子爵令嬢プリシラ

 両親は手のひらを返したように、幼いプリシラに見向きもしなくなった。プリシラは屋敷の中でいない者として扱われた。


 だが姉のエスメラルダだけはプリシラを守ってくれた。両親に意見し、プリシラへの態度を改めるよう、進言をしてくれた。しかし両親の気持ちは変わらなかった。


 プリシラを守ってくれるのはエスメラルダだけだった。エスメラルダは十三歳になると魔法学校に行かなければならなくなった。


 プリシラはこれから起こる自身の境遇に恐れ、姉に泣きついた。


「お姉さまがいなくなったら、私ひとりぼっちになってしまう。ねぇ、お姉さま、魔法学校へは行かないで?私を一人にしないで?」


 姉のエスメラルダは怖い顔で答えた。


「いい事、プリシラ。よく聞きなさい。わたくしは魔法学校に行かなければいけないの。それは、わたくしがまだ子供だから。自分の意思ではどうする事もできないの。プリシラ、お前は風魔法の訓練をしなさい。わたくしよりも、お父さまよりもお母さまよりも風魔法をうまくなりなさい」

「風魔法が上手になれば、お父さまもお母さまも私に振り向いてくれるかしら?」

「お父さまとお母さまは関係ない!いい、プリシラ。貴女は誰のためでもない、自分のために風魔法を訓練をするの。それが必ずプリシラの自信になり、プリシラの助けになるわ!」

「私には無理だわ。だって私はお姉さまと違って出来損ないだもの」

「出来損ないなんかじゃない!」


 プリシラはエスメラルダの突然の大声に驚いた。エスメラルダは怖い顔で言った。


「いい?プリシラ。わたくしはとても優秀な魔女よ。そのわたくしの妹が出来損ないなんかなわけないじゃない!プリシラは誰よりも強い風魔法の使い手になるの!さぁ、言葉に出して宣言しなさい!」


 プリシラはエスメラルダの剣幕に驚いてしまった。エスメラルダはとても怒っていた。それと同じくらい、エスメラルダは泣きそうな顔をしていた。プリシラはエスメラルダの気迫に押されて口を開いた。


「私は、誰よりも強い風魔法のエレメント使いになります」

「その言葉、きもに命じて生きなさい」


 エスメラルダはホウッと身体の力を抜くと、プリシラを優しく抱きしめた。


 その後すぐにエスメラルダは魔法学校に入学し、プリシラは一人になった。姉との約束、風魔法の訓練をひたすら続けた。


 誰も教えてくれる人がいなかったので、すべて試行錯誤だった。風魔法の訓練は、孤独なプリシラに、集中する時間を与えてくれた。

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