閑話 満喫

 とりあえず、彼女はご満悦な表情でマンゴーのソフトクリームを手にしている。俺はと言えば、なにも持っていない。


「あれ、流羽るるはいいの?」


「えっ、あー、うん」


「?」


 俺の行動が理解できなかったのか、困惑した表情を浮かべる。しかし、そんなこともマンゴーのソフトクリームの前には気に留めることでもないのか、そのまま一口二口と、美味しそうに食べている。


「そう言えば、皐月さつき


「なに?」


「お腹空いてないって言ってたよね」


「? それがどうしたの」


 なにが言いたいの? そう言わんばかりの彼女に、俺は一言こう発した。


「それじゃ、そのソフトクリーム少し手伝ってあげるよ」


「そんな手伝いいらないわよ!」


「でも、お腹空いてないんだよね?」


「甘いものは別腹って言うでしょ」


「まあ、そう言わず、ね?」


「あっ!」


 そこでなにかに気づくように、彼女はそう声をあげる。俺はその隙に、彼女が持つマンゴーのソフトクリームを一かじりする。


「あっ、なにするのよ! てか、最初からそれが目的だったんでしょ?」


「せいかい」


 俺は笑顔で答える。

 そうは言っても、もとより一口しか食べるつもりもない。


「まったく。そう言ってくれれば普通にあげたのに」


皐月さつき、ウソはよくないよ」


「へっ?」


皐月さつきの顔には絶対にあげないから、って書いてあったからね」


「私、そんな表情してたの……?」


 恥ずかしさからか、彼女はサーッと顔を赤く染める。けど、すぐさま何事もなかったようにソフトクリームを食べ出す。


「なんか、口の中の辛さが引いた気がする」


「気がするんじゃなくて、実際引いてるんだよ」


「そうなの?」


「一応、辛いもの食べたあとは、牛乳飲むと口の中の辛さが和らぐって言われてるよ」


「へぇ、そうなのね」


「てか、まだうどんの七味の辛さ残ってたんだ」


「あれ、結構辛かったわよ?」


 どれだけ七味入れてるの? と、言いたげだが、それは無視する。

 とりあえず、彼女が辛いものが苦手とだけ記憶することにした。


「もうソフトクリームはいいの?」


「うん。一口だけ味が気になっただけだから。それに、間接キスの回数増えそうだしね」


「唾液舐めてるのになに言ってるの?」


「……そうなんだけど」


 そう言われては仕方ない。だって、間接キスとかそういう次元にない話なんだから。

 彼女がソフトクリームに舌鼓したづつみを打っている間に、俺は姉の連絡先を確認する。そして、『彼には渡せたの?』それだけの文を記入し、送りつける。

 それから数秒待ってみるも、まだ既読はつかない。

 今も彼とよろしくやってるということかな、なんて密かに思いつつスマホの画面を閉じる。

 もしキスしようというタイミングで邪魔をしてしまったとしたら、少々申し訳ない。これ以上の邪魔をしないためにも、一旦放っておくことにする。


「あー、美味しかったわ」


「よかったね」


 彼女もソフトクリームを食べ終わったようで、満足したという顔である。


「それじゃ、このあとはどこに行く?」


「そうだね──」


 ◇◇◇


 それから、時間まで彼女とショッピングをしたり、ゲーセンに行ったり、一緒にプリとやらを撮ったり、そっちも満喫した。

 そろそろ日も落ちるというタイミング、俺は彼女と連絡先を交換する。


「また時間が合ったら──」


「いつでも連絡して」


 俺がそう言うと、彼女は満面の笑みで「うんっ!」と答える。

 彼女と別れると、俺は姉に合流しようとスマホを開くと、姉から遅れるから先に帰っててと連絡がきていた。

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