっくり、そろりそろりと近づいていく。

 まさに、それはシノビシノビさながらだった。声は出してないが。


「お義兄にいさん、おはようございます」


「誰っ!」


 姉の彼氏は、俺がそう声をかけると、驚いたように後ろに振り向く。


「弟の流羽睦月ながれはむつきです」


「ああ」


 姉も驚愕の表情を浮かべながら、なにしてんのと目で物語っていた。

 少しやり過ぎたかと思うも、すぐにそうではないことを理解した。


「すいません、お邪魔でしたよね」


「そ、そういうわけじゃないんだよ?」


 どこか取り乱したように答えたのは姉の方で、姉はちゃっかり彼氏の手を離してる。


「ちょっとご挨拶にと思っただけですのでお構いなく」


 そう言って去ろうとすると、今度は俺が声をかけられた。


睦月むつきくん、朝からカップルの邪魔はよくないよ?」

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